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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第六章・大樹が護りし古の遺跡
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第七話・進むべき道(3)

 ぽかぽか陽気に包まれた昼下がり、目が覚めたフィトは花のベッドからがばっと飛び起きた。

 隣では、樹の大精霊ダフネがなんとも無邪気な寝顔ですうすうと寝息を立てている。



『……フィト、目が覚めたのですね』

「私、またいつの間にか寝ちゃってたんだね」



 寝起きのフィトに一番最初に声をかけてきたのは、側でずっと見張り役をしてくれていたゼフィランサスだった。

 ずっと休んでいない為か、うっすらと目の下に(くま)が出来てしまっている。



「ゼフィランサス、もしかして寝てないの?」

『……はい。念のため、起きて見張りをしていました』

「そんな……、無理させてごめんね」

『……いいんですよ。大切なダフネ様と、可愛いフィトの為ですから』



 丸眼鏡の奥の瞳を細めながら、ゼフィランサスは言う。



「えへへ。ありがとう」

『……いえいえ』

「ところで……レオンとリオンは?」



 姿が見えないレオンとリオンを気にして、きょろきょろを周りを見渡すフィト。

 レオンを探しに、真夜中の森へひとりで入って行ったリオン。

 フィトはふたりの事が心配だったが、戻って来るのを見届けられずに寝落ちしてしまったのだ。

ふたりは無事に戻って来たのだろうか。



『……ああ、それなら』



 樹の精霊石を護る、巨大な月桂樹を見上げて『……あそこに』と、ゼフィランサス。

 その視線の先にあったのは、月桂樹に下げられたハンモックで眠るレオンとリオンの姿だった。



「ちゃんと戻って来てたんだ。よかったぁ」

『……ふふふ。フィトは心配症ですね。あのふたりは怪物なんですから、その辺に転がしておいたってくたばりはしませんよ』

「ゼフィランサス、レオンとリオンに厳しくない?」

『……そうですか? きっと気のせいですよ』

「そう、かなぁ?」



 何故だろうか。にっこりと笑みを浮かべるゼフィランサスから、ただならぬ圧を感じる。

 それを察したフィトは、これ以上言及することをやめておいた。

「ううーん。気のせい気のせい、きのせいれい……」と、呪文のように土の精霊が言っていたくだらないダジャレを唱えながら。



『……フィトっち! おっそよーっ! もうお昼だよん!』

「わっ! ルルディ!」

『……ほら、どっさり果物! みんなで食べよー♪』



 背後から湧いて出たルルディは、大きなカゴいっぱいに入った果物を指さして言った。どうやら彼女は食料直達をしてきてくれたらしい。

 得意気に『……クーマンも手伝ってくれたよっ』と、アイドルチックポーズをキメながら話している。



「ルルディも寝てないんだよね? ごめんね。私たちのために、本当にありがとう」

『……いーってことよ! ほらダフネ様! 起きて起きてーっ!』



 ルルディは毎度お馴染みの小さなラッパを取り出し、パフパフパフーっ! と、爽快な音を大音量で吹き鳴らしてみせる。


 しかし――。あまりの音の大きさに、レオンとリオンが先に飛び起きた。

 耳の良いふたりからすれば、前触れもなく金管楽器の大音量を響かせられたら、たまったもんじゃないのである。

 とんでもなく驚いたふたりはハンモックの上である事を忘れて、思い切り身体を跳ね上げた。そのため、勢い余ってそこからずるっと落っこちた。



「だああああああっ!」

「うわああああっ!?」



 仲良くうつ伏せに地面に叩きつけられた犬耳兄弟は、開口一番ルルディに物申す。



「ちょっとちょっと! 近所迷惑だよぉっ!」

「騒音もいいとこだなーおい!」

『……ひっどーい、騒音だなんてっ! 失礼しちゃうなぁ、アタイの七色の音色を!』

「よく言うよ。あ~もう、せっかくいい気持で寝てたのにぃ……」

『……なかなか起きないから起こしてあげたんだよー? 感謝してよね!』

「他にいくらでも起こし方があるだろーがっ」



 すっかり元気を取り戻したレオンと、無事に兄を連れ帰ってくれたリオンを見て、やっと安心したように表情を緩ませるフィト。

 フィトはふたりの身を案じていたが、レオンの心が前を向ける事を信じて疑わなかった。きっと戻ってきたら、いつものレオンに立ち直っているだろうと。

 そんな兄弟に「ふたりとも、おかえり!」と、黒髪少女はあたたかく声をかける。



「ただいま、フィト!」



 にっこりとフィトに言葉を返すリオンに対し“ただいま”を言えずにレオンは(うつむ)いた。

 何をどこから話せばいいのか分からないものの、真っ先に言わなくてはならない言葉は分かっていた。

 にこにこと変わらない笑顔で自分を迎えてくれたフィトに、レオンはがばっと頭を下げる。



「フィト、悪かった!」



 そんなレオンを見てフィトは「ううん」と、言葉を切り出す。



