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生徒会のお仕事

「改めて、挨拶するね。あたし、春日しゅんにち市歌いちか。よろしくねー」

 市歌は、斜め下から初瀬を見上げた。首をかしげるその動作が妙になまめかしく、初瀬は、目を合わせることができなかった。

「副会長、先ほどから言っているとおり、初瀬殿は、我が家にとって大事なお方。くれぐれも、失礼のないようにな。」

「はーい。分かってるわよ。サクラの大事なハツセ君を取ったりしないわよ。…たぶん。」

「なっ! そういう意味で言ったのではない! しかも、最後の言葉は何だ!」

(この人、会長より上手うわてかも)

 どうやら、咲楽は、市歌にうまくコントロールされているらしい。


「さて、生徒会の紹介がまだでしたな。」

「うん、私たちが、ばっちり紹介するよー」

「ど、どうも。」

 いずれにしても、断るという選択肢は存在しないらしい。昨日から、急展開で様々なことが進んでいるが、生徒会に入ることには、特に異論はない。それどころか、初瀬が、もともと希望していたことでもある。

 考えてみれば、会長と副会長が直々にというのは、ありがたい話である。他の生徒では、たとえ望んでも叶わぬことなのだから。

「じゃあまず、生徒会の活動からね。生徒会の仕事は――」


 市歌の説明によれば、生徒会の仕事は、主に、三つに分けられる、ということである。一つには、会計。学校から与えられた予算を、クラブやその他学校活動に配分する。これが一番の大仕事である。二つ目には、学校側との協議や、学校行事の際の挨拶、生徒会から生徒への通達など、対内的な活動。三つ目として、対外活動。これは、他校や他団体との交流が当てはまる。

「会計の業務は、割と時期が限られるからね。ちょうど今は予算が忙しい時期だけど、普段は、そこまで忙しいわけでもないのよ。むしろ、2番目の学校内部の用事の方がメインになるわね。」

「会計については、担当者から改めて説明させよう。そういえば、メイ君はどうしたのか。」

「今日は、職員室に予算の相談に行ってるわ。例の問題の協議にね。」

「ああ、そうだったな。」

 咲楽は、厳しい表情で市歌の言葉に頷く。が、すぐに、初瀬に笑いかける。

「申し訳ありません。こちらの話で。」

 と、咲楽は、思い出したかのように、

「そうでした。初瀬殿の草野球部の予算もありましたね。もちろん、通しておくとして、大幅な増額を――いや、ここは思い切って予備費を使って――」

「いやいや、会長! 昨日と全然言ってることが違うじゃないですか。そんな恣意的な予算の使い方をしてもいいんですか!」

 よく考えれば、草野球部の予算が増えることは、初瀬にとって望ましいことのはずである。ただ、どんどん迷走する咲楽を止めることに意識が行っていた。

「こら、サクラ。慌てないの。ハツセ君、困ってるでしょ。」

 冗談めかして、市歌は、後ろから咲楽の右腕に触れた。

(?)

 初瀬には、市歌が、苦笑したのではなく、表情を曇らせていたように見えた。ただ、一瞬のことだったので、気のせいかもしれなかったが――

「これは失礼。いずれにしても、予算の件は、改めて説明させていただきます。」

「はあ。」

「それと、学校活動関係はね、例えば、こんなのが来てるよ。」

 市歌は、初瀬に2つのチラシを見せた。

「教職員による、消しゴムハンコのコンテスト?」

「あ、そっちは、教職員のボツ企画ね。たまに、絶対やっても意味なさそうな企画が持ち込まれるの。」

 教職員が腕組みをして並んでいる、無駄に力の入ったチラシを、市歌は、初瀬の手から奪い去り、ゴミ箱に投げ捨てた。

 もう一枚は――

「こちらは、学校行事への協力要請ですな。近いところでは、10月に予定されている体育祭と文化祭に、挨拶したり、来賓に挨拶をしたり、という話が来ております。」

 そちらは、まともそうな用件であった。

「ハツセ君、体育祭の開会式の挨拶でもしてみる?」

「ええー、それはさすがに……」

「冗談よー。でも、人前でしゃべることも出てくると思うけど、こういうのは、慣れだからね。」

「その点については、その通りですな。初めから演説のうまい人間など、むしろ少数かと。」

「はい。」

 人生の先達のお言葉、ありがたく聞いておく。


「さあ、今日はこれくらいにして、帰りましょうか。」

「うむ、そうするか。」

 戸締りをして、3人で校門に向かう。時刻は4時を過ぎ、練習をしていた運動部も、片づけに入っている。

「じゃあ、あたしはここで。お二人さん、お幸せにねー」

「意味が分からぬが、また明日な。」

「失礼します。」

 電車かバスの時間があるのか、市歌は、大通りにさっさと向かってしまった。

 あとには、自転車に乗った初瀬と咲楽が残された。

「では、帰りますか。」

「はい……って、会長。会長の家って、西の方だったのでは?」

「ですが、殿様のお宅は、こちらでしょうに。」

「まさか、うちに来るってわけじゃないでしょうね……」

 くそ真面目に、咲良は頷く。

「何をおっしゃるのですか。主君のお世話をするのが、家臣の務めです。」

「ということは……」

「もちろん、これからは、主君のお宅に寝泊まりし、お世話をさせていただきます。」

「やっぱりーー!」

 一難去ってまた一難、であった。

生徒会の仕事って、小説やアニメでは、なんとなくすごそうなことをやってますが、案外、現実世界では、もっと地味なものかもしれませんね(実際すごい、という学校の方がいらっしゃったら、申し訳ありません)。

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