番外編② 中身が入れ替わってしまった!?(IF)
ん……何か重い。
……重い?
俺が重いと感じるほどの重量って何だ?
まさか、岩でも落ちてきているんじゃないだろうな――!
そう思って勢いよく起き上がった……つもりだった。
だが、目を開けた瞬間、そこには俺の顔があった。
「……?」
数秒間、思考が完全に停止する。
目の前では、俺自身が気持ちよさそうに寝息を立てていた。
……いや、何だこの状況。
妙にリアルな自分が眠っている光景は、正直かなり不気味だ。
恐る恐る目の前の"俺"に手を伸ばす。
その瞬間、視界に映ったのは細く白い指先だった。
小さな爪。
華奢な手。
見慣れた、愛する妻・ローラの手。
自分の身体を見下ろした俺は、ようやく現実を理解する。
「うわああああああっ!!」
気づけば、部屋中に響き渡るほどの悲鳴を上げていた。
「……ん、おはようございます……? カイル様……?」
聞き慣れたはずの低い声が響く。
目の前の"俺"が眠そうに目を擦りながらこちらを見つめていた。
「あれ……私……?」
その一言で、二人の動きがぴたりと止まる。
数秒後――
「きゃああああああっ!!」
野太い悲鳴が部屋中に響き渡る。
「わああああああっ!!」
今度は甲高い悲鳴が重なった。
二人の悲鳴は見事なほど綺麗に重なり合った。
「カイル様!」
「ローラ!」
「一体どうなってるんだ!?」
「ふえぇぇぇん……! カイル様ぁ……! 私にも分かりません……!」
……野太い声で情けなく泣かれるのは、何とも言えず気持ち悪い。
「……ローラ。とりあえず、一旦落ち着こう」
互いに深呼吸を繰り返しながら、俺たちはベッドの上で向かい合って座り、現在の状況を確認し始めた。
「それにしても、ローラ。お前の視界は……何というか、不思議だな」
自分の姿をしたローラが困ったように笑う。
「こうして向かい合って座っていると、俺の胸板しか見えない。見上げてばかりいると首が痛くなりそうだ……」
すると、俺の姿をしたローラがくすりと笑った。
「ふふ。私も同じことを考えていました」
そう言って、自分の大きな手をしげしげと眺める。
「カイル様の身体って、とても大きいんですね。視界も広いですし、掌もこんなに大きい……。何でも掴めてしまいそうです」
嬉しそうに指を動かしながら、ローラは目を輝かせる。
「格好いいカイル様の姿を体験できるなんて、そうありませんもの」
そんな無邪気な笑顔を見ていると、ローラの身体で過ごすのも悪くない……そんな気さえしてきた。
幸い今日は休暇だ。
焦っても仕方がない。
二人でゆっくり原因を探ることにした。
――そう。
その時の俺は、まだ甘く考えていた。
ローラの姿になってからというもの、予想外の苦労が次々と襲いかかってきたのだから。
まず最初の難関は――身支度だった。
「若奥様。本日は旦那様とお出かけされると伺いましたので、少し華やかにドレスアップされてはいかがでしょう?」
(……ドレスアップって何だ?)
頭の中が真っ白になる。
「あ……ああ。任せる」
いつもの調子で返事をした瞬間、専属メイドの動きがぴたりと止まった。
「……どうかしたか?」
不思議に思って尋ねると、メイドは困ったように首を傾げる。
「若奥様……本日は、いつもとご様子が違うようですが……何かございましたか?」
その言葉に、俺ははっと息を呑んだ。
(しまった……!)
今の俺は、ローラだった。
慌てて鏡の前で笑顔を作る。
「お、おほほ……。何でもありませんわ。身支度はお任せします」
……駄目だ。
どう考えてもローラの話し方ではない。
それでも今さら引き返すこともできず、俺は冷や汗をかきながら、専属メイドに身支度を任せるしかなかった。




