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輪外討伐戦線 ~宇宙人を信じていたら、宇宙パワーを手にした俺は~  作者: 弓藤千人


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第9話 輪外討伐装備 -神衣-

「そうよ。いい? よく見てなさい。これが人類の――ARKの戦い方よ」


そう言うと、凪は自身の人差し指に嵌めた、鈍く光る銀色の指輪を親指で弾くようにスライドした。

……だが、何が起こったのか、七星にはさっぱりわからなかった。

凪の立ち姿にも、見た目の変化は特に見られなかったからだ。


「どう? わかる?」


自信満々に問いかける凪に対し、七星は困惑を隠せず、ただ首を横に振る。


「……いえ、特に何も。指輪を触っただけに見えますが」


「――っ、鈍いわね! しょうがないわね、言葉で説明するより見せた方が早いわ」


凪は苛立たしげに吐き捨てると、あろうことか、着ていた上着のボタンに手をかけ、そのまま服を脱ぎ始めた。


「な、何してるんですか……っ!?」


慌てて目を逸らし、両手で顔を覆う七星。

だが、背後から聞こえてきたのは、色気を含んだ吐息などではなく、機械が噛み合うような、冷たく硬質な音だった。


「……何、赤くなってんのよ。変な想像しないで。ほら、ちゃんと見なさい」


凪の声に促され、指の隙間から恐る恐る視線を向けた七星。

そこで彼が目にしたのは、少女の柔らかな肌ではなく、背中から肩、そして腕にかけて、皮膚に直接「埋め込まれた」かのように張り巡らされた、無機質な銀色の鎧だった。


「これがARKが開発した装備――身体強化外骨格の『神衣(かむい)』よ。私たちはね、こうやって自分の体を装備で覆って、初めて輪外と対等に立てるの」


七星は、ただただ呆然と立ち尽くしていた。

22世紀――自分たちが生きる時代の科学は、これほどまでに、人知を超えた領域にまで到達していたのか。


「……その、指輪が……起動のための装置なんですか?」


問いかける七星。

凪は、鈍く銀色に輝くスーツに身を包んだまま、満足げに頷いた。


「そうよ。この指輪に一定の圧力を加えることが、神衣カムイ起動のトリガーなの。スーツ自体には最新のナノテクノロジーが採用されているから、わざわざ着替える必要もない。起動すれば、私の筋肉の動きや体型に合わせて、勝手に最適な形で密着していくわ」


凪が軽く肩を回すと、彼女の動きに合わせてナノ粒子が流動的に形状を変えた。

それはもはや衣類ではなく、持ち主の意思と直結した「第二の皮膚」だった。


「……ナノテクノロジー……。だから、あんなに薄いのに、あれほどの衝撃に耐えられるんですね」


「そうよ。これを装着してないと、あんたの本気の逃げに追いつくどころか、その余波の衝撃波にすら耐えられない。……人間なんて、所詮そんなものよ。だけどね、七星。人間の一番の強みは『知恵』なのよ」


薄く、けれど強靭な銀色の皮膚を撫でながら、凪はどこか誇らしげに胸を張った。


「……凪さん。俺を追っていた時、急に力が何倍にも膨れ上がったように感じました。あれは、一体何なんですか?」


昨夜の逃走劇。

背後から迫るプレッシャーが、ある瞬間を境に爆発的に増大したあの感覚。

凪はふん、と鼻を鳴らし、再び人差し指のリングへと手を伸ばした。


「あれは、『抉抜けつばつ』と言ってね。簡単に言えば、自分が引き出せる限界値を一気に解放することよ。……ずっと最大出力じゃ、装置も肉体も保たないでしょ?人によって出せる倍率には個人差もあるしね」


そう言うと、凪はリングの表面を小刻みに二回叩いた。

すると、空間に淡いブルーのホログラムが浮かび上がり、彼女の神衣出力に関するデータが映し出された。



【ARK第一部隊:宮野凪】

・神衣出力特性

 ・MAX:20倍

 ・AVG:5倍

・異能 『圧圏』



「……これが私のデータ。あんま他人に見せない方がいい秘密なんだからね! 感謝してよね!」


凪は少し顔を背けながら、空中に浮かぶ青いホログラムを指し示した。

そこには、彼女の生命活動と直結した、ARK第一部隊としての「戦闘規格」が刻まれている。


「……なるほど。この『MAX』が限界の最大出力で、『AVG』がいわゆる常時出力、という解釈でいいんですか?」


「理解が早くて助かるわ! その通りよ。リングを介してシステムに『抉抜』と唱えた瞬間、リミッターが外れてMAXの出力に切り替わる。……私の場合、それが通常の20倍ってわけ」


