第十話・幸運のお守り(2)
ダフネと別れ、樹の祭壇を後にした面々。
ルルディとゼフィランサスの先導で、遺跡の入り口にある大きな門の前に行き着く。
そう。長い石段を登った三人を最初に出迎えてくれた、あの立派な遺跡の門だ。
思えば――ここに初めて足を踏み入れた時は、互いの勘違いから事が始まった。
レオンたちは、熊のクーマンが襲ってきたと勘違いして。
ゼフィランサスは、レオンたちがクーマンや精霊に危害を加えに来たと勘違いして。
ひと悶着したのち、ようやく遺跡の門をくぐる事が出来た。
そこからルルディのなぞなぞ関門をクリアして、ダフネのもとに辿り着き――。
怪物の仲間であり、冥界の門番同士であるヒュドラとネメアが“デスペナルティ”として大精霊の封印を行っている事を知った。
樹の祭壇にいた期間は一週間という短い間だったが、護衛という状況で緊迫していた事もあり、流れる時間はゆったりしたようでとても重く感じられた。
とはいっても、この戦いはまだ始まったばかり。
これから先、どんな答えが待っているのだろうか――。
「ルルディ、ゼフィランサス。お見送りに来てくれて、どうもありがとう!」
フィトはそう言うと、樹の精霊たちにぺこりと頭を下げる。
『……いーってことよ! ダフネ様の分まで、しっかり見届けなきゃねーっ!』
『……ここからまた長い旅になります。くれぐれも、お気を付けて』
ルルディに続き、ゼフィランサスはそう言うと――。
フィトの方へ歩み寄り『……フィト、これを』と、何かを手渡した。
「えっ、なぁ~に?」
ゼフィランサスがフィトに渡したのは――、
細い糸で編まれた、三本の華奢なブレスレットだった。
ブレスレットは朱色、山吹色、翠色で色分けされており。それぞれに真鍮で出来た花のモチーフが取り付けられていた。
黄銅色をした真鍮が陽光を浴びて、鈍く上品な輝きを放っている。
いかにもフィトが好きそうな、レトロで可愛らしいデザインだ。
「わぁ! 可愛いっ!」
翠の瞳をキラキラさせながら、思わず率直な感想をもらすフィト。
レオンとリオンも、フィトが何を受け取ったのか気になったようだ。首を曲げて、少女の手の中を覗き込んでいる。
『……そのブレスレットは、ダフネ様から預かったものです』
「ダフネ様から?」
『……はい。きっと、これからの旅に役立つでしょうと言っていました』
ゼフィランサスはダフネの言ったままを伝え、眼鏡をかけ直す。
それから間髪入れず、隣で話したそうにうずうずしていたルルディが『……旅のお守り、なんだってー!』と、付け加える。
「おまもりかぁ。……なんか、こういうの、あったかくていいね」
手渡されたそれをまじまじと見つめ、フィトは嬉しそうに目を細めた。
『……ダフネ様が自ら編んで作ったようです。いつの間にか作っていたみたいで、あなたたち三人に渡して欲しいと預かりました』
「三本あるのって、僕たち全員にってことだったんだねぇ」
「なんか悪いな。俺たちまで貰っちゃってさ」
『……ダフネ様が言うには、レオンとリオンに重要な効果があるそうですよ』
ゼフィランサスの言葉に「「「重要な効果?」」」と、声をそろえて聞き返す三人。
こくりと頷き、ゼフィランサスは続きを話す。
『……そのブレスレットを身に着けると、人間に怪物の姿を隠すことが出来るらしいです。つまり、耳や尻尾が見えなくなって、人間に見えようになる……との事でした。いわゆる、マジックアクセサリですね』
説明を聞いて、目を丸くする三人。
フィトは相変わらず「すごーいっ! 幸運のスーパーブレスレット、だね!?」と、お得意のネーミングをしているのだが。
「ほおー! 正直、それはすげー助かるな!」
「そうだね。そろそろやり過ごすのも限界だと思ってたからねぇ」
