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異世界に居ようが僕は生きる  作者: 塗りたくる飲む焼きそばフラペチーノ
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第7話 九死

先程の戦闘から程なくして再び戦闘があったが、それも無事に勝利し、一同は伏魔殿の深部へと着実に近づいていた。深部に近づけば近づくほど嫌な寒気が強くなり、嫌な匂いも強くするようになっていった。

「もう少しかな…すっごく嫌な感じがするし早く帰りたいね。」

そう小声で話しかけてきた優絆に同意するように、

「全くですね。私もこういう、暗くて何かが突然出てきそうな場所は苦手なので。」

と理慈が言った。

へぇ、まあ確かに委員長にお化け屋敷に行くようなイメージはないけど、苦手なのは結構意外だなぁ。まあ僕はというと、めっちゃビビりだから本当に帰りたい。

そう考えつつも何食わぬ顔で会話を聞いていた生唯だったが、ふと通路の奥から物音が聞こえることに気がついた。

「ちょっと待って、なにか聞こえない?」

生唯に続けて気付いた優絆が呼びかけ、一同は警戒態勢に入る。左の曲がり角の先を壁から覗くと、一際大きな妖魔が一体とその付近に三体の妖魔がいた。

「おそらく、あの大きな妖魔がボスでしょう。今丁度全員後ろを向いているみたいですね。私と優絆さんの二人であの一体を相手したいと思うので、生唯さんは周りの三体の対処をお願いします。」

あちゃー、マジですか。三体も倒せるかめっちゃ心配なんだけど。

手に汗が滲みつつも、銃を構えた生唯は、

「やれるだけやってみるね。討ち損じたらごめん。」

と答えた。

「では、まず生唯さんの奇襲。なるべく一体は仕留めていただけるとありがたいです。見た所右奥の見張り台上の一体が弓を装備しているので、その一体からのほうがいいと思います。先程と同様に妖魔が混乱しているところに私と優絆さんでボスコボルトの足元へ急襲をかけて体勢を崩し、そのままボスと戦闘します。ですので、生唯さんは周りを倒して補助に回ってください。」

「わかった。頑張るよ。」

「おっけ〜。」

理慈と戦略を確認し、短く返事する生唯と優絆。すぐさま銃に貫通力の高い鉄弾を装填し、アイアンサイトを窺う生唯。

大体あのコボルトとは20mくらい離れてる。距離から考えてもおそらくは無偏差で撃てるはず。中の再装填には10秒かかるから、3体倒すにはうまくいって一分、もたつけば二分以上かかるだろう。

深呼吸をし、呼吸でブレる照準を鎮めた。もう一度照準を覗き込み、周囲を警戒して動くコボルトの頭部に合わせる。

まだ、まだだ。全てのコボルトがこちらを見ていないその時。その時に撃つんだ。

周囲の音が聞こえなくなるほど集中した生唯は、慎重に引鉄を引いた。

頼む、当たってくれ。

生唯が撃ち出した弾丸は、風が風を切り、右のコボルトの頭蓋、人間で言う頭頂骨を貫き、頭頂葉、視床を切り裂き左の眼窩を穿った。途端、コボルトは力なく蹌踉よろけて頭から地面に落下し、鈍い音がなった。見張り台付近にははじけた硝子体がぐちゃりと垂れ、コボルトの青い血液と混ざり合いマーブル模様を呈していた。その異様に気づいた他のコボルトが少し呆気にとられたその刹那、距離を詰めていた優絆と理慈がボスコボルトの腱に深く創傷を与え、膝からがくんと崩れ落ちた。

よし、二人とも良さそうだ!

