第六話・これからのこと(3)
リオンは自信に満ちた表情を見せて「わかっちゃったかも」と口角を上げる。
「えっ!? 分かったって、なにが!?」
「分かっちゃったのさ。精霊さんたちに口封じの魔法をかけた犯人が、ね」
にやりと笑うリオンに「ほんとう!?」と目を丸くするフィト。
リオンは少し考える素振りをみせた後「僕に、ちょっとした策があるんだけど」――と、精霊たちの方をちらりと見る。
大事な話の最中もあくびを絶やさない、相変わらずな大精霊ダフネ。
その横で――、リオンの意図に気付いた従者たちは感心した面持ちで口を開く。
『……なるほど、これからリオンがしようとしている事は大体見当がつきました』
『……アタイもなんとなーく、だけど!』
「たはは、物分かりが早くて助かるよ」
つらつらと話を進めていく精霊たちとリオン。
だが、彼らの目論見がまるで分からず、話についていけないフィトは首を傾げている。
「一応聞くけどさ、この方法ってリスクはなさそう?」
『……それは何とも言えませんね。何せ、試した事はありませんから』
やはり分からないのか、きょとんとするフィト。
そんな黒髪少女を他所に、ゼフィランサスは静々と話しはじめる。
『……口封じの魔法を受けていない第三者が私たちの前で真実を口にした際、どうなるのかは予想もつきません。難なく情報を伝達する事が出来れば万々歳なのですが』
「かけた張本人しか術式は解けないからねぇ~。少数しか扱うことが出来ないっていわれている闇系統の魔法に、高度な呪術魔法の術式……口封じの魔法なんてかける必要あったのかなぁ? これじゃあ、自分の存在を主張しているようなものじゃない?」
『……そうですね。かなりの目立ちたがり屋なのでしょうね』
「要するに、謎解きされないっていう自信に満ち満ちている訳だねぇ」
守護するべき存在に視線を送り『……ダフネ様。いかが致しましょうか』そう、ゼフィランサスは問う。
『……そうねぇ~。あの呪いを受けて数十年になるけれど~、これは与えられた機会なのかもしれないわよねぇ。少し心配はあるけれど、やってみる価値はあるんじゃないかしら~? 万が一、何かあったとしても~、その時はその時よねぇ~』
「うん。モヤモヤっとする事はさ、早いとこ答えを出しちゃおう!」
後押しするようなレオンの言葉に、にっこりと笑みを浮かべてダフネは頷く。
その時はその時、というダフネの軽いセリフに、ルルディとゼフィランサスは恐怖心を拭えないのだが。
話を聞いていたフィトは、ようやくこれからリオンがしようとしている事を理解した様子。
しかし――。フィトにはどこか、リオンが焦って答えを出そうとしているように見えた。
リオンはせっかちで飽きっぽい所がある。だが、本当に大事な時は考える事を放棄したり、諦めたような卑屈を言わない。それをフィトは知っていた。
ほんとうに答えを出したいのは、いま話している事とは違うことなんじゃないのかな……そう、フィトは思うのだ。
いつものリオンじゃない。それは分かっていたが、傷付いた事を隠しながら懸命に動こうとするリオンを止めることは自分には出来ないとも、フィトは思うのである。
何か、胸がざわつくような気がしたのだが――。頑張っているリオンを応援しようと、少女は黙って見守る事を決めた。
『……それにしても! リオっちってば、なかなか頭がキレるじゃーんっ!』
「たはは、それほどでも~あるかな? どうでもいいけど、ヘンなあだ名付けは趣味なの?」
『……まぁーねっ! 愛称で呼ぶって、なんか良くない?』
「ん? んん、そうだねぇ?」
『……んもぅ、なにその煮え切らない返事っ!』
『……はいはい。無駄話はそこまでにして、そろそろ回答をお聞かせ願えますか?』
ゼフィランサスに水を差されてぷんすかしているルルディはさておき――。
これから言わんとする事を声に出す許可を得たリオンは、危うさを伴う賭けに出る。
「それじゃあ、言うよ?」
リオンがそう発言すると、緊張を帯びたフィトと精霊たちは息をのむ。
分からないままでは進めない。何かを掴む為には仕掛けなければ始まらない。そんな事を頭の中に巡らせながら、深呼吸をひとつ。
「口封じの魔法を使った犯人は――――神様でしょ?」
これしかないだろうという、核心を確信に変える答え。
それを聞いて驚いた顔をしたのは、その答えを予測すらしていなかったフィトだけだった。
しかし。リオンが辿り着いた答えを口にした――――次の瞬間。
『……がはッ!』
『……う、ぐぅ……っ!?』
『……ぐあ、あぁっ……!』
精霊たちは自身の心臓を抑え、その口から大量の血を吹きこぼす。
受け身を取る余裕もなく血に濡れた草花の上に転がり、言葉にならないうめき声を上げながら涙をにじませる樹の守護者。その悲愴な姿からは、尋常じゃない痛みに襲われてもがき苦しんでいる事が伝わってくる。
「みんな、どうしちゃったの……!?」
親しくふれあった精霊たちの豹変ぶりに震えながら、黒髪の少女はようやく言葉を絞り出した。
大きく見開かれた瞳にその光景を映して、リオンはようやく気付く。呪術魔法というものの重さと、痛ましさに。
冷静に分析したつもりになっていた自分を情けなく思いながら、隣で青ざめているフィトに「……ごめん。僕のせいだ」と、一言。
「どういう……こと……?」
「精霊さんたちにかけられた呪術魔法を、甘く見過ぎていたんだよ……。呪いが発動するには条件があるんだけど……まさか、術者がここまで対策しているなんてね。目立ちたがり屋のクセに、暴かれるのが怖い卑怯者ってとこか……まったく、質が悪い」
呪術魔法とリスクの話しに全く思考がついていけていなかったフィトは、それを聞いて呪いというのはこんなにも恐ろしいものなのだと思い知る。
頑張ろうとしているリオンの気持ちを汲んだつもりが、まさかこんな事態を招く事になるなんて――。
フィトは目の前で血を吐き苦しむ精霊たちを見て、怖くて涙が滲んできた。
「悪い結果を招く確率をもっとよく考えればよかった、愚鈍だったよ……。何を焦ってるんだ、僕は……」
「リオンだけのせいじゃないよ。真実っていうのを精霊さん以外も言っちゃダメだったなんて、誰にも分からなかったんだもん……。私がリオンの立場だったら、すぐにでもさっきの答えを口に出しちゃってたよ……」
リオンの様子が可笑しい事に気付きつつ、何かを予感していたのに、それを未然に防ぐことが出来なかった。少女は、それをとても悔しく思う。
でも、いまは――――泣いたり後悔している場合じゃない。
慣れない血を見ることに怯えながらも、フィトはそれを振り切って精霊たちに駆け寄る。
荒く変則的な呼吸をし続ける身体にそっと触れると、その背中を手当てするように優しくさすった。




