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 いやあ、よく晴れた空だ。

 見上げれば雲一つない。まさに紺碧こんぺき。なんて果てしない空に私たちは囲まれて生きているのかしら。

 そんな随分と感傷的な、というより呑気な思考が湧いてくる自分に少し驚く。

 己の状況を鑑みるに、そんな場合ではないのだろう。

 もっといろいろ手を尽くすべきなのかもしれない。


 私も最初はそうする予定だったさ。でも手を尽くそうにも既に手段は限られている。というか、この状況でどんな手があるというのだ。


 手も足も出ない、空の上で。


 私は絶賛落下中である。そりゃ見上げれば雲一つないさ。私の下にあるのだから。

 押しつぶされそうなほどの風圧がグォオオオオオオッ! と全身に吹き付けてくる。目を開けるのさえやっとだ。

 せっかく整えられていた髪は強風を受けて勢いよくはためいている。諦めた私の代わりにもがいているかのようだ。


 我が顔面に至っては終末を迎えている。


 顔全体のお肉が風でブロロロロロロと激しく波打っている。

 口は閉じられずに唇がはためいているので歯茎がむき出しになり、貴族令嬢としては常軌を逸した顔面いっぴんが出来上がっているに違いない。

 この顔が地上でも出せたら睨めっこで無敗を誇っただろう。



 何で私が落下しているのかって?

 婚約者に突き落とされたからだ。子供のころから父親がしてくれる「高い高い」は好きだったけれど、「他界他界」されるのはごめんだ。


 うん、そうだね。私が地面にファーストキス兼ラストキッスをささげるまでにもう少し時間がかかりそうだ。

 ちょっと走馬燈の代わりに、どうしてこうなったのか思い出していこうか。

 はい、回想スタート!



 ◇




 私、モリア・ルーレルは伯爵家に生まれた令嬢だった。5歳の時に受けた魔力測定、並びに聖力測定でずば抜けた聖力をを持っていることが分かり、大聖女候補に選ばれた。


 聖力とは文字通り聖なる力。

 結界を張ってモンスターを退けたり、傷を治したり出来る。

 聖力は女性だけが持っており、これを活かして「聖女」という職業で働く女性は沢山いる。重宝される存在だ。

 中でも特別な聖力を持って生まれる子供は大聖女候補として育てられることとなる。

 そして大聖女に選ばれた暁には、王太子との結婚が確約される激熱イベントが待っているのだ。



 大聖女は国のトップとして絶大な権力と名声を得る代わりに、王都を中心に、中枢地帯に結界を張る役割を担う。この辺りは肥沃な土地が広がっているのだが、モンスターが湧きやすい場所でもある。

 大聖女が張る結界は強力で、モンスターたちは入ってこれないし、結界の内側で湧くことは出来ない。



 私は早速教会に預けられ、他の大聖女候補たちと修練を積んできた。幸か不幸か私の聖力は彼女たちの中でもずば抜けていたため多大な嫌がらせを受けたりしたのだが……。


 15歳になった時、晴れて私は大聖女に選ばれ、婚約したのがルシアン・ソールズベリー第一王子だった。


 彼は初めて会った時から敬ってくれたし、紳士的だった。この人と結婚できるのなら幸せだと心底思えた。

 まさかこのルシアン様が、私をヒモなしバンジーさせる張本人になるとはね。



 最初はうまく結界を張れていたが、一年ほど前から異変が起こり始めた。


 私の聖力が突如弱まり始めたのだ。結界を突破するモンスターもいた。大した数ではなかったが、私はかなり焦っていた。


 大聖女にかかるプレッシャーは想像を絶する。住民の命をはじめ、国全体のシステムを担っているのだ。

 自分のせいで誰か死ぬかもしれない。そう考えるだけで怖くてストレスで、それまで一食に10個食べていたパンが8個に減ってしまった。

 恐怖で叫び出しそうだった。走り出しそうだった。反復横跳びしそうだった。


 もう一つ、私が心を痛めていたことがある。

 あんなにやさしかったルシアン様が急に冷たくなったことだ。

 以前はねぎらいの言葉をかけてくれたり、差し入れを持ってきてくれたりした。


 けれどある日、まるで売り切れたパンみたいに全く姿を見せなくなった。のみならず、レベッカ公爵令嬢と仲良くなり始めた。

 世話をしてくれるメイドが教えてくれた他、私も実際その場面を目撃した。


 二人は仲睦まじげに言葉を交わし、笑い合い、手を繋いだ。

 ある時は口づけをすることさえあった。



 ショックだし心が痛んだ。いためるのはチャーハンだけで十分だと思った。

 信じていた男性に裏切られたこともそうだけれど、彼を盗った女、レベッカは大聖女候補として、同じ教会にいた。しかも他の令嬢をけしかけて私をいじめていた主犯格だったのだ。


 彼女の大聖女への執念は常軌を逸していた。

 私が大聖女に選ばれた時の彼女の顔面は、怖すぎて飲食店や角界さえも出禁になるレベルだった。


 度重なるショックとストレスから、私は一食に食べるパンの量が8個から12個に増えた。


 そうしている間にも私の聖力は減り続け、ほかの聖女たちや、先代大聖女ホルィ様の力を借りながら、どうにか結界を維持している状態だった。


 しかし今朝、急にルシアン様から話があると言われ、飛空艇に乗せられた。

 殆ど会話もしていなかったのに何だろうと思っている間に、我がフレイヤ王国の科学力を結して作られた最新型の飛空艇は大空に舞い上がっていた。




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