土曜日の昼食
「というわけで、会長が草野球部の練習に来るそうだ」
「ごめん、全然わからん」
「そうだよ。だいたい、昨日の説明をしてもらってないよ。」
土曜日の授業前。既に、昼休みが待ち遠しいという、週末独特の雰囲気が教室に満ち始めている。
初瀬は、自分の机に体を投げ出していた。彼の机の前に、クラスメートの藤原俊と、平忠空が立っている。
昨日、初瀬の周囲に人だかりができたときのような混乱は収まったが、まだ教室中から注目されているのが分かる。
(そういえば、学校でどうごまかすか、考えてなかったな。)
「いやあ、実は、何て言うか、その、昨日から生徒会の役員になってな。」
「ほう。それはまた……、せ、生徒会の役員だとーー?」
藤原の口が空いたまま、閉まらなくなった。
「う、うん。だから、会長とも割としゃべるようになって、だな。」
「ちょい待ちなさい。生徒会の役員になったからって、どうして、あんなに会長がデレるのよ。」
忠空が半眼で初瀬を見やる。まるっきり、初瀬の言葉を信じていないようだ。
「ま、まあ。それは。」
「まあ、いいじゃねえの。人それぞれだぜ。」
藤原が、初瀬の右肩を軽く叩いた。
「それより、残念だが、会長の練習を見るのはお預けだ。今日は、練習はお休みだとさ。今朝、メールが回ってきてたじゃないか。」
「あ、ごめん。そうだっけ……」
今朝はそれどころじゃなかったから、という言葉を飲み込み、初瀬は頭を搔いた。
「どうやら、例の件、長引くみたいでな。」
「そうなの? 練習再開に影響が出ないといいけど。」
藤原と忠空の話を聞いて、初瀬は、草野球部にもいろいろと課題が山積みであることを思い出した。実は、草野球部の予算申請の件は、その後、咲楽の家臣騒ぎでうやむやになっているため、まだ、草野球部のメンバーに伝えられていない。予算の件までもめ出したら、果たしてこのまま活動が継続できるのか、と、初瀬は気が重くなった。
そして、放課後。4時間目が終わり、どうしたものかと思っていたところ、咲楽がいつの間にか背後に立っていた。
「初瀬殿。お迎えに上がりました。」
昨日の騒ぎの後、「オロシ様」は勘弁してくれ、と頼み込んだ結果、初瀬の呼び方は「初瀬殿」に落ち着いている。それ自体も、先輩からの呼称としては十分おかしいが、「オロシ様」よりはマシかと思い、そのままになっていた。
初瀬は、急に声をかけられたために飛び上がりそうになるのを抑えながら、振り向いた。
「会長、草野球部の練習ですが。」
「心得ております。本日は中止、と。」
「あれ、言いましたっけ。」
「先ほど、教室で仰っておられたではありませんか。」
初瀬は、朝の教室に咲楽はいなかったのではと思ったが、答えが怖くて、突っ込むのを止めた。
「では、先にお昼ご飯にいたしましょう。ご足労になりますが、本日も屋上でよろしいでしょうか?」
「はい。仰せのとおりに……」
少なくとも、教室でお弁当を広げられて、公開処刑状態になるのだけは避けたかったため、初瀬はおとなしく咲楽に付き従った。もちろん、教室中の注目を集めまくっていたが、それはそれ、である。
「まずは、栄養バランスを考え、野菜からお召し上がりください。」
「はい」
「次は煮物です。」
「はい」
「次に、卵焼きです。少し味を薄めにするのがお好きでしたね。」
「は、はい」
「鶏の唐揚げと、豚の生姜炒めも少しずつ作ってみました。」
「会長、ちょっといいですか?」
「? 何でしょう? お口に会いませんでしたか?」
咲楽は、お重になった弁当箱から、料理を取り分ける手を止めた。首をかしげて、初瀬を見る。
「そもそも、いつ、お弁当を作ったんですか?」
今朝は、初瀬の家に泊まっていたので、調理をする場所も時間もなかったはずだ。
「ああ、そのことでしたか。もちろん、殿様のお宅をお借りしました。」
「あ、そうですか……」
割とあっさりと解決した。
「でも、どうして、俺の好みを?」
「もちろん、御前様にお聞きしました。お口に合いましたでしょうか?」
上目遣いに初瀬を見上げるその表情は、とんでもなく可愛い。
(いやいや、騙されてはダメだ。もともとの発想が、電波さんなんだから―)
初瀬は、軽く頭を振ると、咲楽に笑いかけた。
「大丈夫です。ありがとうございます。それより、会長も一緒に食べましょう。」
「はい。ご一緒させていただきます。」
咲楽は、とても嬉しそうに微笑んだ。
このままの関係で、ずっといけるのか。初瀬は、咲楽との今後を考ると、若干の懸念を覚えざるをえなかった。
少し空いてしまいましたが、続編です。土曜日の扱いは、学校によって違うと思うので、難しいですね。一応、この学園の設定は、昼まで授業があることにしています。




