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ジュリエットはロミオの夢を見ない  作者: 穂兎ここあ
ジュリエットはロミオの夢を見ない
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第5話 悩殺テクニック

「お似合いだなぁー」


 自分で言っておいてショックを受けた。

 窓の外、視線の先には才上くんと……志倉しくら凛花りかさん。


「志倉さん、美人だもんね」


 一緒に窓の外を見ていたルリちゃんも、私に同意した。

 それくらい、才上くんと志倉さんはお似合い。たぶん性格の相性もいいんだと思う。

 校庭にいる二人の会話は聞こえないけど、才上くんの背中をバシバシッと叩きながら爆笑している志倉さんを見れば、楽しい会話が行われていることくらい簡単に想像つく。

 才上くんもうんざり顔だけど、嫌そうではないっていうか。


「才上と志倉?」


 横からニョキッと顔を出したのは隼汰くんだ。

 少し驚いて私は肩を揺らした。隣のルリちゃんも驚いていた。


「びっくりしたぁ。笹川くん、サボリ?」


 ルリちゃんは窓の外を指す。

 今は各クラスのロングホームルーム中。

 クラスによってすることはさまざまで、私たち2組は自習だ。

 そして才上くんや隼汰くんたち1組は校庭でゴミ拾い。


「んー、まあそうとも言う」

「だめだよ、隼汰くん」

「ウソウソ、俺は校内のゴミ拾いでもしよっかなーって。それよりほら、このあいだの同窓会の写真見せに来た」


 仮にも授業時間である今? という感じはするけれど。

 用事で行けなかった『小学校の同窓会』のことは気になっていたため、隼汰くんに注意するのを忘れて私は彼のスマホに食いついた。


「わぁわぁ、懐かしい!」

「だろ?」


 会話を弾ませる私たちを見て、ルリちゃんが肩をすくめた。


「珠莉ちゃんと笹川くんもお似合いだよね」


 そう言われて私と隼汰くんは顔を見合わせた。


「お似合いだって」

「まあ、そうじゃなきゃ十年以上仲良くやってねーよな」


 正直私と隼汰くんは中学の頃もよく付き合ってるんじゃないかと噂されてきたから、この手の話題を振られても動揺はしない。

 それくらい仲良く見えるんだなってお互いに開き直れるくらいにはいろいろ言われてきたから。


「うわぁ、すごいかわし方。……まあでもなんだかんだ、珠莉ちゃんと才上くんが総合的に一番お似合いだよね。笹川くんもそう思うでしょ?」

「あー……まあ、そーな」


 フォローしてくれるルリちゃんに対し、隼汰くんは適当だ。

 いつもいろんなことを気遣ってくれる隼汰くんだけど才上くんのことに関してはとてつもなく適当になる。

 というか、隼汰くんは隼汰くんなりに悲しい事実を口にせず、オブラートに包んでくれてるだけなのかもしれないけど。

 そんなことを考えながらまた窓の外を見た。


「私も才上くんに睨まれてみたい」


 さっきまで笑いあってたのに才上くんと志倉さんは今度はお互い眉間にしわを寄せて何かを言い合っている。

 それでも二人して、楽しそうでうらやましい。


 いいなぁ。才上くんと話したい。


 こっち向いてくれないかな。

 さっきからずっとそう願ってる。

 名前を呼べば気づいてくれるんだろうけど、各々好き勝手やってるとはいえ一応自習中だ。


 才上くん。……才上くーん。


 心の中で何度も呼んでみる。でもやっぱり才上くんは志倉さんと話すのに夢中で。

 あきらめようかな、って。

 そう思ったときだった。


「わ」


 バチンと、目があって。

 才上くんは手を挙げようとして、次の瞬間には表情をしかめた。

 あれ……何か怒らせた?


「やべっ、見つかった」


 隣で隼汰くんがそう呟いた。

 才上くんは隼汰くんがサボっていることに怒ったみたい。いつのまにか志倉さんがいなくなっていた。


「うわーめんどくせー。じゃーな、珠莉」

「ちゃんとゴミ拾いするんだよー?」


 急いで教室を出て行く隼汰くんを私は見送った。


 するとそれからそう時間が経たないうちに、志倉さんが教室に駆け込んできた。


「笹川! あれ……いない」


 突然の志倉さんの来訪にクラスメートたちがざわついた。私とルリちゃんも驚いた。さっきまで才上くんと一緒にいたのに。

 消えたと思ったらそこにいる。

 志倉さんはきょろきょろと辺りを見回して、私に視点を定めた。


「あ、珠莉エットちゃん」


 さらにその呼び名にみんながざわついた。

 隠語のようなあだ名を本人に向かって口にする志倉さんはやっぱり強者だと思う。


「笹川はどこへ?」

「えっと……あっち?」


 どこへ行くかは聞いてないから正直分からない。だから隼汰くんの出て行った方向を指差した。


「ありがとう。……あ、そうだ」


 私が指した方向へ進もうとして、志倉さんはまたこちらを振り返る。


「ねえ、珠莉エットちゃんはいつ才上を堕としてくれるの?」


 そしてまたも爆弾発言をかます志倉さんに、みんな言葉を失った。隣にいたルリちゃんは卒倒寸前でよろめいた。


「いつと言われても……私も知りたい」


 努力をしていないわけではない。

 ……ん? 待て待て、もしかしてこれって志倉さんからの宣戦布告的な何かなんじゃ……。


「あの、志倉さんも……才上くんのことが好きなの?」


 そして私の問いにより、さらに教室の空気が淀んだ。

 でも目の前の志倉さんはまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。そしてプハッと笑い出した。


「ない。本当にないわ。才上なんて無理。むしろ珠莉エットちゃんがなんでそんなにあいつのこと好きなのか全然分かんないもん。……近くにめちゃくちゃかっこいい人いるのにさぁ……」


