第六話・これからのこと(9)
「それじゃあ、ちょっと行って来るね」
「リオン、気を付けてね。暗くて足元が悪いから、転ばないようにね」
「たはは、大丈夫だよぉ。フィトはほんとに心配症だなぁ~」
そう言ってリオンはフィトの頭をぽんぽんと撫でると、ひらひらと手を振って森の中へ消えていく。
『……フィト。本当について行かなくて良かったのですか?』
「うん。いまのレオンには、リオンが必要だと思うから」
ゼフィランサスの問いかけに笑顔を見せ、フィトはそう答える。
もちろん、寂しい気持ちがないといえば嘘になる。一緒に行きたい気持ちは山々だ。
ただ、フィトは思うのだ。いまは自分が出るべき幕ではないと。
『……健気だねー、フィトっちは!』
「えっ? そうかなぁ?」
『……健気っていうのはねー、心がけや態度がしっかりしてる子の事をいうのっ! まさに健気って言葉は、フィトっちにぴったりんこカンカン☆だと思うけどなーっ』
「ぴったりんこ……? あう、ルルディったら、苦しいよぉ」
そんな風にルルディがフィトにぎゅうぎゅう抱き着き、じゃれついていると――。
『……ふわわわわぁ~。もうだめぇ~限界~、おやすみぃ~……』
そう言い残し、草花の絨毯にこてんと寝転がるダフネ。
話し合いが終わり襲撃に備えていた緊張も解け、我慢していた睡魔が爆発したのだろう。
おやすみ三秒ならぬ、おやすみ一秒で大精霊はすうすう寝始めた。
『……ダフネ様ったら、よっぽど眠かったんだねー?』
『……無理もないかもしれません。いつも面倒くさがって放棄する説明をきちんと自分でしていましたから』
『……うんうん。途中で居眠りもしてなかったもんねー』
『……ええ。ダフネ様にしては、よく頑張りました。欲を言えば、ちゃんとハンモックでお休みになってほしかった所ですが……まったく、世話が焼ける眠り姫ですね』
そんな話をしながらゼフィランサスとルルディが笑っていると――。
ダフネに続き、フィトもこてっと寝落ちてしまう。
どうやらフィトは樹の祭壇にやって来た初日と同じように、ダフネの睡眠作用のある香り成分――精油を思い切り吸ってしまっていた様子。
『……ありゃりゃー。眠り姫が二人になっちゃったかねー?』
『……そのようですね。念の為、私たちはこのまま起きていましょうか』
『……そだね。しばらく寝てないから眠気がぱないけど、しゃーなしだねー』
『……しかし、こんな所でずっと寝ていては風邪を引いてしまいますよ』
ゼフィランサスはそう言うと、両手を差し伸べてそっと魔法を唱える。
【……我らが授かりし古の力。百花繚乱の慈しみのもとに、この者たちへ癒しを与えよ――フィオーレ・シュラーフェン】
魔法詠唱が終わると――大きな桃色の花がフワッと地面から顔を出し、眠っているダフネとフィトの身体を優しく持ち上げた。
ゼフィランサスはそこから花弁を一枚もぎ取ると、毛布をなびかせるようにバサッと宙に広げる。すると、みるみるうちに花びらが肌触りの良い掛布になり、寝ている二人の肢体を柔く包み込む。
どうやらこれも魔法の一種らしい。人前で披露すれば、リオンのマジックショー顔負けの手品になる事間違いなしだろう。
よく眠っているダフネとフィトを見て、ゼフィランサスは待っていたかのように静かに話し出す。
『……結局、ダフネ様の考えは分かりませんでしたね』
『……まーね』
『……魔力貯金の話をしていた時、ダフネ様の目が言っていました。今は聞かないでおいて、と。一体どういう事なんでしょう?』
『……んー、わかんないけどさ。いま話せないのは、きっと何か事情があるってことっしょ?』
『……そうですね』
『……そそ。だから今は、おとなしくしとこーよ』
『……ルルディにだけは、大人しくというセリフを言われたくないですね』
『……うわ。何その言い方ーっ』
そんな話をしながら、ルルディとゼフィランサスは肩を揺らして笑い合う。
穏やかに眠る黒髪の少女と大精霊を、側で優しく見守りながら――。




