第九話・冥界に戻るには(2)
昼下がりの樹の祭壇に、今日もあたたかな陽光が差し込む中――。
『……それじゃあ~、私の知っている限りをお話しするわねぇ~』と、マイペースな樹の大精霊は話を切り出す。
『……地上から冥界に行く方法は、三つあってねぇ~。まず一つめは、さっき話したエリュシオンから、冥界の扉に入ること~。……そして二つめは、東の大陸にある神々の住むオリュンポス山から天界に行って、そこから冥界の扉に入ることよ~。この二つは、扉に入るって言う過程が同じだから、ちょっと似ているわねぇ~』
『……ただねぇ~』と、ある事を危惧するダフネは言葉を詰まらせ、
『……この二つの方法で冥界に戻るのは~、まず、無理だと思った方がいいわ~』
少し真面目な顔で、そう言った。
「どういう事だ?」
「三つのうち、二つが無理……?」
顔を見合わせる犬耳兄弟に、フィトが助言するように口を開く。
「あのね。楽園エリュシオンには、人間は立ち入れない決まりになっててね」
「「立ち入れない……?」」
ますます分からないといった顔で、レオンとリオンは首を傾げる。
「昔ね。エリュシオンを巡って、人間が争いをしていたらしいの。それに怒った神様が“呆れる程に嫉妬深く貪欲で無恥な人間どもよ。貴様たちの奢った思考で傍若無人な振る舞いをするなぞ断じて許さん。絶滅したくなければここから立ち去れ!”……って、立ち入り禁止にしちゃったんだって。それ以来、人間はあの土地に近づく事を禁じられてるんだよ」
フィトの説明を聞いて「なるほどな」と、レオン。
「人間が立ち入れないって所に、怪物の俺たちが行くとどうなるだろうな」
「デスペナルティの件があるからねぇ~。ただでは済ませてもらえなそう……っていうか、命あるのかな?」
「さぁな。……どっちにしろ、フィトを危険に晒す事になるんなら、その方法はパスだ」
「当然だね」
頷き合うレオンとリオンに、再びダフネは告げる。
『……もう一つの、オリュンポス山から天界に向かって~という方法なのだけど~。こっちはねぇ、天界は神じゃないと入れないっていう掟があるのよ~』
「もとより、バカミサマ共の世話になる気はねぇよ」
「神様と地上で鉢合わせたら、どうなるかねぇ?」
「まともに取り合ってもくれないだろうな。あいつらは、怪物を見下してやがるからなぁ」
レオンとリオンの話しを聞いて、少し悲しそうにフィトはうつむく。
そして、初めて気付くのだった。想像を超えたアンバランスな世界で、自分はずっと生きてきたのだと。
神様、精霊、怪物――――。
人間たちの知らない所で、他の種族はこうしていがみ合い、卑下し合い、互いを嫌い合ってきたのだろうか。それも、ずっと昔から。
その原因はもしかしたら些細な事かもしれないし、とんでもなく根深いものなのかもしれない。
その理由は、よく分からないけれど――。
同じ世界に住む者同士、仲良くはなれないのかな――。
フィトは、そんな事を思う。
いつか、皆が手と手を取り合って、笑い合える世界になったらいいと。
少女はそう思いながら、そっと願った。




