第六話・これからのこと(7)
「あの、ダフネ様」
『……なにかしら~?』
「カリスト様の時も気になったんだけどね、これって本当に持って行っちゃって大丈夫なものなの?」
フルーラクラウンを受け取ったものの、これは本当に持ち出していいものなのかとフィトは心配していた。
フィトがそう思うのは、当然と言えば当然だろう。ワープについての特別な話をつい先ほど聞いたものの、もともと大精霊の証が何のために存在しているのか、どのような力を秘めているのかは全く知らないのである。
そもそも――ここに来た時にゼフィランサスを激高させたのは、何を隠そう土の大精霊の証、アーククラウンが原因なのだ。
精霊たちにとって大切なものに違いない代物を、どこの馬の骨かわからない輩が突然持って現れれば、怪しいと思われるのは当たり前だろう。
となると。二つも精霊の証を持ち歩く怪物兄弟御一行が登場したら、風の精霊たちはどう思うのか? それは今まで出会った精霊たちの性質や行動を振り返ると、穏やかな流れにならない事が容易に想像出来る。
精霊は警戒心が強く、疑り深い種族なのだ。
どうやらそれは旅の同行者であるリオンも同じ考えだったようで「それ、僕も思ってたんだよねぇ」と、黒髪少女の話しに言葉を重ねる。
「いま預かったのはさ、大精霊の証って呼ばれる位の代物なわけでしょ? その名に見合う何か重要な役割があるんじゃないか~って、フィトは心配してるんだよね?」
「うん、それもそうなんだけど……これを持ってたら、また精霊さんを怒らせちゃうんじゃないかなって思ったの」
フィトの言葉を聞いたゼフィランサスは『……なるほど。それはあり得ますね』と、しみじみ同意を示した。
『……早計した私にも責はありますが、現に怪しいと思ってしまいましたから』
「たはは、そりゃそうだよねぇ~。よく考えてみれば、事案だよ」
フィトとリオンが言っていた通り、ルルディとゼフィランサスもまた、大精霊の証をダフネが手放すことに不安を募らせていた。
それもそのはず。ルルディとゼフィランサスには先ほどからずっと、ダフネの意図が読めない部分があるのだ。
姉妹精霊として繋がっていながら、なぜ心の内を読ませないようにしているのか? それは、情報が筒抜けで伝達されるはずの自分たちに伝えられない何かがあるとしか言いようがない。
今までダフネがこんな風に自分たちに隠し事をしているような素振りを見せたことは、記憶をさかのぼってもそうある事ではない。
となると――。これはいよいよ、ただ事ではないという事だろう。
そんな風に、各々が思いを巡らせながら話し込んでいると――。
ダフネはお気楽な様子で『……だいじょ~ぶよぉ。お手紙のひとつでもしたためておけば、み~んな信じてくれるから~』と、楽しそうにお手紙作戦を提案する。
「なるほどっ! さすがダフネ様!」
「いい案だとは思うけど……手紙が偽物だって思われちゃう可能性はないかなぁ?」
『……心配ご無用~。ほら、こ~んな風に、紛れもなく私が書いたっていうのが一目で分かれば~……な~んの問題もないわ~』
ダフネがどこからか取り出した紙に『……で~きた♪』と、ペンで描き上げたそれは――。
手紙というよりも、えらく可愛らしいゆるっとしたキャライラストが描かれた絵手紙であった。
<私が預けました。信じてね~。ダフネより>
と、キャラクターが話している吹き出しまでついている。
それにしても……なんてシンプルでアバウトな内容なんだろうと、リオンは不安に思うのだが。
「わぁーっ、かわいい! これ、ダフネ様?」
『……そうよ~。なかなか上手く描けてるでしょう~? 大精霊のみんなは、私の絵を何度も見たことがあるからぁ~、これを見せれば一目瞭然だと思うわ~』
「なるほどねぇ。確かに、仲間内にしか分からないような情報を見せれば信じてもらえるってわけかぁ」
『……あとはここに、私の精霊印を押せば~……完璧ね~』
ダフネはそう言うと、自分の親指を切って手紙の右下に血判を押した。
すると。その赤い指紋はぐにゃりと形を変え――、みるみるうちに七つの花びらがついた花文様がそこに浮かび上がる。
「わわっ、お花の形になっちゃった!?」
『……不思議でしょう~? これが精霊印と呼ばれるものよ~』
「あれ? この形って、ダフネ様のお洋服についてるお花とおんなじだよね?」
『……フィトちゃんはよく見ているのねぇ~。その通り、この精霊印は大精霊しか押せない特殊なものなのよ~』
「そうなんだぁ! スーパーハンコだねっ!」
『……フィトっちのそのスーパーなネーミング、アタイも頂こうかなーっ。んでんで、精霊界隈で流行らしちゃったりして!』
そう言って、ルルディがルンルンと飛び跳ねていると。
そのセリフを隣で聞いていたゼフィランサスが『……ルルディったら。どうやって流行らせるつもりです?』と、思わずくすりと笑う。
「精霊事情も何だか事細かいんだねぇ。この精霊印にも、特別な意味や力があるのかな?」
『……んん~、特に意味はないのだけれど~』
「あ、ないんだ」
『……でも、面白いものが見れるからぁ~、楽しみにしていてねぇ~』
「えっ、ナニソレ!?」
「そんな言い方されたら気になるよぉ~! めっちゃ興味!」
好奇心の疼きが止まらなくて目を輝かせるフィトと、尻尾の白蛇をうにょうにょさせるリオン。
そんな二人を見て、ダフネはまたも楽しそうに笑う。
切った指をペロリと舐めて、自身の魔法で傷口を塞ぎながら――。




