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【青嵐編】94:xx19年6月2日

ウィスピーの開発者について探る。


その目的にシフトした六人は、引き続きホワイトボードを囲って相談を続けていた。

時間も17:30を過ぎてきたため、いったん明日香は夕飯の用意をする、という話になり、

乃亜はそちらの手伝いに回ることにした。


今日はイワシが安くまとめて売られており、

事前に献立をグループチャットで相談していたこともあり

イワシのかば焼き丼にしようと話はまとまっていた。


 「乃亜って、こういう感じのごはん作るんだね」

 「どういう意味です?」


明日香とならび、料理用の手袋をつけて

イワシを手開きでさばいていく乃亜に、

明日香がくすりと笑いながら言った。

彼女は手元で白髪ねぎをこしらえている最中だ。


 「失礼かもしれないけど、洋食が中心か、

  ちょっといいごはんが中心かなって思ってた」

 「ちょっといいごはん……?」

 「こういう家庭的な料理は馴染みないのかなって」

 「そんなことはないと思いますけど……」


なにか変わったイメージを持たれていたらしい。

乃亜は首をかしげながら魚の処理を終え、並べた魚に酒と塩を軽く振る。

手袋を外して捨て、石鹸でしっかりと手を洗った。


副菜にはきんぴらごぼうと酢の物を用意する。

明日香がきんぴらごぼうの下準備に入ったので、こちらは胡瓜を薄切りにすることにした。


 「明日香、このミョウガも酢の物に使って平気ですか?」

 「うん、大丈夫」


胡瓜の薄切りにミョウガを千切りにする。

その手元を見て、明日香が感心したように頷いた。


 「本当に慣れてるんだね。私も今度教えてもらおうかな」

 「明日香にそう言われると少しこそばゆいですね。

  私こそ、今度教えてください」

 「うん、もちろん!」


二人で微笑み合いながら料理を進める傍ら、

ホワイトボードの前の隼人たちは、どういった質問をするのがいいか相談を続けていた。


 「やっぱり、行動範囲、目的、原理、このあたりは必要じゃないか?」


空良がホワイトボードに書いたメモに線を引きながら口にする。

それを見て隼人が両腕を頭の後ろで組んだ。


 「でもそれで正体にたどり着けるか?」

 「このあたりが絞れれば、少なくとも学校関係者っていうのは確定するんじゃない?

  静の話からしても、10年近くは存在してるんだからさ」

 「当時の技術であんな高度なAIを作れるとなると、有名な技術者の可能性もあるしな。

  うちの大学関係者でそういう人がいれば……」


ましろの意見に空良が頷く。

茉莉もうーん、とうなりながら、ホワイトボードをにらむ。


 「そうなると……行動範囲は学内ネットワークだけなのか、とか?

  目的は、雲鍾先輩や斉王さんの話をもとに聞く感じ?」

 「そうだね、例えば、学生のフォローをするのが、目的なのか、とか」

 「先の斉王さんの話もちょっと気になるんだよな。

  明らかにやってることの規模がでかい」

 「この大学のどこかで生まれたのか、くらいは聞いてもいいんじゃね?

