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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第六章・大樹が護りし古の遺跡
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第七話・進むべき道(4)

「ダフネ様。昨夜は勝手にここを離れちまって本当に悪かった。感情的になりすぎたよ」

『……解決したみたいで、よかったわぁ~。いいお顔、してるもの~』



 にっこりと、そう話すダフネに反し――。

 顔をしかめるゼフィランサスは『……いいえ。ちっとも良くありません』と、横から口を挟む。



『……ちょっとちょっと、ゼフィランサス! レオっちもリオっちも、ちゃんと謝ってくれたじゃん! もうあれでよくない?』

『……良くありませんよ。それに、私はまだ彼らを許していません』

『……ねちっこいなー、もうやめてよー。せっかくの果物もまずくなっちゃうしっ』

『……ルルディは黙ってて下さい。……ダフネ様、本当にこのふたりに護衛を任せていいのですか? 私はやはり不安です』



 兄弟に厳しい目線を向け、ゼフィランサスはそう話す。

 ゼフィランサスはどうしても、リオンとレオンに対して収まらない気持ちがあるようだった。

 レオンとリオンが元仲間であるデスペナルティとの戦いで手を抜いたり、戦闘が終わるやいなや衝動的にこの場を離れたりと、大切に思うダフネの命を預けるには信用に欠けると感じているのだ。

 ふたりに対してキツく当たるのは、その無責任さと身勝手さに腹を立てているからだろう。



『……協力してくれている事は感謝します。あなたたちの元仲間を思う気持ちが分からない訳でもありません。……ただ。護ると約束を交わしておいて、いささか身勝手が過ぎると言っているんです』



 ゼフィランサスの言う事はもっともである。

 しかし、リオンもゼフィランサスに対して正直なところ苛立ちを感じていた。

 戦闘で手を抜いた事は、昨夜すでに和解したはずだ。カチンときたが、自分が悪かった事はきちんと謝ったのだ。

 解決した話を蒸し返されて、(しゃく)に触ったリオンはすぐさま反論する。



「あのさぁ、いい加減にしない? その事なら、僕も兄さんも謝ったはずだけど?」

『……謝る、謝らないの問題ではありません。信用問題です』

「じゃあどうすればいいわけ? どうしたら満足なの? それに、君たちが身を護る方法って他にあるのかなぁ?」

『……そ、それは』



 そう言って口ごもるゼフィランサスに、とどめを刺すようにリオンは続ける。



(とが)められても仕方ない立場なのは分かってるけどさ、気分悪いんだよねぇ。そんなに僕たちに頼るのが嫌なら、ボディーガードでも雇ったらいいんじゃない? あぁ、無理かぁ。なんせ、精霊は孤立した存在だもんねぇ~」

