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「君との婚約を破棄させてもらう」
ルシアン様は上空4000m程まで来た時に真顔で告げた。色々と意味が分からなかった。
婚約破棄する理由も、それをこんな上空で行うことも、彼の隣にレベッカ嬢がいることも。
何故こんなルゥオマンティックな空の上で、とてつもなく夢のない別れ話になっているのか。
「聖力が弱まっている。そのせいでモンスターが湧き出してきているのだから、君は既に大聖女として失格だ」と、彼は婚約破棄の理由を説明し始めた。
「君の代わりなら、このレベッカが務められる。今だって複数人の聖女が協力して結界を張っているのだし、君が居なくても困らない。それに、最近になって、紅い体色の、体の大きな個体のモンスターが出現し始めた。これまでは居なかったものだ」
とも言った。
その赤い連中は、体が大きいだけでなく、力も強く、一匹いるだけで兵士、魔導士が20人がかりでようやく討伐出来るもの。そして、それらは他の聖女の代には現れなかった。
ルシアン様は私の顔に指を突き付けて言った。
「そのモンスターを君が呼び寄せてしまっている可能性がある」
つまり私の存在が王都を危険に晒しているというのだ。当たり前だがそんな事実は無い。
私は必死に弁明を試みるが、全く聞く耳を持たないし、その間、兵士によって私の肩に膨れ上がったカバンが掛けられた。
ピクニックかな? と思っていると、別の兵士によってスライド式の扉が開いた。
ゴオッ! と一気に冷たい風が流れ込んでくる。真冬になったかのような寒さだ。
訳も分からぬまま両脇を兵士たちに掴まれ、開いた扉の前に立たされた。不思議と恐怖心は無い。思考が付いていかないのだ。
「えっと、この状況は何ですか?」
「すまない、モリア。こうするしかなかったんだ」
ルシアン様は申し訳なさそうに顔を伏せる。
「ごめんなさい。本当は、本当はこんなことしたくないの!」
言いながらレベッカ嬢の方は顔を両手で覆う。でも口の端が吊り上がっているのを隠しきれていない。
「いや、だから、こうするしかなかったってどういうことなのですか!」
「宙石という特殊な魔石を、君のカバンの中に入れておいた。これがあれば、落下のスピードを極限まで落としてくれるから死ぬことは無い。ここはルゴラ平原上空、どこの国にも属さない緩衝地帯。魔物の湧かない地でもあるし、食料は定期的に運んでくるよ」
ルシアン様は私の言葉を一方的に無視してしゃべり続ける。
「え、何でそんな今生の別れみたいなことを?」
その時、私の背中が押された。
こうして私は真っ逆さまに落ちていきましたとさ。
◇
はい、回想終わり!
回想は終わったけれど私は絶賛落下中なのであった。くぅ~w
「あ、そうだ!」
私は風圧で苦労しながらも、カバンの中を探った。あまりの急展開に忘れていたけれど、私には宙石という魔石があるはずだ。
それがあれば極限まで落下のスピードを落としてくれるとルシアン様は言っていた。
今のところ、全く発動していないけれど。
もしかすると、魔力を籠めなければ使えないのかもしれない。私は聖力の他に魔力もそれなりに持ち合わせている。
助かるかもしれない!
その時、私の手が固い、手のひら大のものを掴んだ。これが宙石だ!
よし、助かる!
出すわ! とっておきの切り札! テレレッテレー!
私が引っ張り出すと、それは石のように固い、パンだった。
ええっ!?
もう一度手にあるものを確認する。
やはりパンだ。
もう一度、宝石の真贋を鑑定する宝石商のような目つきでそれを見た後、一度カバンに閉まってからもう一度出す。
テレレッテレー! パン!!!!!!!!!
ってやってる場合ではない。このままでは私が地面にパァンしてしまう。
私はカバンの中を空に向かってひっくり返した。着替えらしき衣類が一目散に空へぶっ飛び消えていく。ついで食料らしき塊も。また封筒に入った手紙らしきものも手裏剣の如く空へ飛びあがっていく。
以上。
……以上。
ひええええええええええええ!!!!
私は今更になって恐怖心が湧いて来ていた。一度湧いた希望がやっぱり駄目になったという落差が私に恐怖心を生み出していた。
落差なんて今落ちてるこの高さだけで十分だっていうのに。いやそもそも何で落とされてるの!
既に地面は「もう間もなく到着します」くらいの地点まで迫っている。
出来ればこのまま通過して欲しいところだが、そうもいかないだろう。
つまり死。私の人生がパススルーする。
私は最後の晩餐とばかりにパンをかじる。
硬い。
美味しくない。
まるで私の人生そのものだと思うが失笑も湧いてこない。
ああ、神様、どうしてですか。どうしてこんな目に遭うのですか。
パンを食べ過ぎたからですか。パンの怨念がこうしたのですか。お米なら良かったのですか。
それとも子供の頃、お父さんのカツラを盗って鳥の巣に使っていたからですか。
それともお父さんの育毛剤をお兄様の指に塗ったせいで、指毛だけ森林地帯のような剛毛にしてしまったからですか。
それとも庭の鯉にもっと栄養のあるものを食べさせようと、自分で色々調合したり、聖力を込めたエサをあげたら、鯉から手足が生えて陸上生活するようになってしまったからですか。
いや、そんなこと、今さら懺悔したって、もう遅いのだ。
ああ、どうせなら、最後に、いっぱい、食べたかったなぁ。
そう思いながら、私は目を閉じたのだった。