  ノーだとちょっと手詰まりになっけど、イエスならでかいぜ?」

 「確かに、それくらいなら」


外はもういくらも薄暗くなってきている。

時刻は18時半近くなっている。

四人が相談する傍ら、料理担当の明日香と乃亜が食事を仕上げる。

共有ダイニングには香ばしい香りが漂い始め、

四人の空腹感もそろそろピークである。


 「みんな、そろそろ出来るよ」

 「ああっ、待ってた!くっそいい匂い!腹減った!」

 「確かに……頭使ったせいかぺこぺこだ……」


隼人と空良の言葉にましろと茉莉も同意するように頷いている。

乃亜が配膳を進める中、四人もテーブルに腰かけた。

副菜のきんぴらごぼうとキュウリ、みょうが、わかめの酢の物。

メインとなるイワシのかば焼き丼が並び、

乃亜と明日香も席に着いたところで食事を始めた。

隼人らが言っていたように皆空腹であったせいか食事中は静かだった。

だがそれがひと段落すると、また質問に関する相談が再開される。


乃亜と明日香が離脱していたこともあり、

相談していた内容が改めて共有される。


 「状況的に、ウィスピーの開発者は暁天の関係者だと思う。

  というか、関係ない奴の線が薄い、という消去法だけど」

  そもそも、学内のネットワークに自由に動けるっていうのがおかしいし。

  だから、その線で追いたいって話になってる」


食べ終え、麦茶で口の中をさっぱりとさせたましろが

明日香と乃亜に対して方針を伝えると、二人もそれに異論はなく頷いた。


 「でも確証というわけじゃないから、開発環境をまず確認する。

  質問1、ウィスピーが開発されたのは、暁天大学高校にある環境かどうか」

 「イエスなら、ほぼ関係者なのは間違いないと思う。

  ノーだった場合、ちょっとまた考え直すことになるけどな……」

 「次はもう少し絞って、開発者がだれか。

  質問2、ウィスピーの開発者は暁天大学もしくは高校の卒業生かどうか」

 「イエスなら、いくらか絞れますね。

  一つ目の質問がイエスでこちらがノーなら、卒業生ではない、

  教職員の方に絞ることができますし」

 「あ、そっか。でも一つ目がノーで、こっちもノーだと

  全然関係ないひとってことになるんだよね……」

 「そうなっちゃったら、ちょっとお手上げだねーってさっきも話してたんだよね」


茉莉が両手をあげて首を振る。

しかしこの謎に挑戦できる時間もあまりないのだ。

明日は全員授業があり、こうしてじっくりと腰を据えて考えることも出来ない。

全員がこうして集まれるのは、日中はいくらも厳しい。

明日の夜くらいがせいぜいである。


 「とりあえずある程度決め打ちでいかなきゃ厳しそうだからね。

  次は今も関わっているかどうか。

  質問3、ウィスピーの対話機能について、今も開発者は関わっているか」

 「どういうこと……?」


明日香と乃亜が互いに顔を見合わせる。

それに頷いたのは空良だ。


 「操作してるか、じゃなくて、関わっているか、という点で聞くんだ。

  イエスなら、今も開発者はウィスピーとつながりがあるってことになる。

  前の質問と組み合わせることで、

  現在も暁天のネットワークにアクセスできる人物だと特定できる。

  要は、現在も関係者か、かつて関係者だったかをふるいにかけられるんだ。

  ……よくわからないって顔してるな」

 「ごめん、空良……あんまり私、そういうの詳しくないから……」

 「同じくです……」

 「いや、大丈夫。ええと、ざっくりいうと、

  ネットワークって、中だけの道と、外から中に入る道ってルールが明確に違うんだ。

  中だけの道は結構自由にできることがあるけど、

  外から中に入る道は、かなり厳しいルールになってることが普通だ。

  大学内には個人情報とか、大事な情報がたくさんあるだろ?

  それに外から自由にアクセスされるのは困るし」

 「ああ、なるほど」

 「だから、この質問の意図は、大学の中にいるウィスピーに対して、

  開発者が今でも関わっているなら、外から、というよりも、

  中だけで完結するほうが考え方としては自然なんだよ」

 「まぁ、これも、自然ってだけで、絶対ではないけど、

  例外的なことを考え出したらキリないからね」


空良の説明に納得して頷いている横で、ましろが補足のように告げた。

それはもはや仕方ないのかもしれない。


 「とりあえず、今のところ考えられてるのはここまでだね。

  あとは今の答えをもとにしてから、かな」


ましろはそういって天井近くのアナログ時計を見る。

既に時刻は20時近くなっていた。

全員明日も大学や高校があり、そこまで長く時間は取れないということを理解していた。


 「明日の夜までなんでしょ。

  ひとまずこの3つを聞いて、残り2つ、どこまでたどれるか分からないけど

  そこからもう少し考えるしかないね」

 「よし、じゃあ早速聞こうぜ!」


隼人がパソコンに向かい、それに全員が続く。

パソコン前の椅子に座った隼人は、ベルのアイコンをダブルクリックした。

昼間と同じように、デスクトップ画面の中央にドアのイラストが表示され

両開きでそれが開かれる。

中からひょこんっと飛び出した白いマントのキャラクター。


 「はぁい、どうもー!

  暁天の皆さんの愛されAIウィスピーやで!

  おんや?皆さん質問きまりました?

  おひとり様一回!隼人さん以外からの質問受付まっせー!」


顔文字のような表情はニマニマと笑い、面白がっているように見えた。

隼人は後ろに立つ仲間たちに視線を向けた。

隼人のうしろで身体を少し前かがみにして画面に向き合ったのはましろだ。


 「じゃあ私から。

  ウィスピー、お前は暁天大学や高校の環境で開発された?」

 「ふふ、随分ピンポイントな質問やね!これはイエスや!

