嵐の前の静けさ
ゆうみの苗字の印鑑を近場の百均で手に入れた。
よくある苗字で助かった。500円で済んだ。
「これがいんかん!なんかみたことあるぞー!せんせえがよくつかってるやつだ!」
ゆうみはキラキラした目でこちらを見る。
「そうだね」
緊張でから返事になってしまったが、ゆうみは元気そうだ。
家に帰る途中でご飯を買う。2人分だから、どうしよう...
「ゆうみ、何食べたい?」
少し首を傾げたあと、ゆうみは答えた。
「あいちゃんとなら、なんでも!ふひひ!」
100点満点の笑顔だった。
折角だから、スーパーで安めのお寿司とか買っちゃおうかな...
「ゆうみ、お寿司とかどう?」
「え!いいの!あいちゃんおかねもち...!?」
「違うよ、ふふ、安いのがあるんだ、それでも良ければ、半分こしよ。」
思いもしない返答に少し笑ってしまった。ゆうみのこういう無邪気なところ、私は大好きだ。
「半分こ!やったー!」
ゆうみは踊りながらスーパーに入る。
それに続いて私もスーパーへ入った。
野菜コーナーを通り過ぎ、鮮魚コーナーへ真っ直ぐ向かった。そして、特売の安いお寿司を見つけた。
「これ!どうかな?」
「ふひひ!あいちゃんと一緒に、こんなぜいたくなもの食べていいのー!?うれしい〜!」
ゆうみの可愛い返事を聞いて、買うことを決心した。1500円。悪くないだろう。
レジにふたりで持っていく。
「っしゃせー」
「袋いりますかー?」
「必要ないです」
気だるげそうな店員さんに笑顔で答えた。
「っしたー」
相変わらず気怠げそうに返事をされた。
でも今晩は二人で楽しい夜を過ごせる。
何もかもユメちゃんのおかげだ。
二人で他愛もない話をしながら暗い帰路を歩く。
その足取りは軽快で、これからとても幸せな事が起こることを示しているかのよう。
街灯がキラキラ光って見える。
いつぶりだろう。こんなに楽しく外を歩いたのは。
家に着いて、玄関を開ける。
いつもと違って、家がほんのり輝いて見える。
「お寿司!おっすっしー!あいちゃーん!たべよー!」
ゆうみは早くお寿司を食べたいみたいだ。
早速テーブルに買ったお寿司を置いて、蓋を開ける。
エビやイカ、マグロ、トロ、サーモン、様々なお寿司が並んでいる。
「わぁー!!!ゆうみこんなのほんとにたべていいの!?」
「いいんだよ、でも半分こね」
「ふひひ!半分こー!あいちゃんとお寿司半分こっ♪うれしいなぁーっ!」
一つ一つ、丁寧に味わって食べた。二人で食べるお寿司はとても美味しくて、ゆうみはほっぺたを抑えながら「んむー!!!」と笑みを浮かべていた。
二人で食べるにはちょうどいいサイズだった。
「ご馳走様。」
「おごちそーさまでした!」
「まだ9時半だけど、どうする?寝る?」
「あいちゃんねむい?ゆうみはねぇ、あいちゃんともっと遊びたい!」
せっかくのお泊まりだもんね。そうだよね。
「お絵描きでもする?」
「んー!やったー!!!ゆうみキリンさんかくの!」
「じゃあ、私はくまさんでも描こうかな」
「ふひひ!じゃあふたりでどうぶつえんつくろう!」
「ふふ、いいアイデアだね」
意外と動物を描くのは難しい...でも、ゆうみとなら上手いとか、下手とか関係なく楽しくかけるんだよな。不思議。
「できた!!」
「できたねぇ」
二人で画用紙に沢山の動物を描いて切って大きな画用紙に貼った、小さな動物園ができた。
これは、宝物だなぁ。
私はゆうみにバレないよう口元を隠しひとりでニヤニヤとしている。
ゆうみは小さな動物園を掲げて目を輝かせていた。
幸せな時間。
気が付いたら23時になっていた。
「ゆうみ!明日朝早いからそろそろ寝よう。」
「んー?明日としょかんそんなにはやくいくの?」
「んや、ちょっと色々あってね、7時にうちにお迎えが来て、ユメちゃんに会いに行けることになったんだよ」
「えぇー!!!そんな!!!ユメちゃんに会えるの!?やったぁー!!!ふひひっ♪」
「そうそう、だから、早く寝なくちゃね。」
私はそう言いながら、ゆうみをベッドへと誘導する。
「わかった!...ね、手、繋いでくっついて寝ていーい?」
「もちろん。一緒に眠ろうね。いい夢見れたらいいね。」
「ふひひ...あいちゃん、あったかい。ありがとう....」
そう言って、ゆうみはベッドで手を繋いだまま即座に眠りについた。疲れていたのかな。
私は少し緊張している。あの、「脳科学研究所」、スマホで調べてもろくに情報が出てこないんだよな...。大丈夫かな...。




