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輪外討伐戦線 ~宇宙人を信じていたら、宇宙パワーを手にした俺は~  作者: 弓藤千人


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第7話 ただの勘、あるいは運命

「……さて。こちらからも、いくつか質問させてもらっていいかな?」


明楽の言葉には、先ほどまでの威圧感とは異なる、純粋な好奇心が混じっていた。


「はい……」


「君は、昨晩の戦闘を見る限り、およそ人間とは思えない動きをしていた。だが、不思議なことに俺の目には、君が『輪外』としては映っていないんだ。果たして、君はどちら側なんだい?」


「……自分でも、正直なんでこうなったのかは分かりません」


七星は、椅子の肘掛けに固定されたままの両手をじっと見つめながら答えた。


「ただ、一つだけ言えることは…僕は17年間、人間として生きてきました。この力を手にしてからは、まだ、5日ほどしか経っていません」


(――!?)


明楽の眉が、わずかに跳ねた。

内心の動揺を隠しきれなかったのだ。

わずか数日で、あの凪の攻撃を見切り、超常的な身体能力を使いこなし始めたというのか。

その異質極まる適応速度、そして「才能」という言葉では片付けられないほどの異常性に、明楽は驚愕していた。


「……それは、災難だったね。で、その力を手にした『経緯』を、詳しく聞かせてもらってもいい?」


七星は、堰を切ったようにすべてを話し始めた。

あの日――元旦の夜、独りで見上げた夜空から始まった、あの不可解な出来事。

体内に潜伏し、ある日突然、爆発するように顕現した「宇宙ちから」の正体。


「なるほどね。つまり君はその不可思議な光線とやらに当たって、姿は人間のまま、その身に超能力を宿したってわけか」


明楽は得心がいったように、深く頷いた。


「……信じて、くれるんですか?」


あまりに荒唐無稽な告白。

これまで誰にも信じてもらえず、孤独の中で抱えてきた記憶。

それを、この男はまるで明日の天気の話でも聞くかのように、あっさりと受け止めていた。


「信じるとも」


明楽は即答した。

その迷いのない肯定に、七星は思わず身を乗り出す。


「なぜ、そんなに簡単に……。僕のような境遇の人間が、他にもいるんですか?」


「いや、いないね。君は特殊すぎるよ、七星くん」


明楽は椅子を軋ませ、冷徹な眼差しを向けた。


「おそらく君が浴びた光線は、我々の追う『輪外』が発するものだ。けどね、生身の人間があんな濃度のエネルギーを直接浴びれば、普通は細胞が朽ち果てて、体の形を保つことすらできない。……だが、君はその有害な『毒』をねじ伏せ、あろうことか進化の糧にしてしまっているんだ」


(毒を、進化の糧に……?)


己の体内で起きている変異。

それが、本来なら死に至るはずの猛毒であったという事実。

戦慄する七星を余所に、明楽はどこか楽しげですらあった。


「……では、どうして。そんな前例のない話を、信じられるんですか」


七星の切実な問いに対し、明楽は人懐っこい笑みを浮かべ、短く答えた。


「――ただの、()だよ」


その一言に、七星は絶句した。

こんなに簡単に結論付けて良いのだろうか。

だが、その「勘」という言葉こそが、数多の修羅場を潜り抜けてきた「戦線の長」としての、最も重く、最も信頼に値する回答であるようにも感じられた。


「さて、そんな君の今後の身の振り方だけど……。正直、このまま君を解放して放置することは、隊律違反に該当する。かといって本部に引き渡せば、君は二度と『外』には出てこられないだろうね」