「リオン。もうその辺でやめとけ」

「いやいや、先に吹っ掛けてきたのはあっちなんだよ?」

「だからって立場利用して意地悪い事言っていいわけじゃねーだろ」



 そう言うレオンがつい、と視線を送った先には――。

 言い返す事が出来ず、悔しそうに涙を溜めるゼフィランサスの姿があった。


 それを見てリオンはぎょっとしたかと思いきや――、「はぁ。泣けばいいと思ってるわけ?」と、冷たい一言を呆れ顔で言い放つ。

 好意を寄せるフィトが涙したとしたらそんな事は絶対に思わないし、こんな風に心無いセリフを吐くこともないだろう。


 リオンは論戦で歯向かってきた相手に対して、容赦せず論破してことごとく潰すのがモットーなのである。相手が女だろうが男だろうが、泣こうが喚こうが知ったこっちゃない。

 しかし――。そんな冷淡な態度を取るリオンに対し、非難の声が殺到する。



「リオン、それは酷いよ」

「ああ、そうだな」

『……女の子泣かせといて、その一言はどうかと思うなー』

『……そうねぇ~。いじわるは、ダメよねぇ~?』



 全員にじろりと視線を向けられ、しどろもどろになるリオン。

 しかし。よほど心情的に従えないようで、リオンは不満そうに口を尖らせた。



「ええーっ、僕が悪者なの!?」

「リオン、泣いてる女の子にあんな酷いこと言うのはダメだよ。そんなのは、問答無用で悪者ですっ!」

「そ、そんなぁ……」



 フィトに叱られたため、たれ耳をへにゃらせてしゅんとするリオン。

 ただし。自分が言った事に関しては反省する様子なく「そんなのは不条理だよ~……」などと、ぶつくさ言っているのだが。



「ゼフィランサス、リオンが酷いこと言ってごめんね? でもね、リオンも悪気があるわけじゃないんだよ?」

『……そうでしょうか? あの言葉は、悪意に満ち溢れていたように感じました』

「それは、そうかもしれないけど……売り言葉に買い言葉っていうのかなぁ……? ほら、みんな負けず嫌いだから、ね?」

『……あんな事を言う怪物なんかには、もう頼りません。自分たちだけで何とかして見せます』



 そう強気で言い放つゼフィランサスに、ルルディはぎょっとして声を上げる。



『……えっ! ゼフィランサス、それ本気で言っちゃってる?』

『……もちろんです。今までだって、私たちだけでこことダフネ様を護ってきたじゃないですか』

『……それはそうかもしれないけどさぁ』



 完全に意地を張ってしまっているゼフィランサスに、ルルディはかける言葉を見失ってしまった。

 そんなゼフィランサスをまっすぐに見つめ、フィトは声をかける。



「ゼフィランサス、あのね。レオンとリオンのこと、信じてあげてくれないかなぁ」

『……とてもじゃないですが、無理です』

「それは、レオンとリオンが怪物だから?」

『……いえ、それは違います。怪物だからといって、そんな風に逆恨みはしていません』

「じゃあ、どうして?」



 目線を左右に泳がせ、かすれた声でゼフィランサスは言った。



『……私だって、出来る事なら信じたいです。……ですが、あのふたりからは誠意が全く感じられません』

「誠意が感じられない、かぁ……。本当に?」



 フィトに真剣な眼差しを向けられ、ゼフィランサスは下を向いて黙り込んでしまった。

 ゼフィランサスだって、本当は分かっているのだ。

 この怪物兄弟が精霊の護衛をしているのは使命などではなく、厚意でやってくれていることだということを。

 怪物が働いている悪事を、怪物であるリオンとレオンが何とかするのは当然と言えば当然なのかもしれない。ただ、レオンとリオンに関係がないといえばない事なのだ。

 同じ怪物だからといって、あのふたりに罪や責任がある訳ではない。



「ゼフィランサス。レオンとリオンは、いつだってまっすぐだよ。本当は冥界に戻らなくちゃいけないのに、私のために一緒に旅をしてくれてる。精霊さんを護る事も義務じゃないのに、こうして手伝ってくれてる。……それにね。決めたことは、最後までちゃんとやり通してくれるよ」



 フィトと話すことで、ゼフィランサスは少しずつ落ち着きを取り戻してきたようだ。

 絞り出すように、ゆっくりと声を発する。



『……そんな事は、分かっています』

「そうだよね。ゼフィランサスが嫌だったのは、ダフネ様を護る事を中途半端にされたからだよね。大切な事をないがしろにされたような気持になっちゃったんだよね」



 フィトの言葉を聞いたゼフィランサスはくしゃっと顔をゆがめて、こくりと頷いた。



「うんうん、ごめんね。……でもね、大切な人を思う気持ちは、レオンとリオンもいっしょなの。今回は悲しい気持ちがあって、戸惑いが強く出ちゃったけど……もう、大丈夫だから」

『……?』

「ふたりは前に進めたから、迷うことはないよ。だからもう、だいじょうぶ!」



 フィトはそこまで言うと、にっこりと頷いて見せた。



「なんだかフィトに任せっきりになっちゃったけどさ……今度こそ、きっちり役目を果たしてみせるよ。デスペナルティは何としてでも俺たちが止めるって決めたんだ。だから俺たちの事、信じてくれないか?」



 レオンはそう言った後、弟の肩に手を乗せる。

 いまだに少し不服そうだったが、仕方なくリオンは口を開く。



「……言い過ぎて悪かったよ。はい、これでいーでしょ?」

「まったくお前は。もう少し大人になれっての」

「はぁ? 兄さんにだけは言われたくないんですけど!」

「こいつ……まぁいいや。ゼフィランサス、ごめんな? でも、もうリオンの事も責めないでやってくれよ」



 レオンがそう言うと、ようやくゼフィランサスは言葉を口にする。



『……私も、すみませんでした。あなた方の気持ちを分かっていると言いながら、本当には理解出来ていなかったのかもしれません。……いえ、出来ていなかった。だからあんな酷い事が言えたんだわ。仲間に裏切られるなんて、そんな気持ち、味わった事もないのに……』

「もういいって。そんなの、同じ立場になってみなきゃ分かんないもんだよ。俺とリオンだって精霊さんたちの気持ちなんてこれっぽっちも分かってなかったし、考えられてなかったんだ。……だからここは、お互いさまでいいんじゃねーの?」



 レオンがそう言うと『……そうかもしれませんね』と、ゼフィランサスはふっと笑顔を見せる。



「はいはいっ! じゃあ、仲直りのあーくしゅーっ!」

『……おっ! いいねいいねー! そういう青春っぽいの、好きだよーっ』

「はぁ? ナニソレ? 恥ずかしいからいいよ、そんなの!」

「そうだな、ガキじゃあるまいし……」

『……握手、しないといけないのですか……?』

「だめだめ! はいっどーぞ!」



 言い逃れしようとする三人の背中を、フィトとルルディはぐいぐいと押す。

 ゼフィランサス、レオン、リオンは仕方なく立ち上がると、ややぎこちなく握手を交わした――。

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