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異世界に居ようが僕は生きる  作者: 塗りたくる飲む焼きそばフラペチーノ
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第8話 一生

———僕は何処にいるんだろうか。何も見えない、何も聞こえない。何なら自分をうち閉じ込める境界すら曖昧だ。そもそも僕は何故こんな所にいるのだろうか。

生唯は少し考えた後、自分が大イノシシに襲われたことを思い出した。

ああ、そうか。あの巨大なイノシシに襲われて、そのまま……。

生唯は自身が死亡したことを悟ったが、不思議と思う事はなかった。ただ一つを除いては。

このまま、このまま黙って死ねるか!まだやり残したことが沢山ある!美味しいものを食べられなくなるのは嫌だ!

そう、生唯の、唯一の特技。何としても生き残るという欲。

何がなんでも、生き延びる。生きて、生きてやる。肉体すら感じられないこの空間でも、明確に感じる『もの』――意識だろうか――を感じる限り、僕は生きている。思考がある限り、僕は生きている。

生唯は強く感じる『もの』に絶え間なく【生きる】を発動させ続けた。

生きる、生きる、いきるいきるイキるいきるイキルいキルいきル生きル…

そうして、生唯の意識は少しずつ遠のいていった。







近くにあった遺骸を粗方喰い終わった大イノシシは、広間で暫し食休みを挟んでいた。どうやら満腹になったようで、大きないびきを響かせながら地面にバタリと横になっていた。周囲にはところどころ骨が露出した肉片が散乱し、誰のものとも言えぬ衣服の残骸が吐き出されていた。しかし突然、その破片が不自然に雲散し、それに続いて大イノシシの口からも同様のもやが流れるように出て来た。音もなく現れた靄は間もなくして一箇所へ集まって濃さを増し、一つずつ組織を形成し、器官となり、やがて一個体を生成するに至った。そして現れたのは、服まで完全に復元された生唯の姿だった。













まるで立ち眩みから覚めたかのように、ブラック・アウトしていた感覚が少しずつ復元されていく感覚によって、再び生唯の意識は呼び起こされた。

なんだろう、少しずつ自身と世界の境界が規定されていくような、自己の輪郭が少しずつ形を成しているような感じがする。

奇妙な感覚に身を包まれながらも、徐々に体は復元され、終に先ほどと元通りの五体満足での生還を達成した。

はぁ、はぁ、生きた!

生唯は生還の喜びで叫びそうになりながらも、まだいびきを掻いて寝ている大イノシシがいることに気が付き、慌てて口を塞いで息を潜めた。

まだアイツがいるのか。よかった、復讐ができる。

生唯は先程感じた怒りを再び思い出し、寝ている間に復讐する計画を立て始めた。

よし、服も装備一式も全部ある。何ならMPやHPも満タンだ。

音を出さないよう慎重に銃を装填し、イノシシの脳天の方へ少しずつ近づく。

どんな生物でも脳は弱点だろう。一発で仕留めてやる。

そう浅はかな考えでわずか脳天から3m程離れた位置まで接近し、銃を構えた。狙うは頭頂部、角度としてはなるべく垂直になるようサイトを覗き、いつもより多くのMPを消費し一気に引鉄を引いた。弾丸は真っ直ぐ脳天に衝突し、余すこと無く自身の運動エネルギーを

伝えたが、相手は3.5mほどの巨体。頭蓋骨を通過しただけでエネルギーを消費してしまい脳の中枢までは届くことがなかった。

「グオォオッ!」

眠りを妨げられた大イノシシはけたたましく怒号を上げ、蹌踉よろめきながらも立ち上がり、生唯を睨みつけた。大イノシシは先程屠った相手に似ていることに少し疑問を抱きつつも、すぐに考えることを止めて突進の準備をした。

おいおいマジかよ、また起きやがった。

悪態をつきながらも今度は先程とは場合が違う。大イノシシは手負いである。

後何発撃てばいける?MPは持つのか?そもそも僕はなんでよみがえったんだ?