  僕は暁天生まれの暁天育ちや!」


5つ浮かんでいた玉のうちひとつが消えた。どうやら質問カウンターらしい。

それと答えを聞いてましろは小さく笑う。

これで少なくとも、この暁天大学や高校に関係している人物である可能性が高まった。

続けての質問はそのまま投げられる。

ちら、とましろは隣にいる茉莉に目を向けた。


 「次、私ね。

  ウィスピー、あなたを開発した人は、暁天大学や高校の卒業生?」

 「ほっほーう?なるほど、僕の開発者をたどる算段なんやねぇ?

  う~ん、せやなぁ、まぁこれはノーやねぇ~」


ポシュ、と音をたてて質問カウンターがまた消える。

ウィスピーは画面の中で、短い腕を頭の後ろに回しプカプカと浮いている様子を見せている。


これで更に開発者は絞れた。

ひとつ前の質問だけでは、暁天大学・高校にいる、または、いた関係者全員が対象だったが

少なくともこれで、卒業生ではないことが確定した。

在校生ではないことは、存在期間を考えれば察せていたが、

卒業生かどうかというのはそれだけでは判断できなかった。

しかしこれで、在学歴のない関係者あることは確定だ。


茉莉が頷き、隣にいた明日香に目を向ける。

明日香は頷いて続けて問うた。


 「えっと、ウィスピー、あなたの開発者は、あなたの対話機能に今でも関わってる?」

 「ふむふむ?ふむふむふむ!

  なかなかオモロい質問投げますなぁ!

  まぁ、イエスっちゅーたらイエスやね。

  やけどかかわり方っちゅーても色々ありますしなぁ~?」


また質問カウンターが消えた。残りは2つ。

考えていた内容はここまでだ。


在学歴のない暁天大学・高校の関係者で、

おそらく今も、大学や高校にかかわりがある人物であることは間違いない。

そこまでは絞りこめた。


空良は口元に手をあてがいながらじっとウィスピーを見ている。

今までの情報を精査しているのか表情は硬い。

が、なにかを思いついたのか、ぱっと顔を上げた。


 「ちょっと聞いてみたいことがあるんだけどいいか?」


空良の言葉に全員に異論はない。

この手の話に一番詳しいのは空良だ。

今までの説明や先ほどの相談に関しても彼は率先して意見を出していた。

その彼がなにかを思いついたのだとしたら、否はない。


 「空良、その質問、私から聞きますよ」

 「乃亜」

 「たぶん、最後の質問は空良に残していた方がいい気がします」


最後に残ってしまっても、正直乃亜としてはお手上げだ。

であれば可能性がある空良に最後の選択肢を渡したい。

そういう意図で告げると、空良は他の面々にも目を向ける。

隼人たちも頷いていた。


 「じゃあ、乃亜、頼む。

  聞きたいのは、"大学や高校に教職員として在籍しているか"だ。

  これでイエスなら、ほぼ絞り込めると思う」

 「確かに……ノーの可能性はあんまりないか」

 「ああ。もしこれがノーなら、他の質問に矛盾が生じるはずだ。

  乃亜、頼む」

 「分かりました」


乃亜は空良にうなずいて隼人の後ろから、

ディスプレイの中でふよふよ漂うウィスピーに目を向けた。


 「では、ウィスピー、あなたの開発者は、暁天大学や高校の教職員の方ですか?」

 「………」


ウィスピーはその質問に沈黙した。

全員がそれに手ごたえを感じ、それぞれに笑みを浮かべ、じっとディスプレイを見る。

どこか人をおちょくったような笑みが、俯くことで隠れ、

ふるふると震えるような仕草をする。


だが。


 「ノー!!やね!!」

 「えっ?!」


一気にディスプレイいっぱいに、ウィスピーの楽しげな顔が一杯になる。

全員が思わずのけぞり、その答えに唖然と瞳を大きくした。


これでかなり絞り込める、と思っていただけに衝撃が大きい。

ウィスピーは身体を引き込ませ、くるくるとその場を回り、

無情にも質問カウンターは残り一つとなった。


 「ちょ、ちょっと待て!それじゃ今までの質問!」

 「いやいや~?僕は嘘なんてついてませんよ~?

  ふっふっふ、さて、残り一つ!!

  ま、明日一日ありますし、もうちょい考えてみてや!

  とはいえ今日はもうおしまいにしましょ!

