表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/27

5話 王立魔法研究院

 王立魔法研究院は王都の中央に位置している。背には王宮、正面には王立騎士団の本部が建っていた。


「初めまして。王立騎士団団長のカイル・ルクシオンと申します。本日はよろしくお願いします」


カイルはいつものように少女を抱き上げたまま、そう会釈して見せた。


「初めまして〜!王立魔法研究院主席魔法師のセドリックだよ。こちらこそ、よろしくね」


にこやかな笑顔でそう告げると、紫色のローブを羽織った主席魔法師のセドリックは、研究室をキョロキョロと見回している少女へ一歩近づき視線を合わせた。


「ほう、この小さなお嬢さんが迷子なんだね?」


セドリックが首を傾げると、少女もつられて首を傾げて見せる。その素直な反応に、くす、とセドリックは笑った。屈強な騎士団長であるカイルが随分と少女を溺愛している様子に、「なるほど、確かに素直で可愛いわ」とセドリックは内心納得しつつ、テーブルに置いてある球体を手に取り、少女の前へと差し出した。


「これは魔力水晶と言って、特殊な魔法陣が球体の中に刻まれているんだ。これに魔法師と調査する相手が手を触れると、魔法師の魔力を通して調査相手の記憶を覗くことができる。本来はスパイや敵国の捕虜、犯罪者の尋問に使われる方法だけど害はないし、今回は侯爵閣下からの直々の依頼だから特例としてこのお嬢さんの記憶を確認させてもらうね?」


迷子の少女の正式な後見人として父である侯爵が、保護者としてカイルが既に公的手続きを済ませていた。神妙な面持ちのカイルへとそう説明すると、セドリックは水晶へと掌を当てがう。少女もちらりとカイルの表情を確認すると、光を放っている水晶へとそっと掌を添えた。


パァアッと一瞬、強い光を放った後、水晶に少女の記憶の断片が映画のコマ送りのように浮かび上がる。

水晶に映し出された光景に、カイルは思わず息を止めた。そこに映ったのは、自分たちの国には存在しない巨大な建物が立ち並ぶ街だった。 石造りの城壁でも、魔法による灯りでもない。見たこともない素材で作られた高層の建物。 さらに、小さな箱のような乗り物が道を走り、夜でも街全体が昼間のように明るく照らされている。


「……魔法ではないのか?」


思わず呟いたカイルだったが、水晶の中の少女はそれを当然のものとして受け入れていた。 そして次に映ったのは、大きな眼鏡を掛けた少女が大量の書物に囲まれ、何かを調べている姿だった。 


 幼い印象の今とは違う、知性に満ちた表情。目の前の少女が、自分たちの知らない世界を知る存在なのだと、カイルは初めて理解した。


 しかし、驚いているのはカイルだけではなかった。セドリックもまた、これまで見たことのない記憶の数々に興味を隠せない様子で、水晶へ意識を集中させていた。 水晶に映し出される光景は、セドリックが長年研究してきた魔法の常識を遥かに超えていた。彼が知るどの国にも存在しない技術、文明、そして知識。その一つひとつが、研究者としての好奇心を強く刺激していた。

 

 セドリックはふうっと重苦しく息を吐き出すと、カイルと少女を備え付けのソファへと座るように促した。


 カイルは少女を守るように抱き上げたまま、ソファへと腰を下ろした。 先程まで、ただ迷子になった異国の少女だと思っていた。 しかし、今見た映像はあまりにも現実離れしていた。言葉が通じない理由。見たこともない文明。 そして、幼い少女の姿をしていながら高度な知識を持つ存在。目の前にいる少女が、一体何者なのか。考えれば考えるほど疑問は増えていく。


 それでも、カイルの中で変わらないものが一つだけあった。この少女がどこの誰であろうと、初めて出会った時に感じた小さな体の冷たさと、怯えながらも必死に周囲を理解しようとしていた姿を忘れることはない。 例え異なる世界の住人だったとしても、今この瞬間、彼女は自分が守るべき存在なのだ。


 魔法師見習いを呼び、ティーセットを用意させると一口紅茶を飲んでから、セドリックは早速、少女の記憶の断片から読み取った情報の説明を始めた。


「まず、侯爵閣下から事前に伺っていた内容の通り、このお嬢さんは高度な教育を受けていた。しかも、周囲の環境を見る限り高位貴族の可能性が高い。何故なら、このお嬢さんの記憶には毎日血の滲むような勉強をした記録が残っているからだ。しかも、この部屋のように何かを研究する設備も持っていたよ。ただね、その場所が問題なんだ。お嬢さんの記憶の断片を隅々まで確認したけど、公用語さえ全く不明だった上に、見たこともない文明が発展していたということだね」


セドリックの話を聞きながら、カイルの表情がどんどん険しくなっていく。


「…見たこともない文明って、一体何だろうな…」


驚愕しているカイルに、セドリックは「そこだよね、問題は」と深く頷いて見せた。


「何度かお嬢さんの記憶を捲ってみたけど、僕たちが使うような魔法に関するものは出て来なかったんだ。少なくとも魔法書や杖、魔法陣やスクロールといった道具が見つかるはずなんだけど、それも無かった。ただ、もう一つ気になる点があるんだけど、カイル騎士団長、このお嬢さんは普段、眼鏡を掛けていたりするかい?」


セドリックの問いに、カイルは「いいや」と首を振る。


「然程重要じゃないかもしれないけど、このお嬢さんは少なくともカイル騎士団長が思っているようなお子様ではないね。記憶の断片を見た限り、大きな眼鏡を掛けて大量の本を読みながら何かを研究していたよ…、お子様にしては博識過ぎるし、白いローブのような物を羽織っている姿は今と印象が違って見える。イメージ的には僕と同じ研究者ってところかな」


セドリックの分析に、カイルは絶句してしまう。


「……えっ、単なる子どもじゃなくて、未成年だけど学生くらいってことか?! しかも、研究って…!」


カイルの声に驚いたのか、少女は大きな瞳をさらに見開き、カイルを見上げていた。


セドリックは腰が抜けそうになっているカイルと、状況が読めずにきょとんとしている少女を見比べて、ニヤリと癖のある笑みを浮かべた。


「まぁ、このお嬢さんの記憶には非常に興味深い情報がたくさんあってね。もし良かったら今回限りじゃなくて、定期的に記憶の整理に来ないかい?悪いようにはしないからさ。それに、一日でも早く言語の習得ができるように、僕もサポートするよ」


未だ信じられない様子でマジマジと少女を見つめているカイルは、セドリックからの思いがけない提案に

暫く考え込むように目線を下げると、意を決したように顔を上げ「頼む」とセドリックに向かって頭を下げた。


 こうして、少女は王立魔法研究院主席魔法師セドリックの協力のもと、未知なる文明から来た存在として、新たな道を歩み始めることとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