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14話 聖騎士団との共闘

 トリアント王国を出発したカイル率いる王立騎士団は、第一騎士団、第二騎士団、第三騎士団、総勢およそ八百名を率い、同盟国・神聖イカロス国への救援へと向かった。馬で陸路を進むこと二週間。


 長い行軍を終えた一行は、ようやく最前線に築かれた連合軍の野営地へと到着する。乾いた砂塵が風に舞い、鉄と血の匂いが辺りを満たしていた。その空気は、平穏な王都とはまるで別世界だった。


 当初の予想では、神聖イカロス国の聖騎士団が圧倒的な力でアルカロド帝国軍を退けるはずだった。しかし現実は違う。戦場一帯を支配する砂魔術と、絶え間なく撃ち込まれる火薬兵器。その猛攻により、聖騎士団は前線の維持だけで精一杯となり、戦況は膠着していた。


 負傷した聖騎士たちは神官による神聖魔法で傷を癒やされ、各所では壊れた防壁や結界の修復が急ピッチで進められている。その光景を一瞥したカイルは、同行してきた王立魔法院の魔法師たちへ静かに命じた。


「本拠地の結界修復を最優先で頼む」


「承知いたしました」


魔法師たちはすぐさま散開し、それぞれの持ち場へ向かっていった。絶え間なく響く槌の音と怒号が、戦場がすぐ目前にあることを物語っている。到着早々、カイルは作戦本部の天幕へ案内された。


 風に揺れる天幕の中では、大きく広げられた軍略図を囲み、各国の将校や参謀たちが険しい表情を浮かべている。赤い駒が示すのはアルカロド帝国軍の進軍経路。その先には港湾都市、そして神聖イカロス国の主都が記されていた。


「神聖イカロス国聖堂より正式な救援要請が届いております」


参謀の報告を受け、カイルは静かに軍略図へ視線を落とす。しばらく沈黙が流れた後、低く落ち着いた声が天幕に響いた。


「敵の狙いは主都ではない」


その一言に、居並ぶ参謀たちが一斉に顔を上げる。


「港だ」


「港……ですか?」


「アルカロド帝国は火薬兵器を主力とする国家だ。補給路を確保するには港の制圧が不可欠。主都への進軍は陽動に過ぎない」


天幕の空気が一変する。軍略図を見直した参謀たちは、ようやく敵軍の意図を理解した。海上では四隻の火薬戦艦が港へ迫り、陸では砂魔術師部隊が主都方面へ進軍している。敵の真の狙いは、港を制圧して補給路を断ち、一気に戦局を覆すことだった。カイルは軍略図から顔を上げ、迷いなく命令を下す。


「魔法師隊は後方支援に回れ。聖騎士団は前線の防衛を維持しろ。突破口は――我々第一騎士団が切り開く」


その言葉に、白銀の鎧を纏ったイカロス聖騎士団長が力強く頷いた。


「承知した。我らが前線を守り抜く。全軍、神聖結界を展開せよ!」


号令とともに聖騎士たちは一斉に聖剣を掲げる。純白の光が天へと伸び、巨大な神聖結界が前線一帯を包み込んだ。吹き荒れる砂嵐も、敵の砂魔術も、その光の壁に阻まれ、次々と霧散していく。


 続いて王立魔法院の魔法師たちが魔法陣を展開した。黄金色の光が戦場へ降り注ぎ、騎士たちの身体に力を与え、負傷兵たちの傷を瞬く間に癒やしていく。


 最前線にはカイル率いる第一騎士団。その後方に第二騎士団、第三騎士団が続き、さらに聖騎士団が防衛を担い、王立魔法院が広域支援を行う。


 三つの戦力が噛み合うことで、初めてアルカロド帝国軍と互角に渡り合える布陣が完成した。作戦会議を終えたカイルは、高台から戦場を見渡した。幾重にも築かれた防壁と塹壕。その先には、砂煙を巻き上げながら迫るアルカロド帝国軍が、黒い波のように地平線を埋め尽くしている。


 歩兵部隊の後方では巨大な火薬戦艦がゆっくりと砲門を開き、その両脇には砂色の外套を纏った砂魔術師団が整然と並んでいた。魔術師たちが一斉に杖を掲げた瞬間、大地が低く唸り始める。


「……あれが砂魔術か」


副官が思わず息を呑む。渦巻く砂塵は巨大な壁となり、生き物のように蠢きながら前線へ迫っていた。若い騎士たちの表情に緊張が走る。だが、カイルだけは微動だにしなかった。敵軍全体を静かに見据えたまま、落ち着いた声で兵たちへ語りかける。


「焦るな。敵は数で勝る。だからこそ隊列を乱せば、一瞬で押し潰される。それぞれが持ち場を守り、仲間を信じろ。それが勝利への最短の道だ」


その声に、兵たちの瞳から恐怖が消えていく。代わりに宿ったのは、揺るぎない覚悟だった。やがて見張りが叫ぶ。


「敵先鋒部隊、接近! 距離三千!」


その報告を合図に神聖結界はさらに輝きを増し、王立魔法院では防御魔法の詠唱が始まる。誰もが武器を握り直した。ここを突破されれば、神聖イカロス国は滅び、その先には祖国トリアント王国がある。


「必ず守り抜く」


誰に聞かせるでもなく呟き、カイルは漆黒の愛剣を静かに抜き放つ。熱風が頬を撫でた瞬間、脳裏に浮かんだのは、出陣の日にローラと交わした約束だった。


――必ず、生きて帰る。


その誓いを胸に刻んだ刹那、遠くの空へ黒煙が立ち昇る。


「……始まったか」


カイルは剣先を敵陣へ向け、高らかに号令を放った。


「全軍、配置につけ! ここからが本番だ!」


号令とともに騎士たちは一斉に駆け出す。聖騎士団の神聖魔法が空を照らし、王立魔法院の支援魔法が戦場全体を包み込む。カイル率いるトリアント王国騎士団と神聖イカロス国聖騎士団の連合軍は、アルカロド帝国軍との決戦へ向け、一斉に進軍を開始した。


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