「……え?」


突きつけられた現実に、七星の思考が凍りついた。

二度と、外には出られない。

それは事実上の終身刑か、あるいは「検体」としての隔離。

何も悪いことはしていない。

ただ、元旦の夜に空を見上げていただけなのに。

理不尽な絶望と、暗い負の感情が七星の脳裏を濁流のように駆け巡る。


そんな少年の震えを見透かしたように、明楽が静かに提案を口にした。


「その能力を人を救うために、使う気はないか?」


「……でも、ARKに所属してしまったら、僕はもう……」


「大丈夫。『第一部隊』でかくまうよ。本部の連中には、適当に報告を上げておくさ」


それは提案という名の、優しき強制だった。

宇宙パワーをその手に宿したあの日から、心のどこかで予感はしていた。

もう、学校へ行き、宇宙に夢を馳せるだけの「普通の高校生」には戻れないのだと。


七星はぎゅっと拳を握りしめ、明楽の瞳をまっすぐに見返した。

失うものの大きさを噛み締め、その上で、自らの運命に「覚悟」という名の楔を打ち込む。


「……分かりました。僕は、この力を……人のために使います」


その言葉が落ちた瞬間、無機質な部屋を支配していた重圧が、ふっと消えた。

同時に、一条七星という一人の人間が、世界の裏側を守る「戦線」の一員となった瞬間だった。


「……よく言った」


明楽は、まるで自分のことのように破顔した。

彼は迷いのない手つきで、七星の手首を締め付けていた拘束具へと手を伸ばした。


カチリ、と硬質な音が部屋に響き、七星を縛り付けていた物理的な重圧が解放されていく。


「……いいんですか? こんなに簡単に、解いてしまって」


七星は解放されたばかりの両手を見つめ、呆然と問いかけた。

自分は、世界を滅ぼしかねない「バグ」のような力を持っていると言われたばかりだ。

もしここで暴れ出したら、という疑念は抱かないのだろうか。


「言ったでしょ。――信じてるって」


明楽は、子供のような無邪気な笑みを浮かべて、七星の頭をポンと叩いた。

その手のひらは驚くほど温かく、そして、決して揺らぐことのない絶対的な自信に満ち溢れていた。


「さあ、行こうか、七星。君の新しい『日常』が待ってるよ」



◇◇◇◇◇



――カツン、カツン


乾いた足音が石の階段に反響する。

俺はどうやら、地下深くの施設にいたらしい。

緩やかに弧を描く階段を一歩ずつ上るたびに、懐かしい土の香りがし始めた。


「……ここ、は?」


重厚な扉を抜けて地上へ出た瞬間、俺は思わず目を細めた。

そこにあったのは、先ほどまでの無機質な世界とは正反対の、木のぬくもりが肌に伝わる広々とした空間だった。


窓から差し込む柔らかな陽光が、丁寧に磨き上げられた無垢材の床を黄金色に染めている。

高い天井には太い梁が走り、壁には使い込まれた風合いの家具が並ぶ。

どこからどう見ても、森の中にひっそりと佇む穏やかなコテージそのものだった。


「ようこそ、我が第一部隊へ。居心地は悪くないだろう?」


明楽が、まるで自分の家に招いたかのように、誇らしげだった。

つい数分前まで、人類の存亡だの輪廻の断絶だのと物々しい話をしていた場所の真上に、こんなにも穏やかな日常が鎮座している。

そのあまりの落差に、俺の感覚は再び麻痺しそうになっていた。


(……ここが、俺の新しい「居場所」なのか?)


暖炉から漂う微かな薪の香りが、こわばっていた俺の肩の力を、ゆっくりと解きほぐしていくのを感じていた。


「じゃあ、隊員に君を紹介するから。少しそこに座って待っててよ」


明楽に促され、俺はリビングの中央に置かれた、使い込まれた革張りのソファに腰を下ろした。

深く沈み込む座面が、知らず知らずのうちに強張っていた全身の筋肉を緩めていく。


(仲間は、何人いるんだろう……)


どんな猛者が集まっているのか。

あるいは、自分と同じように「普通」を奪われた人間が他にもいるのか。

まるで、春の日に新しい教室のドアを叩く直前のような、落ち着かない高揚感と不安。

17歳の俺にとって、それは唯一、かつての日常と繋がっている感覚だった。


数分、あるいは数十分。

静寂を破って、玄関の重厚な木製ドアが、乾いた音を立てて開いた。


「お待たせ~」


明楽の陽気な声と共に、背後から足音が続く。

俺は思わず背筋を伸ばし、新しく出会う「戦友」たちに視線を向けた。


だが――。


明楽に続いて部屋に入ってきたのは、見知らぬ大軍勢でも、屈強な戦士たちでもなかった。

そこにいたのは、昨晩、俺を殺そうとしていたあの二人だけだった。


「……あ」


「なんだ、もう起きてたの」


不機嫌そうに肩をすくめる凪。


「……よろしくな」


所在なげに視線を逸らしつつ、短く応える朔。


暖炉の火が爆ぜる音だけが響くリビングで、俺たちは、昨夜の死闘が嘘のような「木のぬくもり」の中で、再会を果たした。



ーーーーーーーーーーーーーーー


期待と不安が交差する「新生活」の幕開け。

少年の前に並んだのは、昨夜の死線を共にした「敵」。

『第一部隊』――わずか四人の運命が、陽だまりのコテージで静かに噛み合い始める。

お読みいただきありがとうございます!


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次回、第8話は明日、3月24日(火)18時00分に更新予定です。

ぜひご覧ください!

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