 小声だったけどちゃんと聞き取れた。でもそのかっこいい人が才上くんじゃないのだろうか。……才上くんよりかっこいい人なんて存在するの?


「だから珠莉エットちゃんと才上にどうしてもくっついてもらわないと困るの」


 だから、が何に接続しているのかは分からないのだけれど。

 すごく心強い一言をいただけたのだけれど。

 強力なライバルが減ったのだから、嬉しいのだけど。

 才上くんとくっつきたい気持ちは山々なのだけど!

 どうもこうも才上くん次第なわけで!!


「どうしたらいいんだろうね……」

「才上も男だから色気出せばコロッといくわよ!」


 その瞬間、私の頭に雷が落ちた。

 そうだったのか、と。

 志倉さんの意見は、私の狭い視野に新たな視野を加えた。

 私は身だしなみにこだわりがないわけではないけれど、キチッとしすぎてるところがある。

 ブレザーの制服も第一ボタンまで留めてネクタイもきっちり締めてるし。スカートの丈なんて規定の膝丈。

 メイクはあんまり上手じゃないから日焼け止めを塗った程度だし。


「そっか。私はまだ努力が足りなかったんだ」

「珠莉ちゃん、すっごく変なこと考えてるでしょ」


 よろよろとルリちゃんが頭を抑えているが、私の瞳はきっと輝いている。

 だって変どころか、むしろ今までで一番理にかなった案が生まれたのだ。

 そうと決まれば私は行動が早いので。


「志倉さん、あの!」


 目の前の美人にお頼み申したのだった。そんな私は今が自習時間で、志倉さんはゴミ拾いの最中だったことも綺麗さっぱり忘れてる。




▽▽▽




『いい? 珠莉エットちゃん。これで才上も悩殺だから! ダメだったら才上が病気なだけだから! その代わり絶対間違っても他の人を悩殺アタックしないでね、特に笹川!』


 と、さっき志倉さんに念押しされた。

 志倉さんにいろいろ手伝ってもらった結果、クラスの人の視線がとっても刺さってる。

 自習時間は終わって、もう放課後になる。

 だから私は才上くんの部活が終わるのを待つため、美術室に移動しなきゃいけない時間なんだけど。


「すげーな、桜井。めっちゃ別人。それはそれで似合うな」


 隣の席の中村くんが感動したような声を上げる。

 おそらく褒めているのだと思う。


「そう?」

「うん、志倉って感じ」


 クラスメートは先ほどのやり取りを全部知っているからこの事態の犯人も知っている。

 私が笑うと、もう片方の隣人、高橋くんが遠い目をして笑った。


「いやー……俺が才上なら、これはー……このあいだですらあれだったしなー……いやー……でも才上意味不明だしなぁー」


 物事をはっきり言う高橋くんが、もはや言葉を濁しすぎて何を言っているのか分からない。


「高橋くん、言いたいことめちゃくちゃ分かる」


 でもルリちゃんには伝わったらしい。

 高橋くんの肩を叩いてうんうんと頷いていた。


 廊下に出ると、クラスのざわめきがそのまま伝播した。

 そんなに目立つかなぁ。結構こんな感じの人多いけど……。

 真面目で地味目な私がするからか……?

 とりあえず私は美術室に向かおうと、廊下を歩いていた。


「なんか、廊下騒がしいな」


 でも運がいいことに、部活に向かおうとする才上くんと出会った。

 教室から出てきた才上くんに声をかけようとしたら、先に才上くんがこっちに気がついてくれて。


「あ、才上くん。今日も美術室で……」


 言い終わらなかった。

 それはもう風を切るという言葉を目にしたような。

 素早い動きだった。




▽▽▽




 才上くんに抱きかかえられて、私は保健室に連れていかれた。

 なぜだ。辺りを見回して、私の頭がベッドに食いついた。

 ……も、もしかして、まだ悩殺に至らしめる行動を何もしてないけど才上くんの何かにヒットした?

 で、でもまだ、早い! いろいろ! 悩殺っていってもそれはまだ……!


「先生どこ行ったんだよ。……緊急事態なのに」


 あ、あれ……?

 才上くんは保健室の先生を探している。普通ここは不在でラッキーなのでは?

