第十話・幸運のお守り(1)
準備を終え、いよいよ出発の時――。
大精霊であるダフネは、精霊石がある樹の祭壇を離れる事が出来ないため、祭壇の入り口で三人を見送ってくれていた。
『……それじゃあ~、私はここまでしかお見送り出来ないのだけれど~。ルルディとゼフィランサスが遺跡の門まで送って行ってくれるからねぇ~』
そう言うと、ダフネはにっこり笑って見せた。
「ダフネ様、いろいろとありがとう!」
『……お礼を言うのは、こちらの方よぉ~。風の祭壇まで、道中気を付けてねぇ~』
「うんっ! ピンチの時には、必ず戻って来るからね! ダフネ様も、くれぐれも周りに気を付けてね! お昼寝する時は、絶対にゼフィランサスとルルディが側にいるときにしてね! それから、えーとえーと……」
心配そうに自分を見つめるフィトを、ダフネは優しく見つめ返し――。
いつかの水浴びの時のように、その小さな身体をぎゅっと包み込んだ。
「だふねさま……?」
『……フィトちゃん。これから先、過酷な運命が待ち受けているかもしれない。悲しい思いも、苦しい思いも、たくさんするかもしれない。……だけどね~。いつでもあなたの身を案じて、大切に思っている人がいることを決して忘れないで。辛くなったら、その事をきっと思い出して。……私たちも、ずっと変わらずにフィトちゃんの味方でいるから~』
ダフネはそう言って『……さぁ。気を付けて、いってらっしゃい~』と、フィトの身体をそっと離す。
木々の木漏れ日が、鮮やかなグラデーションの髪を煌めかせ。花舞うあたたかな光の下、樹の大精霊ダフネはひらひらと手を振る。
「ダフネ様、俺たちも礼を言うよ。怪物の俺たちの事、信じてくれてありがとうな。仲間の事は、俺たちが責任を持って止めてみせる。それまで、何とか無事でいてくれよ」
「フィトの安全は僕たちに任せて。絶対に危険になんてさせないからさ!」
レオンとリオンはそう言うと、ぐっと親指を立てて見せた。
それぞれに言葉を交わした所で『……そろそろ参りましょうか。早くしないと、日が暮れるまでに山を下れませんよ』と、ゼフィランサスは面々に告げる。
その言葉にこくりと頷き――。
レオン、リオンは、ルルディとゼフィランサスと共に、遺跡の門に向かって歩き始める。
少し遅れて、名残惜しそうにフィトもダフネに背を向ける。
その小さな少女の姿を、いつまでも瞳に映しながら――
『……また、一緒にここに来てくれるのを待っているわ~』と、一人になった樹の大精霊はそっとつぶやく。
共に年月を過ごした大樹と、古びた遺跡に思いを馳せながら――。




