お出かけ
日曜の朝こそ、早く起きなければいけない、なんて言う人もいる。が、初瀬はあんまり早起きするタイプではない。これまでは、せいぜい、8時台に起きるのが精一杯であった。日曜日の朝から練習があるクラブに所属したこともない。特に、必要がなかったのである。
昨日も経験したので、目覚めると横に咲楽が立っていることには、驚かなくなった。時計は午前8時30分を指している。
「おはようございます、殿様。早速ですが、お召し物です。」
と、咲楽がうやうやしく服を手渡す。
「あ、どうも。おはようございます。」
寝間着を脱ぎかけたところで、真面目くさった表情で横に控えている咲楽に、初瀬は顔を向けた。
「会長、着替えは一人でしますからね。朝くらい、のんびりしていてください。」
「御意。」
やや残念そうに、咲楽は静かに部屋を出た。咲楽に渡された服は、私服だった。
(今日は、お出かけか――)
どこに行こうか。寝起きの頭で、初瀬は考える。
高校に入ってからというもの、日曜日は完全に休養日だった。たまに、草野球部の試合が、あったくらいである。出かけるときは、たいがい一人か、藤原、忠空といった友人と出かけてきた。
(考えてみれば、女の子と出かけるのなんて、初めてなんじゃ……)
そう考えると、急に気恥ずかしさがこみあげてきた。初瀬は、頭を1回、2回と振りながら、着替えを終え、部屋を出た。
リビング兼ダイニングの居間に降りると、咲楽が一人で控えていた。初瀬の両親の経営する平岩亭は朝9時に開店するため、既に食事を済ませているのである。
「ささ、殿様、こちらへ。」
「ありがとうございます。」
実家で、咲楽に食事の世話をされるというのは新鮮であった。テーブルには、サンドウィッチにスクランブルエッグ、サラダ、コーヒーなどが綺麗に並んでいる。母親の相子が用意する朝食は、和食が多いため、咲楽が作ったのだとすぐに推測が付いた。
「会長に作ってもらえるとは。ありがとうございます。」
「とんでもございません。お口に合えばよろしいのですが。」
口に合うもなにも、サンドウィッチからして、一つ一つ具を変えた凝りようであったし、味も文句のつけようがない。それを素直に初瀬が伝えると、咲楽は顔を赤くして、
「も、もったいないお言葉。痛み入ります。」
と、両腕を体の前でクロスさせ、もじもじと体をよじった。
(なにこれかわいい)
「それはそれとして、会長。これからの予定ですが。服を見に、出かけようかと。」
「はい。どこなりと、お供いたします。」
「あ、会長もよかったら、自分の買い物をしてくださいね。」
初瀬の言葉を聞いた途端、咲楽は、きょとんとした表情を浮かべた。
「はて。殿様の買い物にお供しますのに、私が物を買っては、趣旨が異なってしまうではありませぬか。」
「会長、そんな固いことは言わずに。ほら、一緒に楽しんだ方が、いいじゃないですか。」
「そ、そうでしょうか? 私は、そのようなことを教わって育っておりませんので……」
うつむいたまま、何やらごちゃごちゃと独り言をつぶやく咲楽を後押しする意味で、初瀬は、咲楽に笑顔を向けた。
「さあ、食事も終わりましたし、出かけましょう! 今日はいい天気ですよ。」
午前10時。初瀬と咲楽は、京都市の繁華街の四条河原町もほど近い、アーケードの商店街にまで出てきた。ここまで来れば、遊びも買い物も、かなり選択肢が広がる。
「会長、このあたりで遊ぶことは?」
「百貨店で服を買いに来ることはありますが、あまり遊ぶ、ということは……」
この数日の電波っぷりで、初瀬もすっかり忘れていたが、もともと、咲楽はセレブと表現してもいい家に育っている。デパートでいい物を買っていても、全くおかしくはないのである。
「じゃあ、あんまりそれ以外で遊ぶ、ということはなさそうですね。」
「はい。市歌……副会長と、本屋などに一緒に来ることはありますが、そんなには……」
努めて平静を保っていたが、咲楽の私服姿というのは、ここ数日でも初めてであった。半袖のカットソーにフレアスカートという清楚ないで立ちが、咲楽の上品さを際立たせている。こんな美人と一緒に歩いて、意識するなという方が、無理というものだ。実際、通りすがりの男が何人も、咲楽を振り返って見ていた。
初瀬は、なんだかふわふわとしたまま、歩いていた。
「――――さま、殿様!」
「あ、すみません、少し、ぼーとしていたみたいで。」
「だいぶ歩きましたが、まだ進みますか?」
気づけば、アーケードの始まりから、かなり南下していた。大きなカニの看板も見えている。カラオケ屋なども近くにいくつかあるが――
「映画でも行きます?」
初瀬の言葉に、咲楽は眼を丸くした。
そういえば、この作品、京都が舞台なんですが、これまではっきり出ていませんでしたね。
京都は地元ですので、これからも、ベタなところやマニアックなところなど、出していければと思います。




