第九話・冥界に戻るには(3)
気を取り直し――、ダフネは三つめの冥界に行く方法を話し始める。
『……そして~、最後の三つめなのだけれど~。これが一番簡単で、なんともお手軽な方法なのよぉ~』
「えっ? 今までの方法は、結構リスキーな感じだったのに?」
ダフネの言う事に対し、胡散臭そうに言葉を返すリオン。
それを聞いてもなお、ダフネは微笑みを絶やさない。
『……それはねぇ~。ジラソーレ島にある火山の中に~、ぴょんと飛び込むのよ~』
恐ろしい事を、にこにこ笑顔で口にするダフネ。
その発言を聞いて、期待の眼差しで回答を待っていたフィトも。
胡散臭そうに、ジト目を向けていたレオンも。
どんな珍解答が来るのかと覚悟していたレオンでさえも、唖然とした表情で絶句する。
この大精霊は一体、何を言っているのだろうか――?
火山に飛び込むなど、もはや正気の沙汰ではない。人間は当然、怪物といえども自殺行為だ。
「あの~……、ダフネ様?」
引きつった笑顔で右手を挙げ、担当教師に質問を投げかけるようにリオン。
『……なにかしら~?』
「火山に飛び込むって、冗談か何かですかねぇ?」
『……いいえ~、至って本気よ~?』
変わらず、うふふふ~と、即答するダフネ。
それを聞いて、リオンは再び絶句させられる。
一方で、金縛りにかかったように動かなくなっているフィト。
レオンが「おい、フィト? 大丈夫か?」と声をかけるも、全く反応がない。
意識を呼び戻そうと、目の前で手の平をひらひらとチラつかせていると――。
ようやくフィトは瞬きを思い出した。
そして突然、壊れたロボットのように「だ、だだだだだだ……!」と、発し――
「ダフネさま!? 火山に飛び込んだら、私たちしんじゃうよ!? そんなに身体は頑丈じゃないよ!? ……あ。でもでも、レオンとリオンは怪物だから、マグマにも負けない不死身のボディを持ってるのかな……!? そしたら、私はどうやって入ったらいいのかな……!? マグマって、もしかしてお風呂みたいに潜れちゃうものなの……ぷしゅ――――」
どうやら、フィトは思考力の限界がきたらしい。
ぶっ飛び過ぎた話に頭が耐えられなかったようで、パニックを起こしてしまったようだ。
思考回路がショートしたように、頭から白い煙が立ち込めている。
『……ちょ、フィトっちってば大丈夫!?』
『……ダフネ様! あまりフィトをからかわないで下さい! 可哀想です!』
黙ってやりとりを聞いていたルルディとゼフィランサスは、さすがに好き放題のダフネをギロリと睨んだ。
ルルディにぺちぺちと頬を叩かれて、フィトはようやく「んぁ……?」と正気に戻る。
『……からかってないわよぉ~。こんなにも真面目に話しているのに~』
『……どこが真面目なんですか、どこが!』
『……はいはい~。これから細かぁ~く説明するわよぉ~』
どやされてもなお、悪びれることなくダフネは笑っている。
そして――、その詳細とやらを語り始めた。
『……うふふ~、心配ご無用よ~。飛び込む前に、合言葉を言えばいいんだもの~』
「「「合言葉?」」」
仲良く声をそろえる三人に、ダフネはこくりと頷く。
『……“魔界いいとこ一度はおいで、陰気な隠居もご愛敬”――って、言うらしいの~』
楽しそうになおかつ、あっけらかんとした様子で言ってのけるダフネ。
予想の軽く斜め上をいった解答に――レオン、リオン、フィトは口を半開きにさせて固まる。
『……今日の出来事は、塊魂ってタイトルにして史書に残そーかなー』と、乾いた笑いでルルディが言うと。
『……そうですね。歴史的珍話になること間違いなしです』と、真顔のゼフィランサスは珍しく同意を示した。
「ナニソレ……」
「悪趣味な合言葉だな……てか、らしいって何だよ」
「な、なんか、早口言葉みたいだねっ!?」
硬直からなおった三人が、それぞれに感想を述べた所で――。
気を取り直してレオンは「とにかく……その合言葉を言えば、死なずに冥界に行けるんだな?」と、念を押す。
『……そうよぉ~。火山の噴火口が魔界に通じているのよ~。魔界から冥界までは簡単に行けるから、問題はないでしょう~?』
「それは……」
「そうだけどさぁ……」
『……ちょっとスリリングだけどぉ~、この火山を通って行けば、何に気兼ねする事無く冥界に戻れるわよ~』
ダフネの言うことが本当ならば、ある意味で一番安全かつ、簡単な方法と言える。
しかし。そう言われても、にわかには信じがたい話しであるというのもまた事実――。
『……不安に思うのも、無理はないわ~。普通では、ありえない事だもの~。』
表情を曇らせるレオンとリオンに、ダフネは言う。
『……でもねぇ~。力を持った者ならば、ゲートを繋げる程度はぁ、容易いものなのよ~』
花文様の入った瞳を細め、樹の大精霊はそう言い切る。
その瞳には、間違いなく真意が宿っていた。
ただ――その言い回しに加え、ダフネの瞳の奥には他意が含まれているようにも感じ取れた。
それは、精霊が力を持たない種族であるということを強調しているのか。
はたまた、何か別のことなのか。
そんな風に勘繰る、犬耳兄弟を他所に――。
「私、信じるよ!」と、凛とした声でフィトは言う。
「どんな本をみても書いてないけど、マヌケドリに聞いても罵倒されるけど……でもね、もしかしてほんとーに出来ちゃうかもしれないよ!? だって、大精霊のダフネ様がそう言うんだもん!」
大真面目に訴えかけるフィトに――。
レオンとリオンは顔を見合わせ「どっきりどっきりどんどん?」「びっくりびっくりびんびん?」と、深く頷き合った。
「確かに……残された方法がこれしかないんなら、これに賭ける他ねーよなぁ」
「そうだねぇ。まぁ~、僕はいまでも半信半疑だけどさ……」
底抜けの素直さに、ふっと笑う兄弟。
煮え切らない言い方をしていたリオンだったが「……でも。フィトがそう言うなら」と、乗り気になってくれたようだ。
それを聞いて、フィトは嬉しそうに微笑む。
「でもダフネ様、よくそんな方法知ってるね! カリスト様も知らなかったみたいだよ!?」
純粋な驚きを込めた声で、フィトは言う。
もとより――それを疑問に思っていたレオンとリオンは、その返答を待ちわびていたようだが。
『……うふふ~。のじゃ姫よりは、ずっと長く生きているもの~。それくらいは知ってて当然よぉ~』
「ダフネ様は、物知りなんだねっ!」
そんな風にきゃっきゃっと話す、フィトとダフネ。
レオンとリオンからすれば、その返答は当り障りのないものに聞こえないでもなかったのだが。
そこまで突っ込むような内容ではないか……、と兄弟は目と目で会話をした。




