悪鬼を隠せ
食屍鬼色の顔の血塗れの悪鬼が、笑った。
人肉を吐き出した口が、綺麗な弧を描いた。
その笑顔が、あまりにも完全に『人間』だったので
(人間だ!)
俺はとつぜん正気を取り戻した。
この人、人間だ。
変だけど。
自分が変だとわからないほど変だけど!
ものすごく、
(変なだけの、人間だ!!)
周囲の様子を確かめる。
◆E級冒険者タルク・イナ
◆人間・男性・18歳
◆所属:C級パーティ『イナの稲妻』(まだ)
◆15歳で冒険者を志し、3年間ターシャの町の冒険者ギルドを中心に経験を積む。
3年住んだ、勝手知ったる町。突然現れた血塗れの騎士に周囲はパニックだ。
でもこの小路は要所でもメイン通りでもなく。
通り合わせた一般人が逃げ出すターン。
衛兵や冒険者が駆けつけるまで
(時間がある!)
◆アライメント:善
転移魔法で飛んできただけの可能性を考えつつ、
それにしては、装備にしろ、態度にしろ、あまりにもトンチキだ。
考えうる、最も確かなスジは
「……異世界転移者!」
この西ナーロス王国には、古来から異世界より勇者が召喚されることがある。
転移者なら、衛兵に保護される。
というか、捕まる。
というか、牢に入れられる。
その前に、道路に吐き出された人肉について。
絶対揉める。
「どこだ!」「裏だぞ!」
衛兵の声が聞こえる。
もう自棄だった。
俺のできるベストを。
全力でするしかない!
◆ユニークスキル【化粧】
◆戦闘スキル・一般人並
◆メイン職種:荷物持ち
左手でリュックから毛布を引き出し、同時に右手に水筒とガーゼを準備する。
【化粧】スキル
lv.1基本技術
『 身 だ し な み ! !』
そして。
静かな呼吸2回の後
「お前!」
衛兵2人が俺達に声をかけてぎょっとなり
「い、いえ、みなさまかたがた……」
なんか急に敬語出した。
「何ぞ?」
悪鬼だった男は偉そうに胸をはった。
実際、お忍びの貴人にしか見えなかった。
涼しい瞳。流れるような黒髪。健康的な色の肌。
3年つかいこんだ冒険用の毛布に身をくるんで立ってるだけなのに。
(クソッ、イケオジってズルいな!)
さっきまで会った全員、悲鳴上げて逃げてたのに。
空になった水筒から雫がしたたり、血糊をぬぐったガーゼは地に落ちている。
「モンスターならもう俺達が戦った後だよ」
俺も偉そうに胸をはる。
「なんと、もう勝利なさいされましたと?!」
衛兵の視線がドロップする魔石を探しだしたので
「逃げたよ」
しれっと町の外を指さしてやる。
「おお!ありがたきご協力!まことにありがとうございますでする!!」
衛兵達は俺一人ならぜったいしないような立派な敬礼をして去ったもんだから
「がははははは!!」
さすがに俺は笑い転げた。
「いやあ、思った以上に上手くごまかせたな!それであんた……」
鬼人あらため貴人となった転移者に向き直る。
「名前は……たしか……ヨシモトさん?」
「無礼者!」
秒で平手打ち。
「御屋形様と呼べい!!!」
吹っ飛ばされた俺の意識はそこで途切れた。




