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輪外討伐戦線 ~宇宙人を信じていたら、宇宙パワーを手にした俺は~  作者: 弓藤千人


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第8話 「超能力」に勝る「科学」

「……さて! もう全員面識はあるかと思うけど、今日から第一部隊の戦闘員は四人になりました。七星、改めて自己紹介、いってみようか」


明楽が音頭を取ると、俺はソファから立ち上がり、少し背筋を伸ばした。

目の前には、昨夜俺を追い詰めたはずの二人が、今はごく普通の服を着て、俺を眺めている。


「……一条七星です。今日から第一部隊でお世話になります。よろしくお願いします」


深々と頭を下げると、明楽が「ぱちぱち」と小気味よく拍手を送ってくれた。


「ほらほら~、お前たちも。後輩に示しがつかないだろ?」


明楽に促され、二人は顔を見合わせた。


神田朔かんだ さくだ。……まあ、昨日のことは悪かったな。よろしく」


俺よりも少し年上に見える青年――朔は、頭を掻きながら、短く、けれど拒絶のない自己紹介を済ませた。


宮野凪みやの なぎよ。……ふん、あんたには言いたいことが山ほどあるけど。昨日の逃げっぷりに免じて、とりあえず、私が入隊を認めてあげるわ」


腕を組み、ふんぞり返るようにして言い放つ凪。

昨夜の「鬼の形相」はどこへやら、今の彼女は、負けん気の強い同級生の少女のようにすら見えた。


「おい凪、お前にそんな権限ないだろ。隊長は明楽さんなんだから」


「うるさいわね! 気持ちの問題よ、気持ちの!」


朔の冷ややかな突っ込みに、凪が即座に噛み付く。

目の前で繰り広げられるのは、深夜の路地裏にはあまりに不釣り合いな、どこにでもあるような騒がしい日常の断片。

俺の思考は、そのあまりの落差に、またしても置いてけぼりにされそうになっていた。


(……これが、俺の戦う場所なのか)


呆然と立ち尽くす俺の横で、明楽は満足げに深く椅子に腰掛けていた。


「さて。まずは七星に、我々の仕事がどんなものか知ってもらうのが一番だよね。早速『討伐』に連れ出したいところだけど……そう都合よくターゲットが現れてくれるわけでもないんだよねぇ。朔、なんかいい案ない?」


