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11話 目覚めの朝と、二人の約束

翌朝、微睡みの中でローラが目を覚ますと、そこはまだ王都迎賓館の一室だった。隣には、いつもよりどこか独占欲を滲ませた表情で自分を抱きしめるカイルの姿がある。


 極度の緊張状態だったデビュタント・ボール、そして初めて迎えた熱い夜の余韻に、ローラは頬を赤く染めながら、再び彼の胸へと顔を埋めた。


 昼過ぎになり、カイルに大切に抱き上げられて屋敷の寝室へと運ばれたローラは、安心感からか再び深い眠りに落ちていた。


 カイルとローラを王都迎賓館へと送り届けた御者からいきさつを聞いていた執事のハドソンは、カイルがついに覚悟を決めたのだろうと予想していた。


 王都に屋敷を構えているカイルが、敢えて屋敷に戻らず、男女が長い夜を共に過ごす目的でも利用される迎賓館に宿泊したこと。それこそが「心に決めた特別な相手がいる」という明確な意思表示であり、誰にも口を挟ませる気はないという強烈な牽制でもあった。


 カイル自身は無自覚かもしれないが、屋敷の使用人達は、ようやく双方が望んでいたであろう関係に一歩踏み込んだことに、一同胸を撫で下ろしていた。真面目且つ朴念仁なあの旦那様が、ついに覚悟を公にしたのだ。ハドソンは二人が帰宅した際に少しでもリラックスして過ごせるよう、早朝から万全の準備を整えて出迎えたのだった。


「ハドソン、手が空いたら俺の執務室へ来てくれないか」


「畏まりました」


ローラを寝室へ休ませたカイルは、湯浴みを済ませると、まずはその日の夜のためにある準備を整えた。それからハドソンを呼び、これからの段取りについて静かに、だが確固たる口調で指示を出した。


 その日の夕食後。騎士団から帰宅したカイルは、いつの間にか「二人で使用する」ように整えられた寝室へとローラを伴った。

 高級なワインのボトルとグラスがセットされたテーブルを前に、ソファへと腰を落ち着けている。ローラがこの寝室へと通された時から、どことなく室内の空気には緊張感が漂っていた。よく見ると、ローラがいつも温室から摘んできてくれる花が、小さな花瓶に愛らしく飾られていた。


「ローラ……」


カイルは真摯な瞳でローラを見つめると、一つのジュエリーケースを差し出した。


「俺は、お前を生涯愛する事を誓う。お前がどこの国の誰であろうとも、この身が砕け散るその日まで、全身全霊を持ってお前だけを愛すると誓う。だからどうか、俺の伴侶になってくれないか?」


ローラは驚いたようにカイルを見つめ、差し出された指輪へと視線を落とす。それは歴史と伝統を感じさせる、侯爵家の家門が入ったケースだった。カイルが本気で、生涯の妻として自分を求愛していることが痛いほど伝わってくる。


「離したくないんだ。お前のことを、誰にも渡したくない。どうか、俺だけの物になってくれないか、絶対に幸せにするから……」


懇願するようにそう囁くカイルの声に、ローラは眉根を寄せると僅かに息を飲んだ。


「……本当に、私で宜しいのですか……?私は、何も持っていないというのに……、どこの国の者とも素性の知れない私を、伴侶だと言ってくださるのですか……」


ぽつ、ぽつと頬を濡らす涙が美しくて、カイルはローラの涙の跡へと優しく唇を寄せた。


「ああ、構わない。お前がどこの誰だったとしても、俺はお前しか考えられない。あの夜、お前に触れた時、既に覚悟を決めていた。これからどんな困難が訪れるか分からない。それでも、ローラ、俺の隣で笑っていてほしい」


真摯な言葉に、ローラは細い溜息を吐いた。目の前にいるカイルという男は、ローラが今まで出会ったどんな男とも違っていた。いつも暖かな陽射しのような笑顔で見つめてくれて、その力強い腕は驚くほど優しい。それでいて、愛を囁く時は、この身の全てが燃えてしまいそうな程、熱い想いを伝えて来るのだ。


 いくらでも条件の良い相手がいるはずの彼が、こうして真っ直ぐに愛情を伝えてくれている。その事実が、ローラの不安を綺麗に打ち消していく。ローラは溢れんばかりの喜びに、涙を止めることが出来なかった。メテオリア王国の王族として生まれ、科学と錬金術の研究に身を捧げていた過去。誰にも理解されずに、ただ一人、凍えてしまいそうな孤独の中で国のために研究を続けていた日々には、誰かと幸せを分かち合う居場所など存在していなかった。


 喩えこの手を取ることが許されなかったとしても、ローラは、その身を全て捧げると誓ってくれたカイルの手を取らずにはいられなかった。震える声で、心からの愛情を伝える。


「……はい……っ。どうか、これからも……あなたのお傍にいさせてください……。私も、生涯、カイル様だけを愛すると誓います……」


「ありがとう、ローラ。必ず幸せにする」


侯爵家の女主人に代々受け継がれる指輪を受け取り、ローラは幸せそうに微笑んだ。その笑顔を見たカイルは、自分の決断が間違いではなかったと深く実感し、愛おしくてならない華奢な肩を強く抱き締めた。二人は、兄妹という仮初めの関係を終え、生涯を共に歩む伴侶としてお互いの幸せを願う関係へと変化した。


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