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輪外討伐戦線 ~宇宙人を信じていたら、宇宙パワーを手にした俺は~  作者: 弓藤千人


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第11話 食の恨みは恐ろしや

半日に及ぶ特訓を経て、七星はコテージへと戻ってきた。


「テーブルの上のお弁当、食べていいから〜」


明楽がキッチンから声をかける。


「ありがとうございます!」


今日の昼食は、明楽たちが買ってきたハンバーグ弁当のようだ。

演習場での訓練で、空腹感は限界に達していた。


「いただきます!」


割り箸を割り、メインのハンバーグを半分に割る。

すると、中から黄金色のチーズがトロリと溢れ出した。


(チーズインか……)


実は、チーズはあまり得意ではない。

だが、せっかく自分のために買ってきてもらったお弁当だ。

濃厚なソースの味で誤魔化しながら食べ始める。


明楽が、冷蔵庫から取り出した水とオレンジジュースを持ってきてくれた。

「水でいい?」と軽く確認し、水の入ったコップを七星の前に置く。


(オレンジジュース、好きなんだ……)


「ありがとうございます!」


そんなやり取りの中で、ふと、七星はある違和感に気づいた。


「……あの、凪さんは?」


リビングを見渡しても、先ほどまであれほど騒がしく怒鳴り散らしていた少女の姿が、どこにも見当たらない。


「凪は上で休んでるよ。気にしないで。……あの子、一度癇癪を起こすとね、気絶させるしかないんだよね。でも大丈夫、目覚めたときにはすっかり元通りのはずだから。まあ、そうじゃない時もあるけどね」


