第四話・忍び寄る影(4)
レオン、リオン、フィトが樹の祭壇を訪れて二日目――。
時刻は昼過ぎになるも、奴らが姿を現す気配はひとつも感じられない。嘘のように平和すぎる日常に、思わずあくびさえ出てしまうぽかぽかな陽気――。
夜通し見張りで起きていたリオンは休憩のため睡眠を取り、レオンとゼフィランサスが見張りを行っていた。ルルディは情報収集の為に動物や植物に聞き込みをし、辺りを見ながら食料となる果物やキノコを採って回る。
それぞれが役割を果たす中――ダフネとフィトは月桂樹の木の下であやとりをして遊んでいた。
『……フィトちゃん、見て見て~。蝶々よ~』
「私も出来るよっ! ……ほらっ!」
『……うふふ~。やるわねぇ~、じゃあこれは~? ……ちょきちょきカニさん~』
「わぁっ!? すごいすごーいっ! 本当に足が八本だっ!」
『……ほら、こんなのも出来るのよ~……月の塔~!』
「月の塔!? ナニソレ!? そんなの見たことも聞いたこともないよ!?」
ダフネの作った謎の塔を四方八方から観察し、目をまんまるくするフィト。
楽しそうな黒髪少女の隣でくすくすと笑いながら『……これはねぇ、海を渡ったず~っと向こうの島にある場所なのよ~』と、青々とした空を見つめてダフネは言う。
「ずーっと向こう……もしかして、ベリーフィールドのこと?」
『……そうよ~。月の塔にはねぇ、闇の大精霊がいるのよぉ。ずっと旅を続けて、その土地にも訪れることがあったら、会えるかもしれないわねぇ~』
ダフネの話を聞いて「闇の大精霊様が……!?」と、目を輝かせるフィト。
この世界に存在する属性は全部で七つ。すなわち、七人の大精霊がいるという事だ。土の大精霊カリスト、樹の大精霊ダフネ――。もう既に二人の大精霊に会う事が出来た。
精霊に会えるという事だけでもすごいのに、もしかしたらこれから先、もっとたくさんの精霊と出会えるかもしれないという事にフィトは思わずわくわくしてしまった。
しかし――。キラキラした気持ちもつかの間、フィトは気付いてしまう。精霊たちに会う事は楽しみにしていいような事柄ではないという事に――。
一瞬でもわくわくしてしまった事を申し訳なく思い、フィトはダフネに「ごめんなさい……」と言った。
『……フィトちゃん?』
ダフネはフィトがなぜ謝っているのか分からないようだった。
不思議そうな表情で、小さな少女の顔をじっと覗き込む。
「精霊さんと会うこと、決して楽しみにしていいような事じゃないから……。大精霊様が命を狙われているかもしれないのに、そんなわくわく気分でいたらダメだなって思ったの。……私、自分の立場を全然分かってなかった。分かっているようで、分かった気になっていただけで、どこか浮かれていたの。精霊さんに会えるんだって、魔法ってスゴいって、能天気にはしゃいでたの」
フィトは話し終えると「不謹慎だったなって思ったの。本当にごめんなさい……。それに、今だって護衛中に遊んじゃってたし……」と、しゅんとしながら頭を下げた。
これから先、どうなるかは分からないが――カリストの言う通り、奴らがアスタルジアの全ての大精霊を封印しようとしているのならば、それを阻止しなければならない。
大精霊に会いに行くというのは、いま現在のように救済のためにその地に赴くという事。世界にとって、大精霊にとってピンチとなるようなこの状況を楽しんでいいはずがないのだ。
落ち込む少女を見て、ダフネは『……フィトちゃんは、真面目なのね~』と、くすくすと笑った。
突然ダフネに笑われたのでフィトは戸惑いを隠せず、ばっと顔を上げた。
すると――。ダフネは『……可愛いお顔は上げてないともったいないわよ~? よしよしよ~し♪』と、フィトの頭をナデナデとなでくる。
『……会う事を楽しみにしてくれている事ほど、光栄なことはないわ~。ましてや、私を護るためにここに来てくれたんでしょう~? それって、とっても心強くて嬉しいんだからぁ~。……だからね? フィトちゃんも、そんなに気負わなくっていいのよ~。ピクニック気分でいればいいの~。じゃないと、息が詰まっちゃうもの』
そう話しながら『……それにね? フィトちゃんはフィトちゃんらしく、明るいままの方がみ~んな嬉しいわよぉ』と、とあるふたりを交互に見てダフネは笑った。
ダフネの視線の先には――見張りをするレオンと――、月桂樹の上でハンモックに揺られて仮眠を取っているリオンの姿があった。
ふいにこちらを振り向き――、フィトとばちっと目が合うレオン。すると慌てて視線をそらし、すぐに前を向いて何事もなかったかのように口笛を吹き始めた――。
わざとらしい誤魔化しを見て、隣で『……ね?』と微笑むダフネにつられて、フィトも思わず笑顔になる。そして――「ダフネ様、ありがとう」と、感謝を伝えた。
ほのぼのした二人の少女の前――。
レオンの横で見張りをしていたゼフィランサスは『……変態妄想思考の次は、盗み聞きですか? 始終耳をピクピクさせて聞き耳を立てるなんて、趣味の悪い獣ですね』と、引いた笑顔でやれやれとレオンを煽った。
そんなゼフィランサスに対し、何も言い返す言葉のない犬耳兄は「お前ッ! 日に日に口悪くなってねーか!?」と、真っ赤な顔で龍の尻尾をびたんびたんと地面に叩きつける――。
ハンモックの上では――あの場にいるのが自分じゃなくて心底良かったと、狸寝入りをするリオンが胸をなでおろしているのであった――。




