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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第六章・大樹が護りし古の遺跡
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第五話・デスペナルティ(1)

「おいウドラッ! カッコつけてないで降りて来いっての! まだ封印の弓矢持ってるんだろ!? 至近距離でバシュッとやっちまえよ!」

「まったくネメアは……仕方のない子ですね」



 やれやれとため息をつき――ウドラと呼ばれる仲間は、瑠璃色の龍の尻尾をうねらせながら、ひらりと地上に降り立つ。

 黒ローブのフードをもったいぶるようにゆっくりと外すと――そこには、凛々しい顔立ちをした長身の男が正体を見せた。


 額から生えた白い一角に、肩下まで伸びた癖のある瑠璃色の髪。

 手には漆黒の弓を持ち、肩には弓入れを背負っていた。数本ある黒い弓矢――それは紛れもなく、先ほどレオンが叩き折ったものと同じものである。

 瑠璃色髪の男は、その場にいる全員を一瞥(いちべつ)すると――灰色をした切れ長の瞳を細め「おや、知った顔がこんなところに……これは、偶然でしょうか」と、わざとらしいセリフを吐いた。



「相変わらずだねぇ、ヒュドラは。まったく白々しいなぁ~……まるで僕たちがここにいる事を知っていたかのような言い方だよねぇ? どこかで高みの見物をしてたってわけ?」



 渦巻く感情を抑えながら、冷静を装いリオンは言葉を返す。

 そこに――そんなリオンの心情を逆なでするように「そうだけど、それが何なのさ!? ずっと見張らせてもらってたけど、気付かないなんてほんっとトロい犬っころ兄弟だよねーッ!」と、舌を出すネメア。

 思わず挑発に乗りそうになるもリオンは深いため息をひとつつき、目の前のネメアとヒュドラをじっと鋭い眼光で見据えた。




 ***




 怪物たちが互いに見合う緊迫した空気の中――。

 その様子を後ろから見ていたフィトと樹の精霊は、じっと身を固めて事態に備えていた。

 フィトと大精霊ダフネを背後に『……ダフネ様の事は必ずお守りします』『……そうそう! 安心してよね!』と、ゼフィランサスとルルディは言う。



『……ありがとう~。でも、無茶はダメよ~?』

『……分かっています。樹の精霊は常に一心同体……私たちに何かあれば、それはダフネ様にとっても同じこと――。あなたとの穏やかな未来を護るためにも、私たちは何があっても負けたりしません』

『……そうそうっ! フィトっち、ダフネ様のことヨロシク頼むねっ!』



 ウィンクと共にルルディから言葉を受け取ると、フィトはこくりと頷く。

 ダフネを不安にさせまいと笑顔を浮かべて見せるも、フィトの心情はレオンとリオンと同じく複雑であった。

 ネメアとヒュドラもレオンとリオンと同じ怪物であり、冥界の門番なのである。

その為、冥界の門前に遊びに行った時にはよく話し相手になってもらっていたのだ。

 ライラお姉さんの妹のネメア。ラドの弟のヒュドラ。一体、誰がどこまで関与しているんだろう……と、フィトはきゅっと胸に手を置いた。




 ***




 レオンはくるりと後ろを振り返ると「精霊さんたち。ちょっと悪いんだけどさ……」と、苦い顔をして話し出す。



「少し、時間くれるか? こいつらが本当に()()()()()()()()()()()()()()()()

『……分かりました。……確かに、あの黒ローブの二人は変です。怪物の気配も魔力もまるで感じられない』

『……そうだよね。アタイたちがこんなに近くで存在に気付けなかったって時点でなんかおかしーよ』



 レオンはこくりと頷くと、リオンと顔を見合わせる。



「確かめる為にここに来たんだ。真実をこの目で見極めねーとな」

「うん、そうだねぇ」



 ヒュドラとネメアの方に向き直り「オマエら、一体何者だ?」と、レオンは問いかけた。

 確かにルルディとゼフィランサスの言う通り、奴らからは一切魔力を感じられない上に、怪物の気配がしないのだ。

 言うなれば、まるで――――無。

 レオンの問いかけに対し、表情を変えない瑠璃色髪の男ヒュドラ。答えたのは、隣にいるマリーゴールドの髪の少女だった。



「なに言っちゃってんのッ! とうとう頭オカシくなっちゃったわけ~!? さっきネメアたちの名前口に出してたじゃんかよぉッ! 正真正銘、ネメアとウドラだっつーのッ!」

「可笑しい事を言ってるのはそっちだよねぇ? お前たちからは魔力や気配を一切感じないんだよ。どう考えてもおかしいよねぇ?」



 リオンの言った事をあざ笑うようにネメアは「ネメアはネメアだしッ! そんなのはねぇ、()()()()()()()()()()だけのことなんだよッ!」と、意味深なセリフを口にする。



「全部、消す……? そんな事お前たちに出来るわけねーだろ! 俺たちだってそんな魔法使えねーぞ!?」

「バッカだなーこれだからバカはッ! 誰がネメアたちがその魔法使ったって言ったよ! この魔法はなぁッ――――むぐっ!?」



 好き勝手話す相方ネメアの口を(ふさ)ぎ「ネメア、しゃべり過ぎです」と、ヒュドラ。

 レオンたちの方を見て「これ以上は答えられませんが……ひとつ、教えてあげます」と、ヒュドラは言葉を続ける。



「結論。ボクたちは本物のヒュドラとネメアですよ。なりすましでも操りでもない。自分たちの意志で動き、ここにいるのです。……これで分かって頂けますか?」



 そう言ってヒュドラが見せたのは――冥界の門番である証、門番章だった。

 冥界の門番だけに与えられる勲章、門番章。銀色の七芒星(しちぼうせい)で出来たそれを見て、レオンとリオンは言葉を失くした。

 ジタバタ暴れながら「もがもがもが!」と騒いでいたネメアは、やっと解放された様子。仕返しの如くゲシゲシとヒュドラの足を蹴りつけている。



「兄さん……」

「……チッ。お前も見ただろ? あれは本物だ。冥界の門番章なんてモン、周知してるのは俺たち門番と魔界、冥界の仲間くらいだ。……どうやらこれは、認めるしかねーみたいだなぁ……」



 桜桃色の光たちに包まれながら、レオンとリオンは目の前にいるかつての仲間をじっと見つめた。

 様々な思いが、記憶が、頭の中をぐるぐると回り、心はぐちゃぐちゃだった。

 認めるしかないのだと、そう何度自分に言い聞かせても――簡単に割り切れる事ではない。

 長い時を共に過ごし、笑い合ったあの二人はもういないのだろうか――。

 爪が食い込むほど拳を握りしめ、震える声で語彙を強めてレオンは言う。



「ヒュドラ、ネメア。お前らはこんな所で一体何をしてるんだ? ここにいる目的はなんだ? どうやって地上に来た? 聞きたいことは腐るほどある。……だが、事と次第によっちゃお前らを許す訳にはいかなくなる。……頼むから、俺が手を下さなきゃいけないような言葉を口から出さないでくれ」



 隣でそれを聞いていたリオンは横目で兄の事を見ると「やっぱり甘いよ、兄さんは……」と、誰にも聞こえない声でボソッとつぶやく。

 そして――思わず緩んでしまった口元を隠すように、リオンはふいっと顔を背けた。

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