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押しかけ家臣

「それで、生徒会に入ったのか。よかったじゃないか、おろし。」

「そうよ、なかなか入れないって言ってたじゃない。これも、咲楽ちゃんのおかげねー」

「とんでもない。恐悦至極にございます。」

 笑顔の初瀬三蔵と初瀬相子―初瀬颪の両親―に向かって、咲楽は真面目な顔で、恭しく頭を下げる。一見、穏やかな夕食の光景である。

 初瀬家の居間は、喫茶店の奥にある。お店が午後7時まで空いているため、後片付けをして、午後8時を過ぎてから、家族全員で食卓を囲むこととなっている。初瀬は一人っ子なので、いつも、両親と初瀬の3人で和やかに食事をしている。――はずだったのだが。

「いやいやおかしいでしょ。どうして、何気なく、会長が晩御飯を食べるとるんや。」

「あらあら、もう忘れちゃったの? 咲楽ちゃんが、家臣の一族だって、昨日説明されたばっかりじゃない。」

 たしなめるような顔をした相子に、初瀬は、頭を抱えた。

「さすがに覚えとるわ! そうじゃなくて。仮に、だ。家臣だったとしても、いや、それはそれで色々言いたいことがあるが……」

御前様ごぜんさま。殿様は、家臣である私が、同じ食卓を囲むことの非礼をご指摘されたのでしょう。大変失礼しました。」

「やーだ、おろちゃん、亭主関白! いや、この場合、殿様関白かなー」

 相子は、笑いながら、右手で初瀬の背中をぺしぺし叩いた。初瀬は、あさっての方向に向かう会話に我慢できず、声を荒げて、二人を制する。

「ええ加減、話を聞かんかい! まず、家臣だったとしても、だ。何でさりげなく、会長が家に来て、一緒に晩御飯食べとるんや。」

「なんだ颪、嫌だったのか?」

 優雅にワインを傾けながら、三蔵がつぶやく。

「殿様、そうなのですか?」

「あ、嫌とかそういうのでは……」

 咲楽の悲しそうな顔を見ることができず、初瀬は慌てて取り繕う。

「殿様、昨日、お聞きしましたよね。桜間家で生活されるか、と。」

「いや昨日は、なんかもっと不穏当な言葉だった気が……」

 初瀬が覚えている正確なやりとりは、次のようなものであった。


『殿様、この家に、いくらでも部屋を準備いたします。ここで生活なさいませ。』

『いや、自分の家があるのに、意味がよく――』

『この家を、今はなき春島城の代わりとしていただき、お家再興の足掛かりとされるのです!』

 なお。最後は、権蔵の言葉である。


「結局、殿様は、「家で生活するので、いいです。」とお断りになられた。なんと謙虚なお言葉でしょうか。」

(そりゃ、さすがに怖くて住めないわな、あれは)

 昨日の話の段階では、咲楽と権蔵が超絶電波っぷりを発揮した直後であったので、そこに住むなど、論外であった。

「殿様が桜間の家にお住まいになられない。ということは、すなわち、私が初瀬家に赴き、主家のお世話をいたすしかない、と。」

「どうやったら、話がつながるんだ……。大体、会長も若い女性ですよ、ご両親が、そんなこと」

「父に相談したら、「ぜひそうしなさい。むしろ、いろいろ頑張れ」、と。」

「いや、「色々」の意味が分かりません。」

 そうこうしているうちに、いつの間にか、両親が夕食を片付け始めていた。両親は、初瀬の背後から、両肩をたたく。

「まあ、何でもいいじゃないか。咲楽さんも、しばらくして、合わなければ、家に帰られるだろうし。」

「こんな可愛い女の子が一緒に住んでくれるなんて、もう一生ないかもしれないわよ。せっかくのチャンスなんだし」

「お気遣い、痛みいります。」

「まあ、実害ないなら、俺は……」

「あ、咲楽ちゃんの寝る部屋だけど、物置にしている部屋が片付いてないから、とりあえず、おろちゃんと同じ部屋でいい?」

「なんと、初日から、そのような光栄なこと……」

「前言撤回する! 実害ありまくりだよ‼」

 結局、初瀬が必死で部屋を片付けたので、咲楽は何とか元物置部屋で寝泊まりすることになったのであった。

「御前様」というのは、今回は、咲楽が、初瀬のお母さんに向かって使った敬称です。男性のえらい方に使うこともあるようですが、貴人の奥さんに使うことがあるようなので、今回はこの呼び方にしてみました。時代劇じゃないのに、けっこう人の呼び方が難しいですね。

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