頭の中に出現する数え切れない疑問を解消するため、そして眼前に対峙している自身の生を脅かす存在に抵抗するため、生唯は再び自身の脳と副腎に【生きる】を発動した。生唯の脳内でニューロンは極限まで神経伝達を加速させ、シナプスから滲み出す神経伝達物質の奔流が起こっていた。脳が彈けるような感覚の中、生唯は銃を装填して一意に狙いを定めた。

いいよ、何発でも撃ち込んであげるよ。

大イノシシが地面を蹴った瞬間を視認した生唯は、寸分違わず引き金を引きながら地を蹴って右に飛び出す。左腕をもがれた生唯に対し、大イノシシは再び脳天に一撃を食らった。

「っぐあっ、くそ!」

「グゴッア゙ッ!」

両者の咆哮が広間を満たした。いち早く硬直から解かれたのは大イノシシ。片手で銃を装填していたところにお得意の突進を食らわせた。腹部が抉られ、肉が裂けたことにより溢れたはらわたは処々破裂し、赤や黄色に染まって中身が漏れ、ぐちゃぐちゃに入り混じった。僅かばかり残っている生唯の意識は、しかしまだ自身の生への希求と敵対心が存在していた。大イノシシは未だ牙に深々と突き刺さる生唯の体を払い落とし、止めを刺した。














はずだった。が、しかし、生唯の体は周囲の肉片が化した靄に包まれ、あろうことか完全に治癒された状態で出現した。意識を取り戻した生唯は再度自身に【生きる】を発動させ、状況の整理をする。

やっぱ、生き返ってくれたか。読み通りだ。さっき見たステータス、そのKRMの値が一つだけ増えてた。最初はゼロだったし、さっきのレベルアップ時もゼロだった。変わったのは僕が死んだ後。おそらく蘇生すると一回毎にその数値が上がる。そして僕はさっき夢のような謎の空間で能力を発動させ続けた。つまりは蘇生が僕の能力の真価。多分そうなのだろう。検証もクソもない馬鹿げた仮説だけど、今はこれを信じてさっきみたいにやるしか無い。

再び立ち上がった生唯。それに気づいた大イノシシは、先程までとは比にならないほど鼻息を荒げて突進の構えをした。

仮説に基づいて、コイツを倒す方法はただ一つ。

銃を構えて再び対峙する両者。しかし両者には明確な違いがあった。それは、生唯は死んでも蘇生によって体力が回復すること。そしてもう一つ。大イノシシはレベルアップすらもできないのでどうあろうとも体力の回復ができないという点だ。生唯はこれを利用し、ある作戦を立てた。

絶対に勝つ。勝って生き延びる。

じりじりと足を鳴らし、突進した大イノシシ。生唯はと言うと、牙が生唯を貫くと同時にごく至近距離から脳天に弾丸を撃ち込み、壁面に衝突した。今度こそ仕留めたと思った大イノシシだったが、再び靄が現れて生唯が甦る。

そう、僕が考えた作戦。某サンドボックス系のゲームで初心者がやる行為。デスベホマからのゾンビ作戦。

大イノシシは何度でも立ち上がる生唯に少し恐怖を抱きながらも、突進した。しかし、生唯は少しの余裕を持ってそれを回避。

お前、もうぼちバテてきたでしょ。

素早く弾を装填し、突進に合わせて撃ち込む。たとえ攻撃を食らったとしても一矢は報いる。後はもう、生唯にとって単純な作業に過ぎなかった。













丁度KRMの値が九を超えた時、大イノシシは恐怖に耐えきれなかったのか洞窟の奥へと走って逃げようとした。本来の生唯なら後追いせずに自身の身の安全を喜ぶが、相手は獲物でこちらは狩人、立場が逆転した以上どうにかしてでも仕留めることを求めていた。

逃がしてたまるものか。僕の養分になってもらう以外選択肢はない!

奥へ続く通路の中で待機し、強行突破しようとする大イノシシの脳天に照準を合わせ、叫んだ。

「くたばってしまえぇ!」

「ブゴォーーッ!」

両者、最後の攻防。生唯は限界まで大イノシシが接近してくるのを待ち、寸前で弾を撃ち込んだ。大イノシシは生唯に触れる僅か数十センチのところで右に傾き、そのままの勢いで通路の壁に衝突した。衝撃は壁から天井へと伝わり、壁面に亀裂が走る。