優絆らの方を横に見ながら、銃の再装填を済ませた生唯。すぐさま、ボスコボルトの前方に陣取り距離を保ちつつ武器を構えるコボルトの眉間に照準を合わせて発砲。糸が切れたように絶命したコボルトが倒れるのも見ずに再び再装填し、今まさに一匹になったコボルトに照準を合わせる。ボスコボルトの方はというと、優絆がボスの大剣を旋棍トンファーで受け流し、隙ができた腕に理慈が薙刀で切り込んでいる。初めてとは思えない連携だ。

あっちは大丈夫そうだし、今はやれることをやろう。

そう意識を切り替え、残りのコボルトを撃ち抜く。今度は眉間を正確に突き抜け、少し痙攣しながら倒れた。それを確認した生唯は銃に威力の高い鉛玉を装填し直し、残るボスコボルトに狙いを定めた。現在ボスは優絆と理慈の連携によりおそらく利き腕である右腕を重点的に攻撃されたため左手のみで160cm程の斬馬刀を振るっている。優絆がトンファーでそれを受け流し、理慈がスイッチしてボスを攻撃してはいるものの、ボスの巨躯と斬馬刀の広い間合いのため依然致命傷とはならない。ボスは両足の腱を傷付けられ半ば膝立ちであるが、その首までは理慈の薙刀も届き得ない。

成程、おそらく首を掻っ切るか心臓を突くか頭を潰すか何かすれば倒せそうだけど、この銃の威力じゃ頭蓋は貫けなさそう。とすれば目を狙うべきだけど、まだ剣を持っている以上振り回される可能性があるから左手を無力化した方が良さそう。

そう思いつつボスの左手、掌から手首にかけてを狙う。

ボスの大振りが終わったその硬直時間、その瞬間に撃ち込む。

優絆にボスの攻撃を右に受け流してもらうため、生唯は

「優絆、次右払い!」

と叫び、トリガーガードに手をかけ待機。すると、ボスがちょうど袈裟斬りの構えをし、優絆らに振り下ろす。優絆がすかさず右に払った所でトリガーを引き、直線上に並んだ小指球と手首に深く撃ち込んだ。衝撃に耐えきれずに左へ仰け反ったボス。

「優絆!後ろに倒して!」

呼びかけた生唯に返事するよりも早く反応した優絆は

「おりゃぁぁ!!」

という猛々しい叫び声を上げながら旋棍で左胸を強打した。立て続けに左側を攻撃されたことにより重心がズレ、体勢を大きく崩して後ろへと倒れたと同時、理慈が駆け出してボスの首を掻っ切り心臓へと一閃。強烈且つ急所ということもあり、遠目から見ていた生唯にもわかるほどの勝負を決するのには十分すぎる攻撃となった。

「Lvガアガリマシタ。」

という指輪からのメッセージが届いた。

レベルが上がったということは…。はぁ、どうやら無事に終わったようだね……疲れた。

ふとステータスを確認すると、今まで消費したMPが回復しており、増えた分のSTやHPも含め補填されていた。Lvを見ると、どうやら上がったのは一つ。トレーネの話によると、Lvとは一つの経験の量を測る尺度で、自分と敵とのLv差が大きい程経験の量が得られ、一定値に達すると上がっていくものらしい。

優絆達へと駆け寄りながら無事を噛み締める生唯。すると、先程までボスの遺骸に手を合わせていた理慈が振り返り、

「お二人とも、無事ですか?」

と呼びかけ、優絆の方へと向かっていった。

「お疲れ様です。ボスの攻撃を直に受け流していましたが、怪我はありませんか?」

「平気平気!運動で結構衝撃には慣れてるから!」

いや、それなんか理由になってない気が…

そう思う生唯とは対照的に、

「そうですか。良かったです。」

と返答する理慈。

天然なのかな…

生唯がそう思っていると、理慈が向かってきた。

「生唯さんもお疲れ様でした。支援、ありがとうございました。」

「いやいや、結構ヒヤヒヤしたけど当たってよかった。そっちもボスの相手お疲れ様。」

「やったーーー!!!勝ったどー!」

優絆も途中から参加し、口々に礼を言い合って勝利を噛みしめる一同。

「よし、これで帰還できますね。」

「え、なんで?」

おいおい優絆さんよ、そんなことも忘れたんかいな。

何も聞いてない優絆に呆れつつも、答えを教えるために口を開こうとした生唯。しかしそれに被さるように理慈が、

「聞いて、」

「シュヴェートさんの話を聞いてなかったのですか?今回の目標はこの伏魔殿に生息しているコボルトのボスを討伐し、その角を持ち帰ることですよ。きちんと話を聞きましょうね。」