「え……。俺が考えなきゃいけないんすか……?」


明楽のあまりに投げやりな振りに、朔が心底不満げに眉をひそめる。

第一部隊の「苦労人」のポジションが、この一瞬で確定したようだった。


「――っ! それなら、私にいい案があるわよ!」


ふん、と鼻を鳴らして身を乗り出したのは凪だった。

自信満々に胸を張る彼女に対し、明楽と朔の二人は、示し合わせたかのように「期待感ゼロ」の冷ややかな眼差しを向ける。


「私ともう一度、真剣勝負しなさい! 昨日は途中で邪魔が入ったし、あんたの実力、私が計ってあげるわよ!」


「「却下」」


二人の声が、一糸乱れぬタイミングで重なった。


「な、なーんでよー! 私が一番、こいつの動きを分かってるんだからいいじゃない!」


「却下に決まってるだろ。昨日死にかけたばっかりの新人ルーキーに、お前の加減を知らない全力を見せろってか。殺す気かよ」


「そうだよ。凪、君は熱くなるとすぐ周りが見えなくなるからねぇ。基地が壊れちゃうよ」


ムスッ!とした表情で、見るからに機嫌を損ねた凪。

だが、その突拍子もない再戦の提案に、七星は内心で少しばかりの興味を抱いていた。


「あの……」


「どうしたの、七星」


明楽が優しく促すと、七星は恐る恐る口を開いた。


「今の提案……少しだけ、興味があります。昨晩の戦闘の時に気になったのが、皆さんも僕と同じように『超能力』を扱っているように見えたので……」


自分の中に眠る異質な力。

それをどう扱い、どう「人のために」変えていくのか。

その正体を知るには、目の前の「先達」たちの背中を見るのが一番の近道に思えたのだ。


七星の言葉を聞いた明楽が、名案を思いついたかのように膝を打った。


「――おっ! じゃあ凪、君の能力を七星に見せてあげなよ!」


「だからさっきからそう言ってるじゃないのよおぉぉぉぉ!!!」


自分の提案を、あたかも自分の手柄のように横取りされた凪。

爆発した彼女の叫びが、コテージの木造の壁をビリビリと震わせた。

先ほどよりもさらに膨らんだ彼女の頬は、今にも火を吹きそうなほどに真っ赤に染まっている。


「……ま、結果オーライだろ。見せてやれよ、凪。お前の業をさ」


朔が呆れたように溜息をつきながら、どこか期待を含んだ視線を凪に向けた。


「……ふん! もういいわよ、やってやろうじゃない! 感謝しなさいよね、七星!」


不機嫌さは隠さないものの、どこか得意げに顎を上げた凪。


「――よしっ。 じゃあ、あとは『凪先生』に任せたよ! 期待してるよ、先生」


明楽は軽い足取りで玄関へ向かうと、ひらひらと手を振って、あとの責任をすべて凪の細い肩に丸投げした。


「……なんか、美味いもん食いたくない?」

「近くだと、このハンバーグの店が評判いいみたいですよ」

「お、良いね〜。行っちゃおうか(笑)」


「……ちょっと! あんたたち、新人を置いてどこ行くのよ!」


凪の怒声もどこ吹く風。

二人の背中は、春の陽光の中に溶け込むようにして、あっさりと消えていった。


はたから見れば、完全に面倒な役目を押し付けられた形だ。

だが、七星が隣の凪をそっと伺うと、彼女の口元は隠しきれない高揚で、わずかに緩んでいた。

「先生」と呼ばれた響きが、よほど彼女の自尊心をくすぐったのだろう。


「……ふん。あいつら、帰ってきたら承知しないんだから」


わざとらしく溜息を一つ吐くと、凪は豹のようにしなやかな動作で、コテージの裏手へと続く勝手口を指し示した。


「外へ行くわよ! 七星、ついてきなさい!」


その声には、昨夜の敵意ではなく、どこか誇らしげな「導き手」としての響きが混じっていた。



◇◇◇◇◇



コテージの裏口から続く、木漏れ日の差し込む細い山道。

そこを数分も歩けば、突如として視界が開け、巨大な擂り鉢状の空間が姿を現した。


それは、深い森に隠された「戦域」だった。

直径百メートルはあるだろうか。

地面は固く踏み固められた土と、あちこちに剥き出しになった岩盤で構成されている。

中央付近には、何らかの衝撃でひしゃげた分厚い鉄板や、原型を留めないコンクリートの塊が、あえてそのまま放置されていた。


「ここは私たちが日ごろ、戦いに備えて訓練してるところよ」


凪は誇らしげに胸を張り、演習場を見下ろした。


「……結構、広いんですね。何か理由があるんですか? 凪さん」


「凪でいいわよ。敬語もいらない。私は16よ。あんたより一つ年下なんだから」


「えっ……」


七星は思わず絶句した。

昨夜のあの冷徹なまでの戦闘技術。

それが、自分より年下の少女によるものだったという事実に、改めてARKという組織の底知れなさを痛感する。


「……そういうわけにはいきません。年は上でも、僕は後輩なので。凪さんのことは、先輩として接します」


「そっ、そう! なら好きにしなさい!」


素っ気なく言い放ちながらも、凪は明らかに上機嫌だった。

明楽や朔という、年上たちに囲まれて過ごしてきた彼女にとって、誰かに「先輩」として敬われるのは初めての経験だ。

むず痒いような、けれど決して悪くない居心地の良さに、彼女の頬は自然と緩んでいた。


「なんで、演習場がこんなに広いのか。それはね……『輪外』との戦闘は、地形が変わるほど激しいからよ」


凪の言葉は、すとんと腑に落ちた。

あの体力測定の時。

身体から溢れ出す力に怯え、力の暴発に恐れていた七星にとって、イメージするのは簡単だった。


「……なるほど。では、早速、凪さんの能力を見せてもらってもいいですか?」


未知の力への恐れはある。

だが、それ以上に「正体を知りたい」という渇望が勝っていた。

しかし、凪はすぐに動こうとはせず、形の良い眉を少しだけ寄せた。


「見せるけど……その前に、少しだけ知識を学んでからにしましょ。七星、あんたは大きな勘違いをしてるわ」


「……勘違い?」


思わず聞き返したが、何に対して言われているのか、さっぱり心当たりがなかった。


「あんた、昨晩私たちも超能力を扱っているように見えたって言ってたけど……そんなもの、人間に扱えるわけないじゃない」


凪の言葉は、冷たい刃のように七星の思考を切り裂いた。

信じられなかった。

あの、重力を無視したかのような跳躍。音を置き去りにするほどの移動速度。

あれを超能力と呼ばずして、一体何と呼ぶというのか。


「……っ、では、昨日の戦闘で見せたあの力は何だったんですか!? あのスピードも、あの威力も、人間業じゃないはずだ!」


食い下がる七星に対し、凪は憐れみすら含んだ瞳で首を振った。


「あれは、『輪外』の超能力に対抗するために開発された、『輪外討伐兵器』によるものよ。勘違いしないで。――『輪外』との戦闘はね、超能力対科学なのよ」


「科学……?」


「そう。あいつらのデタラメな『理外』を、人類が積み上げてきた『ことわり』の結晶で無理やりねじ伏せる。それがARKの戦い方よ」



ーーーーーーーーーーーーーーー



『ARK』が振るうのは、人類の英知が結晶した復讐の刃。

「超能力」という名の幻想を、「科学」の鉄槌が打ち砕く。



お読みいただきありがとうございます!


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