「不味い!」

咄嗟に広間へと駆け出した生唯。転げながらもギリギリのところで落石を掻い潜り、通路は固く封じられた。生き埋めになった大イノシシは、鈍い叫び声を上げて絶命した。

「危な……かった。でも、でも、生きてる!勝ったど〜!」

広間に残ったただ一人、生を勝ち取った生唯は喜びのあまり歓喜の声を荒らげた。













生唯と大イノシシとの、まさに『死闘』とも言える攻防から程なくして、優絆や理慈が助けを率いてやって来た。

「生唯さん、大丈夫ですか?」

「生唯、大丈夫か?」

理慈とシュヴェートが生唯に問いかけた。

「はい、なんとか大丈夫です。」

生唯はそう答える内心、再度救助が来たことに安堵した。

「今、魔術師にこの岩を動かしてお前が通れる穴を開ける。穴ができたらすぐさまこちら側へ抜けてきてくれ。」

ほう、そんな便利な魔術があるんだな。

安堵した生唯は、魔術に対する疑問が頭に浮かぶほど余裕を取り戻していた。

「じゃあ行くぞ、少し離れてろ。」

シュヴェートの合図によって、岩は少しずつ持ち上がり、形を変えながら一つの壁となって、最終的に人一人入れる分の穴が現れた。

「この穴も長くは持たないだろう。早く通るんだ。」

生唯は穴に頭から入り、地面を這いずってするりと穴から抜け出した。

「よし、閉じろ。」

シュヴェートが再び合図を出し、穴は閉じて完全に壁となった。

「シュヴェートさん、委員長、あと優絆、本当にありがとうございました。おかげで助かりました。」

生唯は心からの感謝を口に出すと、シュヴェートと理慈がそれぞれ、

「済まないのはこっちの方だ。お前たちをこんな危険なところに送ってしまい本当に申し訳ない。」

「クラスメイトが困っていたら助けるのは当然のことです。感謝されるほどのことでも有りませんよ。」

と返答した。優絆はと言うと、先程までの沈黙状態から一転して

「生唯!大丈夫!?」

と叫んだ。あまりにも大きく発した優絆の声は反響し、思わず生唯は耳を塞いだ。

「大丈夫、無事生きてるよ。だからちょっと静かにして。」

「さっき洞窟の奥の方から轟音と叫び声みたいな何かが聞こえたから、もしかしたらまた落盤して怪我したんじゃないかって思って。」

なるほど、確かにさっき叫んでたから聞こえたんだろうな。

「いや、落盤は起こったけど広間までは崩れなかったから、思わず叫んじゃったんだよね。」

「勘違いを招くような行動はやめてよ!」

生唯の背中を軽く殴りながら再び優絆の大声が木霊こだまする。

なんかものすごい理不尽な理由で暴力を受けている貴ガス…。

「とりあえずなんかごめん。まあ無事ならオッケーでしょう。」

そう言った生唯は、理慈に合図をして優絆を剥がしてもらい、洞窟から脱出を始めた。













クラスメイトが寝静まり外から仄かな月光が差し込む夜、生唯の自室にて、生唯は本日あったことを思い出していた。

今日は本当にびっくりしたし疲れた。ていうか死んでるからね、僕。なんで生きてるんだろうか。本格的に甦りの方法を調べないと、いずれ使えなくなるかもわからん。

ふとステータスを見た。



個体名:山田 生唯(紘断人ツナタチビト)Lv.2

 HP:65   MP:63   ST:45

STR:44  INT:85  DEF:40

MND:130  VIT:92  DEX:77

AGI:44  PER:75   DV:54

LUK:53  PIE:0   KRM:9 



全体的にアップしてるね。MNDなんかはめちゃくちゃ上がってる。何かはわからないけど、多分上がることはいいことだろう。僕でも解るのは一番上の段のあたりがちょっと上がって死ににくくなったことくらいかな。あと不可解なのは、KRMが甦ったときに上がってることくらいかな。まあいいや。

ベットに寝転がり、横に置かれているものを見る。そこにはあの忌々しい大イノシシの鋭く光る牙があった。これは戦利品として大イノシシから切り落とし、どうにかバレないようにリュックにしまって自室まで運んできたものだ。

さて、どうするかねぇ、これ。売ることもできないし隠しておくしか無いな。

牙をまじまじと眺めると、こちらもボスコボルトのものと同様に金属光沢で綺麗に生唯の顔が映っている。部屋に持ち込んだ途端にどうせだからと磨いてみたところ、意外にも綺麗に輝いていたので鏡として使うか迷ったほどだった。

まあ、難しいことはわからないけど、【生きる】という力に蘇生の能力も組み込まれていると考えるのが妥当だろう。辞書にも生命を保つって意味で載ってるんだから。

難しいことを考え始めた途端、急激な眠気に襲われた。

よし、もう寝よう。とりあえず今日からまた死なないように気をつければいいんだから。大丈夫大丈夫、今日ほど死にまくることもリスキルされることも早々ないって。

伸びをゆっくり行った生唯は、そのまま眠りについた。


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