第六話・これからのこと(8)
「じゃあ次に。大精霊の証について、少し詳しく教えてもらってもいいかな? 大事な物を託されるわけなんだから、せめてどんなものなのかを教えてもらう必要はあるよねぇ」
リオンがそう言って話を切り替えると――。
ダフネはこくりと頷き、大精霊の証についての説明を始める。
『……この大精霊の証は~、もともと精霊の輪を使うための力を秘めたものでねぇ~。それを封じられた私たちにとっては、あまり使い道が無いものになってしまっているのだけれど~。それでも、精霊石が嵌め込まれているだけあって~、これには強大な魔力が込められているのよ~』
にこにこと説明するダフネの話を聞いて、
「そんなこと、土の精霊さんたちは一言も言ってなかったよね……?」
「フィト、しょうがないよ。何たって、おさわがせいれいだし……」
そんな風にフィトとリオンは納得した。
「強力な魔力っていうのは、ワープ魔法とはまた別の力ってこと?」
『……そうよぉ~。ここに嵌め込まれた精霊石はねぇ、祭壇を守護するために授けられたものでもあるの~』
「えっ? でもそれって、私たちが大精霊の証を持って行っちゃったら、精霊さんたちの戦力が激減されちゃうってことだよね……?」
フィトがそう言うと『……そうなんだけどね~』と、ダフネは少し困ったように微笑む。
『……相手は、のじゃ姫を一瞬で射貫いて封印した手練れでしょう~? どんな手段を使って来るのかも未知数で~、さっきみたいに不利な属性での戦局を強いられたら、果たしてどうなるかしら~?』
「おそらく、樹の精霊だけでは太刀打ち出来ないだろうね」
『……そうよぉ~。強力な魔法をフルパワーでこっちが使えたとしても~、やっぱり相性ってものがあるからねぇ~』
ダフネはぬるくなった紅茶をすすり、話を続ける。
『……ワープ魔法を使って、どこか遠くへ逃げる事も出来るわ~。だけどね~、たとえ戦線から離脱したところで、デスペナルティは私たちを追いかけてくるでしょう~? あの子たちの狙いは他でもない、大精霊である私なんだもの~。……それに加えて~、各精霊の管轄区域から外に出る事を禁じてる、とあるお方に私たちの動向が知れたら~……それこそ、さっきみたいな中途半端な呪いが発動するだけじゃ済まされないわねぇ~』
ダフネはそう言ったあと『……人気者って、困っちゃうわぁ~』と、自分の立場に対しての皮肉を笑顔で口にして、
『……だからこれを、あなたたちに託すのよ~。……あなた達がワープして来れるのは樹の祭壇限定、って言ったでしょう~?』
そう、にっこりと言葉を繋いだ。
「なるほどねぇ。自分たちがワープする時は場所を選べるのに、あえてここに限定しているのは、全面的に僕たちを信用して援護を依頼してるから……だもんね」
『……ええ、そうよ~』
「たはは。わかってた事だけど、責任重大だねぇ」
リオンとフィトの顔を見つめ直しながら『……改めて。私と風の大精霊アウラの援護を、お願いしてもいいかしら~?』と、落ち着いた声でダフネは言う。
その頼みを断る気など毛頭ないのだが――、目を伏せてこの先のビジョンを出来る限り描きながら、リオンは静かに口を開く。
「確かに、もうこれ以上の策はなさそうだよねぇ……」
そう言って、人差し指で額をトントンと叩くリオン。
偶然が重なった成り行きの縁とはいえ、精霊たちを護るという行為は元怪物の仲間との敵対を意味する事になる。
それは先程のネメアとヒュドラの話からして、揺らぐことのない現実だろう。
それでも――この真実を辿っていけば、いずれ必ずデスペナルティが企てている計画とやらの尻尾を掴むことが出来る。
色々と引っ掛かる所はあるものの、リオンは覚悟を決めるように溜め息を交えて「わかった」と短く言った後――、
「僕たちに任せてよ! 必ず救ってみせるから!」
そう、力強くセリフを口にした。
すでに心が決まっていたであろう黒髪の少女に「ね。フィト?」と、笑いかけながら。
『……ありがとう~。心から、感謝するわ~』
ダフネはそう言うと――。
二人の仲間に目をやり『……よろしく頼みますね~』と、共に深々と頭を下げた。
そして――。樹の大精霊は右手にかすかな魔力を宿し、植物が絡みついた古びた魔法の杖を出してみせる。
それは先ほどのデスペナルティとの戦いにおいても手にする事のなかったもので、先代の大精霊から受け継がれたダフネの特別な武器だった。
『……次にデスペナルティが現れた時には、私も本気で戦います~。私たち精霊は結界を張ることも出来ますし、防御策はちゃ~んと練っておきますから~』
ゆるりとしつつもどこかキッパリとした声を発し、ダフネは長い杖をきゅっと握りしめて微笑む。
これからの未来に、少しでも希望を見いだせるように――。