「20倍……。一瞬で、それだけの負荷が体にかかるんですか」


七星は、目の前の華奢な少女を改めて見つめた。

20倍の筋力、20倍の神経伝達速度、そして20倍の衝撃。

それを制御するために、彼女はどれほどの訓練を積み、どれほど肉体を鎧(神衣)に馴染ませてきたのだろうか。


「……凄まじいですね。僕には、そんな明確な切り替えスイッチなんてありません」


「だから危なっかしいのよ、あんたは。蛇口が壊れた水道管みたいなものなんだから。……いい? 戦いっていうのはね、闇雲に力を振り回すことじゃない。自分の『器』の大きさを知って、中身を正確に注ぎ出すことなのよ」


「精進します。……気になったんですが。その『異能』というのは、一体何なんですか?」


「異能はね……いわゆる、超能力みたいなものよ。でも、誰でも扱えるわけじゃない。こればっかりは、持って生まれたセンスね!」


凪は不敵に、けれどどこか楽しげに言い放つ。

彼女にとっての『異能』とは、戦闘における潜在能力そのものなのだ。


「……凪さんは、その『異能』が使えるんですね。空圧……と言いましたか」


「そうよ! 百聞は一見に如かず。……特別に見せてあげるわよ!」


凪は演習場に向かって、スッと腰を落とした。

その構えには、七星も見覚えがあった。

昨夜、暗い路地裏で自分の眉間に突きつけられた、死の宣告と同じ。

彼女は右手の指先を、鋭い銃口のように標的へ向けた。


「昨夜と同じ……!」


「そう! 昨日は途中で邪魔が入ったけどね。……いい、七星。指の先に、全神経を注いで目を凝らしなさい!!!」


七星は息を呑み、彼女の指先に視線を吸い寄せられた。

初めは何の変化も見られなかった。

だが、注視し続けるうちに、確かな「異変」がそこにあることに気づく。


指先の周囲だけが、まるで猛暑の日の陽炎のように、ぐにゃりと歪んでいる。

大気が、密度を変え、形を失い、一箇所へと狂ったように凝縮されていく。


「――いくわよっ!」


その声が、引き金だった。

鼓膜を直接叩き割るような爆音。

一瞬の後、凪の指先から、肉眼では捉えきれないほど高密度に圧縮された「空気の弾丸」が解き放たれた。


――ズガァァァァァン!!


数百メートル先にある巨大な岩盤が、まるで目に見えない巨人の拳で殴りつけられたかのように、中心から粉々に砕け散る。

衝撃波の余波だけで、七星の足元の土が大きく抉れ、強烈な風圧が彼の全身を激しく揺さぶった。


「……これが、圧圏……。これが、凪さんの『異能』……」


硝煙ならぬ、熱を帯びた空気の渦の中で、七星はただ立ち尽くすしかなかった。


「す、すごい……」


目の前の岩盤が、ただの「空気」に粉砕された光景。

七星の口から漏れたのは、加工も虚飾もない、純粋な驚愕の吐息だった。

昨夜、自分はこの「弾丸」を至近距離で突きつけられていたのだ。

もしあの時、邪魔が入らなければ、今頃自分の頭はどうなっていただろうか。

背筋を冷たい汗が伝う。


「あったりまえよ!! なんてったって第一部隊のエースなんだから! こんなの、朝飯前よ!」


あっけに取られた七星の反応を見て、凪のテンションは最高潮に達していた。

普段、明楽や朔からは「危なっかしい」だの「熱くなりすぎ」だのと小言を言われてばかりの彼女にとって、七星の反応は新鮮で格別の快感だったらしい。


「ふふん! さあ、いつまでも呆然としてないの。あんたの能力の解析、付き合ってあげるわ。まずはそのデタラメな出力を、自分でコントロールできるようになりなさい!」


凪は勝ち誇ったように腰に手を当て、顎で演習場の中心を指し示した。

その姿は、昨夜の「刺客」の姿ではない。

未知の力に翻弄される七星を、人類の側へと繋ぎ止めるための、頼もしい「先達」の姿だった。


「……はい。お願いします、凪さん」



ーーーーーーーーーーーーーーー


指輪を擦ることで起動する22世紀の英知が紡ぐ鋼の皮膚『神衣』。

「凪先生」の少し騒がしい講義が始まる!?



お読みいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる」「面白そう」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】から評価や、ブックマーク登録をしていただけると、執筆の励みになります!


次回、第10話は明日、3月26日(木)18時00分に更新予定です。

ぜひご覧ください!

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