と伝え、窘めた。窘めた。

「ごめん、次からは気をつけるよ。」

しょんぼりした顔をしつつ、そう答える優絆。

「まあ勝てたんだし、持って帰ろう。」

背中のリュックから糸鋸を取り出し、ボスの角に近づいた。ボスの角は鮮明なコバルトブルーをしており、所々には光沢もある。シュヴェートの話によると、コボルトの支配者階級は洞窟の中でとれた食物をそのまま食べず、周辺にある鉱石を砕いてふりかけ、装飾して食べる。その影響で食した金属の化合物が角に堆積し、青や黒、白などの様々な色を付けて肥大化するそうだ。その角には純粋な金属が溜まりやすいので、支配者階級のコボルトの角は大変重要で高値で取引されるらしい。

正直言えばこの角の分のお金が欲しいところだけど、まあ家賃とか食事代とかの対価と考えればいいか。

内心の不満を理由を付け、押し留めながらも、糸鋸で角を切り取り、背中にしまい込んだ。

「よし、こっちは切り取り終わったよ。そっちはどう?」

傍らに伏すコボルトの耳を切り取っていた優絆と理慈に呼びかけた。

「こっちもおわったよ〜。」

「こちらも終わりました。」

どうやら終わったようだね。はぁ、やっと帰れる。何事もなくてよかったなぁ。

安心した生唯はどうやらため息が漏れたようで、

「溜め息なんかついちゃって、ほら、帰るよ。」

と優絆に心中を見破られ、指摘されてしまった。

「あ、地図渡しておくね。」

生唯は先導するであろう優絆に地図を渡し、身なりを整えた。

「ではお二人とも、忘れ物はないですね。さあ、帰りましょう。」

理慈が呼びかけ、理慈と優絆が先導して洞窟の大広間を出た。生唯もそれに続こうと通路へと足を踏み入れようとしたその瞬間、

―――パラッ、ゴロゴロドッゴーンッ―――

通路を塞ぐように上の地盤が崩れ、落下した。

え、マジか…どうしよ。

困惑して硬直している生唯に、優絆が呼びかけた。

「生唯!大丈夫!?巻き込まれてない?」

優絆の大声で正気に戻った生唯は

「あ、うん。一応巻き込まれてはない。」

と返答した。

「今助けます。」

理慈がそう呼びかけたが、すかさず生唯が返した。

「いや、ちょっと待って。無理やりこじ開けるのは危ないと思うよ。まあ巻き込まれてないからそこまで緊急性のある事態でもないし。それにしても、本当、足を踏み込むのがあと一秒早かったらひしゃげてたよね。ははは。」

「そ、そうですか。わかりました。」

生唯はそうおどけてみせたが、内心では少し焦っていた。

洞窟に閉じ込められたとして、空気は持つのだろうか?一応塞がったとはいえ微細な隙間があるけど、壁も厚いし入口まで距離がある。そもそもこの瓦礫を崩すのは優絆や委員長にはできないだろう。かと言って僕もできないし。となれば取れる選択肢は二つ。そのうち安全なのは…

「とりあえず二人、地図は渡してたよね?」

「うん。」

「じゃあ二人でその地図に沿って洞窟を脱出して、助けを呼んできてくれないかな。」

「え、でもそれじゃ生唯が一人に…。」

「二人でいかないと危ないと思うし、そっちの通路もまだ崩落するかもしれないから離れないと。幸いこっちは広々としてるから崩落の可能性は薄そうだし。委員長も、先導頼んだよ。」

「わかりました。」

そう、これが僕が生き残る選択の内、最も最善なものだ。助けを呼んで広間に待機。下手なことをせずにいればいいのだ。因みにもう一つの選択肢は洞窟の奥へ進むこと。まだ続きがあるみたいだししかも上りだ。しかし、奥には行きたくない。だって怖いもん。