  学生さんかて、早寝早起きせな!ほななー!」


そう言い残して楽しそうにウィスピーは画面の外へと消えていく。

あっ、と隼人が声を上げ、

あわてて呼び出し用のベルのアイコンをダブルクリックするも

それにはバツの印がつけられ、いくらクリックしても反応を示さなくなった。


六人は唖然としてその様子を見、やがて誰となくため息を深く吐きだした。


 「もう、分かんない!

  え、だって、おかしいよね?おかしくない?」


茉莉が頬を膨らませて言うと、隣のましろも溜息を吐き出した。


 「大学内で開発されて、卒業生でもないし、教職員でもない?

  外部の研究者って可能性もあるけど、

  今でも関与してるって言ってたし、そんな人が学内の環境にアクセスできるってことある?」

 「いえ、さすがに……外部講師の方も、教職員にはカウントされると思いますし……」

 「そうだよね?もう、本当に嘘ついてないのかな……」

 「もしかして、ものすげーハッカーとか?」

 「けど、そうなるともうお手上げじゃない……?」


そうなって来ると今まで絞っていた質問が意味をなさなくなる。

ただウィスピーにからかわれただけのようなものだ。

全員がその場で深くため息を吐き出した。


一度追い詰めたと思ってからの失敗は全員に深い疲労感をもたらした。

再度考え直す気力も持てず、そのままにしていた食事の片づけを

どこか逃避的にすることにした。


食器を洗い、洗ったものの水滴を拭く。

テーブルの汚れを台ふきんで綺麗に整え、生ごみなどの片づけを済ませる。


そんな中、ふと食器を洗っていたましろが、

室内の片づけを進めていた乃亜に声をかけた。


 「そういえば、気になってたんだけど、

  乃亜、昼間なにか言いたそうにしていなかった?」


ましろに水を向けられ、乃亜はそちらに向く。

乃亜はテーブルを拭く手を止めて顔を上げ、首をかしげる。


 「ほら、作戦会議がはじまったくらいに。

  なにか思いついたのかなと思ってたんだけど」


乃亜はそれを聞いて自分の記憶を振り返る。

瞳を回して、ああ、と短く声を上げた。


 「いえ、大したことじゃないんですが」

 「なにか気づいたことあったのか?」


ゴミをまとめていた隼人にも聞かれ、

乃亜は少しためらいがちに口をひらいた。


 「私は直接話しかけられるようなことはなかったので、

  今までウィスピーに対してそこまで不思議とは思ってなくて。

  確かに、兄さんや翔さんの話はちょっと違うと思うんですが、

  それでも、AIっぽいと言われれば、そうとも思えるような気がして……」

 「例えばどういうところでそう思ったの?」


ましろの隣で食器を洗っていた茉莉の声色は非難を秘めるものではなく、

純粋に乃亜の言葉を聞こうとしているのが感じられる。

乃亜は茉莉のその雰囲気や、他のメンバーの様子にも背を押され口をひらいた。


 「学食でのアナウンスや、事務局での応対とか、ですね。

  私はAIには詳しくないので、完全にイメージですが、

  音声認識がとても高度なら、できなくもないのかな、と思って」

 「……確かにそういうのは、AIっぽいと言われればそうなんだよな」


空良に同意を示され、乃亜は内心ほっとした。

自分の考えは完全に素人のそれである。

兄がどれだけ優秀でも、自分はそこまで理系関連に詳しくない。

空良は隼人がまとめて空きになったゴミ箱に、新しい袋を設置しながらつづけた。


 「ウィスピーが、俺たちがまるで想定できないくらいの

  超高性能のAIである可能性もなきにしもあらず、なんだよな、実際。

  ……でも、仮にそうだとしても、嘘までつけるかというと、さすがに無理だと思う」

 「さっきの質問の答えの話?」

 「ああ。俺たちが気づいてない、矛盾じゃなくなる答えがある気がする」


空良はそれだけ言って口を閉ざした。

手を動かしつつも、頭の中ではウィスピーの質問の答えが渦巻いている。


確証は持てない。

しかし、なにかを見逃しているような、そんな気がしてならなかった。


作者、ウミガメのスープとか好きなんですけど、問題作るセンスはあんまりないと思うので、もしかしたら論理的におかしいかもしれません・・。どうぞご容赦を。


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★毎週木曜11:30・日曜19:00頃更新予定★

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★アルファポリスでも連載中★

https://www.alphapolis.co.jp/novel/598640359/12970664

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