さらりと恐ろしいことを口にする明楽に、七星は箸を止めた。


「……大、変なんですね。第一部隊って」


「そうなのよ。個性派揃いっていうか...」


明楽はオレンジジュースを一口啜り、困ったように笑った。


食事を終えたとき、何かを唐突に思い出したかのように、明楽が顔を輝かせて話し始めた。


「そうだ! そういえば、まだ基地の紹介をしていなかったね。ついてきて」


誘われるまま、七星は腰を上げた。


「見えているところから説明すると、一階は全て共用部。あっちがキッチンで、冷蔵庫の中身も含めて自由に使っていいけど、名前が書いてあるものには手をつけないこと」


「あ、はい。わかりました」


「で、トイレはこの手前の扉。……で、その奥が洗面台と、我が第一部隊基地自慢の大浴場!」


「中、見てみなよ」と促され、七星は洗面台の先の重厚な扉を開け、中を覗き込んだ。


「……すっげぇ……」


思わず感嘆の声が漏れる。

そこに広がっていたのは、ここが基地であることを忘れさせるような、温泉旅館さながらの広大な大浴場だった。


「でしょでしょ〜!……眺めも、かなりいいよ。やっぱり、疲れた体を癒すのは大事だからね〜」


湯気の向こう側には、演習場の荒地とは対照的な、美しい自然のパノラマが広がっていた。


「一階はこんなもんかな」


一通りの設備を見せ終えると、明楽は軽やかな足取りで階段を上がり始めた。


「二階はそれぞれの部屋があるから。誰の部屋かすぐわかるように、扉には名前のプラカードを吊り下げてもらってるんだ。間違えないようにね」


階段を上りきると、そこにはいくつかの扉が並ぶ廊下が続いていた。

一階の広々とした共用スペースとは打って変わって、ここは個人の領域だ。


「……あ、本当だ。名前が書いてありますね」


七星は廊下の左右に目を向けた。

シンプルな木の扉には、それぞれ明楽、朔、そして凪の名前が記されたプレートが掲げられている。


「自分のプライバシーは自分で守る。それがうちのルールだよ。まあ、誰かさんが癇癪を起こして壁を壊さなければ、だけどね」


明楽は苦笑しながら、廊下の一番奥にある、まだ何も掲げられていない扉を指し示した。


「今日からここが七星の部屋。自由に使いな」


その一言で、七星は胸の奥に澱んでいた「忘れていたこと」を思い出した。


「……あ。そういえば、俺、一回帰んないと」


「ん? なんで?」


きょとんとした顔で首を傾げる明楽。

七星は、そのあまりに無防備な問いに、少しだけ気圧されながらも言葉を継いだ。


「いや……じいちゃん、心配するし……。学校だってあるし」


その瞬間、明楽の顔から余裕が消え、驚愕の表情へと塗り替えられた。


「……そっか。七星、まだ高校生だったね。すっかり忘れてた……これ、やばいじゃん。もしかして、客観的に見たら誘拐になっちゃう?」


「今更ですか!?」


慌てふためく「隊長」を前に、七星は思わずツッコミを入れた。

22世紀の最新兵器を操る超人たち。

そんな彼らにとって、学校や門限という概念は、ナノマシンよりも遠い世界の出来事だったらしい。


「朔! どうしよう、未成年の無断連れ出しはARKの規定以前に法律的にアウトだよ!」


「んなこと言われても知らないっすよ!」


冷静沈着なはずの朔までもが、眉を寄せて声を荒らげた。

どうやら彼も、目の前の少年の「日常」を完全に計算から除外していたらしい。


「だ、大丈夫です! うちは生まれてから親がいないし、代わりにじいちゃんが面倒見てくれてるんですけど……五日間くらい家を空けても、何にも言われたことないですから!」


必死にフォローを入れる七星。

その言葉に込められた、孤独に慣れすぎた少年の生い立ち。

本来なら同情すべき切ない告白のはずだが、今の明楽にとっては「免罪符」にしか聞こえなかったらしい。


「よっし! 逮捕は免れた……っ!」


明楽は深々と安堵の息を吐き出すと、力強くガッツポーズを作った。


「……いや、そこ喜ぶところですか?」


七星の乾いたツッコミがリビングに響く。


「……ただ、このまま何の連絡もなしにここに住み続けるのは、さすがにやばいでしょ。……よし、朔! 一緒に行って、何とかしてきて!」


明楽が、下の階でくつろいでいる朔にビシッと指を突きつけた。


「はぁ!? なんでまた俺なんすか!!」


「いいじゃない、朔。見た目だけは誠実そうだし、口も上手いでしょ? 俺が行ったら余計に怪しまれるし!」


「……あんたが隊長だろうが! 責任持って自分で説明してこい!」


「嫌だよ、怒鳴られたら怖いもん!」


「……あの、そんなに怖がらなくても。じいちゃん、意外と話せばわかる人ですし……たぶん」


「七星、その『たぶん』が一番怖いんだよ...」


結局、この「責任」の擦り付け合いは、明楽の子供のような駄々に、ついに朔が根負けして折れる形となった。


「……あー、もう分かった。分かりましたよ! 行けばいいんだろ、行けば!」


「さっすが朔。そうこなくっちゃ! 頼りにしてるよ」


毒づきながらも、朔はすでにスマートフォンの画面を操作し、移動経路の確認を始めている。

その手際の良さが、彼がいかに普段からこうした「雑務」を押し付けられ、処理してきたかを物語っていた。


「す、すみません、朔さん……。ありがとうございます」


「謝るなら、あの隊長の脳みそを少しでもまともにする異能でも開花させてくれ。……行くぞ」


しかし、立ち上がろうとした朔が、七星の食べ終えた弁当の容器を二度見し、その表情を驚愕に染めた。


「おい……! おま!、これ……!」


「え? 何ですか……」


震える指先で空の容器を指差す朔。

それは尋常ではない動揺だった。


「お前、これ……食ったのか。全部」


「はい。明楽さんが、食べていいって……」


七星が素直に答えると、階段を降りながら呑気にオレンジジュースを飲んでいた明楽が、不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの、朔。そんなに慌てて。また別の法律的な問題? 誘拐の件なら解決したじゃない」


「明楽さん!! これは……こればっかりは、自分で責任取ってくださいね...」


朔が、普段の冷静さを失い声を荒げた。


「七星が食べたの、凪のために買ってきたチーズインハンバーグですよ!!」


明楽の顔から、急速に血の気が引いていく。


「なんだとー!!! お、おま、これ、どうすんだよ......」


「……七星のせいには、できないですからね! ちゃんと凪に謝るしかないですよ。俺たち今晩は帰れないかもしれないですから、何とかしてください。……じゃあ!」


「えっ、ちょ、ちょっと朔!? 待って、一人にしないで――!」


明楽の必死の制止を背後で聞き流し、朔は七星の腕を掴むと、驚異的な足さばきで玄関へと突き進んだ。


「いいか七星、前を見ろ。振り返るな。……今、あの基地に残っているのは、空腹の怪物と、戦犯だけだ」


「何が何だかわかりませんが、了解です!」



ーーーーーーーーーーーーーーー



朔と共に一時、帰路につく七星。

凪と二人きりになった明楽は、果たして無事なのだろうか――。

お読みいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる」「面白そう」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】から評価や、ブックマーク登録をしていただけると、執筆の励みになります!


次回、第12話は3月30日(月)18時00分に更新予定です。

ぜひご覧ください!

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