 私がアホ面で立っていると、才上くんがため息を吐きながらこっちを見る。そしてさらに盛大なため息を一つ。


「……珠莉」

「はい」

「何その格好。特にスカート」


 いつもより格段に低い声で言われて、私の背筋がピンと伸びた。

 現在私は志倉さんのプロデュースによりスカートは三回折り曲げている。つまり太股が結構な割合で露出しているわけで。


「イメチェンしようかと」

「しなくていいから。……ほら手挙げて」


 言われた通りに手をあげたら、才上くんが私の腰に手を回した。

 え、え、ちょっと待って! ……あれ?


「珠莉のスカート丈はこれでいいから。これが一番似合ってる」


 不機嫌な口調で言いながら、才上くんは私のスカートを元の丈に戻す。

 志倉さんに完璧と言われたのに、おかしい。


「クラスの人にも似合うって言われたのに」

「は? まさか男じゃないだろ?」

「中村くん」


 ピシッと何かが張り詰める音がした。


「……こんなに首元も寛げて、何してんの」


 少し乱暴に才上くんは私の身なりを整えていく。

 開いていた第一ボタンはしっかり留められ、緩んでいたネクタイも締めあげられた。思わずグェッと声をもらしてしまうくらい。


「はあ……メイク落とし求めてここに来たのに。先生いないし、場所分かんないし。あー……」


 才上くんが少し苛立ったように自分の髪をくしゃっと乱した。


「……才上くん、怒ってる?」

「うん。結構、かなり」

「な、なんで?」


 たぶん才上くんは冗談抜きでかなり怒ってる。

 私は本気で焦った。


「なんででも。そんな男誘う格好して相手が勘違いしたらどうすんの」

「……才上くんも誘われる?」

「俺は誘われない」


 その堂々たる宣言は流石にくるものがあった。

 志倉さんの理論だと、才上くんは病気だ。

 でもきっと、才上くんは私のなけなしの色気なんかじゃどうにもできないんだ。

 それに気づいてしまったら、余計に惨めになって悲しくなった。


「……才上くん、こういう子の方が好きかなって」

「は? なわけないだろ」

「だって才上くん」


 あぁ、これは言いたくないんだけどな。


「才上くん、志倉さんが好きでしょ?」

「ない。志倉は冗談抜きで無理」


 その返答も志倉さんと同じだった。

 どこかでそう口にするように口裏合わせてるんじゃないかってそんなことを考えてしまう。

 そうじゃなければ、同じ返答をしてしまうくらい息が合うってことで。


「もしかして、それ志倉がやった?」


 私が答えないでいると、それを肯定と受け取って、才上くんはまたため息を吐いた。


「珠莉……ごめん」


 何がごめんだろう。

 やっぱり志倉さんが好きとか? それとも絶交宣言?

 何にせよきっと私にいい話じゃない。

 なんでもう少し考えて行動しなかったんだろう。

 もう穴があったら入りたい。

 目をぎゅっと閉じたら、おでこにコツンと何かがぶつかった。


「……へ?」


 目をゆっくり開けたら、才上くんの顔が視界いっぱいにあって。

 私のおでこにぶつかったのが才上くんのおでこだったんだって、気づいたのはその数秒後。


「俺、珠莉はそのままがいい。メイクなんてしなくていいし、シャツのボタンも開けなくていい。スカートなんて絶対折らないで」

「でも地味だよ……?」

「地味じゃなくて規定通りだろ」

「……そんなに似合わなかった?」

「……そういうわけじゃないけど」


 才上くんは少しだけ頰を赤らめて目を背けた。

 珍しい。今日は才上くんの新しい表情ばかり見てる気がする。

 ずっと向けてほしかった才上くんの怒った顔は、向けられてはじめてもう見たくないなって思った。私には辛すぎて。

 でも今の表情は、もっと見ていたい。


「珠莉はメイクなんかしなくてもかわいいし。俺はそんな珠莉が……」


 そこで才上くんの口が止まった。

 私が、なんだろう。

 私が見つめると、才上くんは首を横に振った。


「そんな珠莉が……メイクする必要は、ないだろ」


 そう言って、才上くんは私から離れた。そうして保健室の棚を漁り始める。

 また、ダメなのかな。

 これじゃあもういよいよ手詰まりなんだけど。


「……才上くん」

「なに……ちょっ、珠莉、待て」


 待たない。

 しゃがみこんで一番下の棚を見ている才上くんを私は押し倒した。

 まっすぐに才上くんの顔を見て。


「本当に、何も……誘われない?」


 渾身のキメ顔をしてみた。

 こりなくてもなんでも、やるしかない。

 また才上くんには怒られるかもしれないけど。でも……。


「さ……そわれないから、退け。珠莉」


 荒々しく私の腕を掴んで、才上くんは起き上がる。

 その顔ははっきり分かるくらい紅潮してて、耳まで真っ赤で。


「……本当他の男にそれするなよ」

「才上くんにしかしないよ」

「……俺にもしなくていい」


 まだ希望はあるのかなって。


「才上くん」

「今度は何」

「……好き」


 今度はキメ顔とか、悩殺とか関係なく、真面目に。

 そしたら才上くんはまだ赤い顔で、いつものように困った顔で笑ってくれた。


「それは知ってる」


 96回目の一方通行は、あまり心が痛まなかった。


 

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