「元気、出たみたい?」

「あ? ああ……」

「それならよかった!」

「怒って……ないのか?」

「どうして?」

「俺、逃げちゃったからさ……」



 自分を責める気持ちを止められないレオンは、いつまでも頭を下げたままだ。

 フィトはそんなレオンの近くに歩み寄り「レオン。顔、上げて」と、声をかける。



「怒ってもいないし、逃げたなんて思ってないよ。あれは、レオンなりの気持ちの向き合い方だって、リオンが教えてくれたから」

「えっ……?」



 そう言われて、思わず顔を上げて弟を見るレオン。

 リオンは知らん顔で兄から目をそらすと、無表情で舌を付き出してみせる。



「答えは見つかった?」

「ああ。ちょっと遠回りしたけどな。フィトのおかげだ」

「ううん、私は何もしてないよ。答えを出せたのはね、レオンとリオンがちゃんと自分の気持ちと向き合ったからだよ」



 にっこりと笑うフィトに「そんなことない……」とレオンが言いかけるも、フィトは黙ってふるふると首を横に振った。



「……?」

「まだレオンから聞きたい言葉、聞けてないよ」

「聞きたい言葉……えっと、ありがとう。お礼言うのが遅くてごめんな?」

「違う」

「ええっ? じゃあ、ごめん? あ、でもさっき言ったな……」



 本当にわからないぞと首を傾げるレオンを見て、ほんの少しむくれるフィト。

 仕方なく助け舟を出そうと「兄さん、物分かり悪いなぁ~、あれだよ……」と言おうとしたリオンに対し――。

「リオン、言わないで!」と、珍しく語彙を強めてフィトは言った。


 そんなフィトの様子に、思わずレオンとリオンは目を見開く。

 もちろん、周りにいる樹の精霊たちも同様の反応を見せていた。



「う……やっぱり怒ってる、のか?」

「怒ってないよっ。……ただ、心配だったんだもん」

「心配?」

「ずっと、待ってたんだもん。……寝ちゃったけど」



 怒ってなかったはずなのに、レオンの事を優しく迎えるはずだったのに、どうしてこんな尖った言い方をしてしまったのか。

 いじけた気持ちになっていることも、抱いている心の引っ掛かりがあることも、フィトは自分で把握していた。その理由も、だ。


 あの時。レオンがひとりで行ってしまった時――。

 自分の出る幕ではないと、レオンに寄り添うのはリオンの役目なんだと、フィトは口にしつつも自分に言い聞かせていた部分があった。

 そう――、フィトは寂しかったのだ。



「フィト……」



 ずっと待っていた、その言葉を聞いてようやくレオンは理解したようだ。

 感情をぶつけてしまった事を後悔し始めているフィトは、うつむいて唇をきゅっと結んだ。その表情には、やはり寂しさが見え隠れしていた。



「寂しい思いをさせて、ごめんな」



 そう言って、レオンはフィトの頭をわしゃわしゃとなでてやった。

 小さなフィトの頭はレオンの手にすっぽりと収まり、改めて女の子なんだという事を感じさせる。


 レオンの言葉を聞いて、フィトはぶんぶんと頭を振った。



「ごめんね……怒るつもりもなかったし、こんな風に騒ごうと思ってたわけじゃないの……」

「わかってる」

「でも、止まらなくって……」

「わかってるよ」



 レオンの大きな手はあたたかくて、優しくて。フィトの中に渦巻いていた嵐のような感情が穏やかに静まっていく。

 フィトの頭に手を乗せたまま、レオンは続ける。



「……遅くなったけど。ただいま、フィト」

「うん。おかえり、レオン」



 わかってほしかった自分の気持ち。言ってほしかった言葉。それに触れたとき、自分の心が満たされていくのをフィトは感じた。大げさかもしれないが、泣きたいくらいに嬉しかった。

 やっと自分の気持ちを表に出すことが出来るようになってきたフィトにとって、これはまた一つ大きな進歩で、心に刻むほど大切な出来事なのだ。


 そこでようやくお互いの顔を、お互いの目を見て笑い合えたレオンとフィト。

 黙ってその様子を見守っていた周りの面々は、二人のことを見て頷きながら微笑む。ただひとり、リオンを除いて。



「はーいはーいはいはい。いつまでもいやらしくフィトに触ってないで、その小汚い手をどけてくれるかなぁ?」

「いやらしいって、この状況のどこにそんな要素があるってんだよ」

「うう~ん。強いて言うなら、その伸びきった鼻の下と、溢れんばかりの下心かなぁ?」

「ああ? 誰がいつそんな顔晒したよ。それに俺はフィトを元気づける為にだなぁッ」



 そんな風にやいのやいのしていると――。

 起きて一部始終を見届けたダフネは『……あふぁははひぃ~?(あなたたち~?) ははふひはひほ~(早くしないと~)ふはほほは(果物が)はふはっはうはほぉ(なくなっちゃうわよぉ)?』と、もちゃもちゃ果物を頬張りながら声を上げる。


 三人はダフネが何と言っているのかは全くもって分からなかったが、何分お腹が空いているので、どんなことを言われているのかはすぐに理解できた。

 即座に「「「ずるい!」」」と声を揃え、果物の山に駆けて行く――。

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