第五話・デスペナルティ(3)
「リオンの方がまだ冷静なようですね。……しかし、注視するのは果たして弓矢だけでいいんですかね?」
ヒュドラがそう言うと――ライオンの小さな耳をピクピクと動かし「火炎獅子姫斬!」という雄叫びを上げて、ネメアが炎を纏った巨大な斧を振り下ろした。
燃え盛る巨大斧を見て、咄嗟に距離を取るリオン。
大ぶりなその一撃は地面を割りながら食い込み、周囲の温度を一気に上昇させる紅蓮が草花の絨毯に燃え広がった。
「もぷぅぅーッ! 避けてんじゃねーよッ!」
「相変わらず馬鹿正直な攻撃だねぇ……! 【吹き飛べ――フォール・ウィンド!】」
リオンが放った風魔法に巻き込まれ「ぅぼあぁッ!?」と吹き飛ぶネメア。
壁に叩きつけられる前に体制を整えると――ぶんっと斧を振り、その風圧で魔法を相殺する。
その隙にヒュドラが三本の弓矢を同時にダフネへと放つも――――、またしてもレオンはその全てを叩き折ってみせた。
そして――。背中合わせで槍を持つレオンとリオンの後ろでは、樹の精霊たちが精霊魔法を唱え始める――。
それらの状況を見て「むむぅ。これはなかなか厳しいですね」と、ヒュドラはすっと弓を収めた。
武器を収めた姿を確認すると、レオンとリオンはヒュドラから戦意が消えたことを感じ取る。
兄弟ならではの阿吽の呼吸でアイコンタクトを取ると、兄弟は相手の出方を伺う――。
吹き飛ばされた衝撃で頭をぐわんぐわんさせるネメアは「リオンのヤロー、舐めやがって! 吹き飛ばすだけの魔法なんて使いやがって……やる気あんのかよぉッ!」と、よろけながら威勢を張る。
頭を抱えながら片手で軽々と斧を担ぎ、ネメアはオレンジ色の目を光らせて髪を逆立てた。
血をざわつかせ、魔力を増幅させるネメアを見てヒュドラは――。
少女の隣に立つと「ネメア、今回は退きましょう」と、撤退の言葉を口にする。
「ええーッ!? なんでだよぉッ!?」
「見てわかるでしょう、人数的にも相性的にも分が悪い。ここは退くべきです」
「あぁー!? 樹の精霊をボーボー燃やせるネメアがいれば楽勝って言ったの、ウドラじゃんかよぉッ!」
そんな風にヒュドラとネメアが揉めていると――。
ルルディとゼフィランサスの魔法詠唱が終わり、何本もの巨大な植物が地面を突き破って二人に襲い掛かった。
追いかけてくる攻撃を避けながら「……それは失礼、僕の対策不足でした。レオンとリオンがいる以上、せめて三人は必要でした」と、ネメアを説得するために飄々と会話を続けるヒュドラ。
「その上、すでに封印の弓矢を五本も折られている。そして作戦の遂行上、弓を扱えるボクが負傷する訳にはいきません。……結論、退くべきです。後でアメちゃんお腹一杯買ってあげますから、それで手を打ってください」
一瞬キラリと目を輝かせるも、複雑にふてくされた顔で「ちぇッ。わかったよッ!」と、ネメアは返事をした。
仕方なく武器を収めたネメアは自分を追い回す植物を踏み台にし、たんたんと壁を蹴って遺跡の上へ跳ねていく。
「今回は特別に見逃してやるけどなぁッ! 今度会った時はぎったんぎったんのボッコボコにしてやるから、覚えとけよ!」
「と、いう訳です。次に会う事があったとしても、邪魔はしないで頂きたいですがね……では、ごきげんよう」
そう言ってヒュドラが龍の翼で飛び上がった後――「次の月の曜日は、風の大精霊を封印するなんて誰が教えるかよ、バァーカッ!」と、得意げに言い残してネメアは姿を消した。
そんなネメアに対し「はぁ。ずっとアメを突っ込んでおけばよかった……むしろ連れて来なければ良かったですね……」と、ヒュドラは完全なる人選ミスに頭を抱えながら飛び去って行くのであった。