「では行きましょう、優絆さん。」

「わかった。」

そう応答を終えた優絆らに、

「じゃあ、グッドラック。」

と応援をかける生唯。そしてそれに応えるようぬに

「そっちもね。」

と優絆が返事し、

「なるべく早く来るので、無事で待っていてくださいね。」

と格好良く(当社比)返事する理慈。そうして二人の足音は遠のいていった。













「さて、どうしますかね。」

生唯は呟いた。洞窟ということもあり、声は反響した。

ああ戯けてみせたけど、流石に洞窟に一人ぼっち、しかも出られないと来たら恐怖不可避だよね。秒針がクロノスタシスしまくりだね。

ふと広間に転がる死骸を見た。

いや、自分でやっておいては何だけど、死体グロすぎないかな。これと一緒にいるの嫌だし、片付けておくか。

近くに転がるコボルトのものを一つ、両手で掴んだ。死骸は意外にも重く、コボルトの筋肉量が窺える。

小柄なのに結構ガッチリしてるから、相手取るには結構な力と速度が必要そうだよね。これをあの二人が相手してたってのが信じられないよ。僕なら近接戦闘が始まるまもなく死亡だよね。いやー、怖いねぇ。若い芽は。

自分も一応若い芽であることをさておき、改めて優絆らの戦闘力に感心する生唯。いよいよ二つ目に取り掛かろうとしたその時、洞窟の奥から嫌な音が聞こえた。

――――――――――――のし、のし、のし、のし、――――――――――――

マジか…さっきフラグ立てたのがいけなかったのか。クソ、やっぱ深部につながってたか。さっきコボルト達が後ろを警戒している不自然さを見落としていた。

大きな足音を立て、『何か』が近づいてくる。その音は徐々に近づき、終に、広間へと顔を覗かせた。目は大きく顔の中央に寄っており、鼻が前に突き出ており、鋭く長い牙を涎で湿らせ、ランタンのか細い光を反射して淡く光っていた。生唯を見つけるや否や、鼻息を荒立たせ、足を踏み鳴らしてこちらを睨んだ。部屋にはガチガチと牙を噛み合わせる音が鳴り響き、生唯の脳内は一触触発の信号が留まることを知らなかった。

ヤバい、これはマジでヤバい。

あまりの衝撃に語彙力すらも失った生唯の前に、『何か』が徐ろに向き直る。

よりにも寄って、大きいイノシシ。

ゆっくりと後ずさりし、距離を取ろうとする生唯。しかし元々壁の付近に居たためあまり距離を取れなかった。

クソ、どうすればいい?

小考した末、死骸を足で大イノシシの左側へと押し出した。瞬間、大イノシシは死骸の方へ一直線で突っ込み、死骸を跡形もなく爆散した。

マジかよ…

そう呆れる暇もなくすぐに生唯の方へ向き直り、再び突進する大イノシシ。

「うわッてぇッ!」

寸前の所で避けた生唯だったが、体勢を崩して尻もちをつく。しかし、大イノシシは既に突進を始めており、それに遅れて気づいた生唯も体を翻したが、避けきれずに左足を持っていかれた。

「がギッt、gわァ!」

声にもならない悲鳴が広間を満たし、反響した。

クソッ、クソッ!どうすれば…。あ、副腎髄質を【生か】せば…。

「【生きる】ッ!」

どうにか腹から引き絞った声で能力を発動させ、思考の邪魔となる痛みを消す。

今は反動だの言ってられない。どうにかして生きなければ。

なるべく急所を攻撃されないよう、残った三肢で身体を持ち上げる。その間にも大イノシシは突進を繰り出している。

「ぐッッ、どりゃァッ!」

右足首を犠牲にして何とか胴を守った生唯だが、もう立ち上がるすらことできなくなった。しかし、呻き声を上げつつも残る上肢で必死に踠き、這いつくばりながらも避けようとしている。

「なんと……してで…も、生き延びて……みせ……」

言いかけた言葉を遮るよう、大イノシシの突進によって、生唯の骸は広間の壁にぶつかって、パシャりと音を立てて弾けた。


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