「ああ。このなりのせいで、人間たちにジロジロ見られるからな。こういう種族なんだからしゃーねぇだろっつう……」
色々な事を思い出し、鬱憤を晴らすように話し続ける兄を差し置き――。
「でもなんで? 僕たちそんな相談したっけ?」と、リオンは不思議そうに首を捻る。
それに対し――質疑応答するような要領で、口を開くゼフィランサス。
『……地上の旅を続ける上で、人間との関りは切っても切れないものです。旅に支障が出てしまいそうな問題は、解消しておいた方がいいでしょう。これは、大精霊である自分に出来る精一杯の配慮だと……そう、ダフネ様はおっしゃっていました』
それを聞いて、思わず顔を見合わせるレオンとリオン。
「なるほどねぇ~。さすが大精霊、先を見据えてのお守りってことかぁ。そういう事なら、直接言って渡してくれればいいのにぃ」
「ああ。お礼くらい言わせてほしかったぜ」
などと、ため息交じりに本音を漏らしてから――、
「ありがとうって、ダフネ様に伝えておいてくれ。素直に助かるし、感謝するよ」
そう言って、レオンはゼフィランサスに笑顔を向けた。
『……ダフネ様って、サプライズが好きだったりするからねー。私やゼフィランサスにも、突然なんかくれたりするしー?』
『……そうですね。変なものが多かったりしますが』
『……こないだのは可愛かったけどねー! なんだっけ、異国の赤白の服~とかなんとか言ってたやつー!』
『……何はともあれ、そのプレゼントはまともで安心しましたけどね』
ルルディとゼフィランサスは、同じような表情でうんうんと頷く。
それにしても、異国の赤白の服とは、一体何なのか。
三人からしてみれば、まったく想像もつかないのだが――。
『……あ、そうそう! ダフネ様がこんな事も言ってたよー。……皆でお揃いがいいかと思ってねぇ~。可愛いでしょう~? ってねー!』
愉快に声マネをしながら、手でハートを作るルルディ。
それを聞いて「あははっ! 上手上手ーっ!」と、フィトだけが楽しそうにぺちぱちと拍手を送る。
ゼフィランサスはフィトの手にあるブレスレットを指し、
『……翠色がフィト。朱色がレオン。山吹色がレオン。……だそうですよ』
と、決しておふざけに乗ることなく、真面目に話を付け加えた。
おそろいという言葉に、さらに喜んでいたフィト。
ゼフィランサスの言葉を聞き、さっそくブレスレットをつけ始めた。
「おそろいブレスレット! 幸運のスーパーお守り! えへへ! ……ほら、レオンとリオンも!」
「お、おう……」
「ブレスレットなんて初めてつけるかも~。女の子は、こういうのがスキなんだねぇ~……」
兄弟はフィトからブレスレットを受け取るも、アクセサリーの構造がよく分からないようで。上手くつけられずにもたもたしている。
ふたりして「あれ?」「なんだこれ……」「ムズカシイな~」「めんどくせー」などと、文句をこぼしつつ奮闘している。
レオンとリオンもまた、フィト以上に“おそろい”という言葉に興奮を隠せないのだ。
好意を寄せる相手とおそろいだなんて、嬉しいことこの上ない。
ただしそれよりも、気恥ずかしい気持ちが勝ってしまうのだが。
「ほら、ふたりともかして? つけたげる!」
フィトはそう言うと――。
レオンとリオンの手からブレスレットを取り、手際よく付けてくれた。
「やったぁー! フィトとおそろいっ! ありがと~!」
「えへへ!」
満面の笑みで、素直にはしゃぐリオンに比べ――。
レオンは、隠しきれない口のゆるみを隠すため、口元を手で覆うだけでいっぱいいっぱいだった。
兄弟でこんなにも違うものかと――。
自分たちのことは棚上げなルルディとゼフィランサスは、その様子を面白おかしく観察していた。




