第四話・忍び寄る影(3)
水浴びを終えて樹の祭壇に戻って来たフィトと精霊たちは、待ちぼうけをしていたレオンとリオンを交えて祭壇の中央――月桂樹が覆う精霊石の前で話し込んでいた。
そう――、大精霊ダフネを護るにあたっての作戦会議である。
まずは、レオンが奴らの攻撃の特徴について知っている限りの事を話す。
「奴らは、大精霊を封印する為の特殊な弓矢を撃って来る。その上、闇討ちを狙った睡眠魔法も使えるらしい」
『……なるほど。封印の矢といい、睡眠魔法といい……闇討ちとは、なかなか穏やかじゃないですね。他にも策や奥の手がある事を考えた方がいいでしょう』
「ああ。それと――もうひとつ分かる事は、奴らの中には樹属性が苦手とする火の術者がいるって事だな」
『……おっそろし! 樹の祭壇は火気厳禁なのにっ! ……まぁでも、君たちワン兄弟もいることだし? 人数的にも相手にならないんじゃないのぉ~?』
ルルディは腕組みをしながら余裕の笑みでそう言った。勝手につけたワン兄弟――という愛称を添えて。
そんな油断を見せるルルディに『……ルルディ。相手を舐めてはいけません。どんな手を使って来るのか分からないのですよ?』と、ゼフィランサスは指を突き付ける。
「カリスト様と土の精霊たちの話しだと、奴らの正体は怪物って事なんだが……さっき話した通り、誰も奴らの姿を確認出来てねーんだよ」
『……そうでしたね。それで直接自分たちの目で見て確かめたい……という事でしたものね』
「ああ。土の大精霊カリストが怪物の魔力の波動を感じたから間違いないとまで言ってるしな……その事実はもう揺らぐことはないと、頭では解ってるんだけどさ」
そう話した後、レオンが悔しそうにギリッと歯を噛むのを見て「僕たちはさ。仲間がそんな事をしてるなんて到底思いたくないんだよ。……だから、この目でしっかり確かめるんだ。本当に僕たちの仲間の仕業なのかをね」と、拳を強く握りしめ、指の内に爪を立てながらリオンは言った。
『……のじゃ姫が断言しているのなら、怪物が犯人であるという事実を覆す事は難しいかもしれないわねぇ~。でも、自分の目で確かめるって大事なことだと思うわ~。……仲間の事、大切に思っているのねぇ~』
ダフネはかなりいい事を言っているのだが――、話し始めの冒頭の言葉が良く分からず「あの……のじゃ姫っていうのは……?」と、フィトが不思議そうに首を傾げた。
『……えっとぉ~。のじゃ姫って言うのは、カリストのことなのよぉ~。あの子、語尾にのじゃのじゃつけておしゃべりするでしょう~? 私に眠り姫っていう愛称があるように、精霊界隈では大精霊を愛称呼びすることも珍しくないのよ~』
ダフネの説明を聞いて「へぇーっ! おもしろいねっ!? なんか可愛いかも……!」と、ニコニコするフィトに対し――。
レオンとリオンは「愛称っつーか、それってただの悪口じゃね?」「だよねぇ? どう考えても悪名だよ」と、ヒソヒソと言い合うのであった――。
***
その後も作戦会議は続き――、面々は精霊たちの夕食だという果物や木の実を口にしながら話し合いをしていた。
そしてようやく話がまとまり、レオンがまとめ役として最終確認を行う。
――まず、奴らがいつ現れるのかが分からない以上、絶対に単独で行動を起こさない事。どこへ行くにも逐一報告をし合う事。
特にダフネ様のまわりに少しも隙を作らないよう、必ずこの場にいる全員で周囲に対する護りを固める。日中夜間を通して交代で見張りをし、休憩を取る。
――次に、役割について。基本的には自分とリオンが前衛、樹の精霊たちは後衛で魔法を使ってサポート。火の術者がいたら自分とリオンが率先してそいつを潰す。フィトは危険だが、ダフネ様の隣で周囲の観察と何か見つけたら報告。
「――と、こんな感じか。……ちなみにフィト。何度も言うけど、身を挺しての護りは行わない。……これは絶対だぞ。約束出来るな?」
魔法を使えず戦力になれないフィトは、自らダフネの側にいることを志願していた。
足手まといになってしまうと分かっていても、何もせずにはいられないフィトの性格もあり――自分にしか出来ない事もきっとあるはず、と少女は前向きに考えたかったのだ。
グラシナに向かう道中でレオンが自分にくれた言葉を、こうして忘れずに思い返して活力に変えていく。それこそ魔力探知は出来ないが、何か変わったことはないか見張りと周囲の危険を確認する事は出来る。
――そう思って、フィトはダフネの側にいることを選んだのだ。
ただ、レオンが自分の事を心配してくれているのは痛いほど理解してるので「うん、だいじょーぶだよ!」と、言葉を返して頷く。
「フィト。ほんとのほんとに無茶はしないでよ?」
「リオン、ありがとう。ふたりが心配してくれてるのは分かってるの。私に出来る事……少しでも役に立てる事があるなら、力になりたいの」
「そ、それは僕だって分かってるよ。フィトのこと、ずっと見てきたんだからさ……」
フィトに真っすぐに見つめられ、珍しくボソボソと話すリオン。
そんなリオンの言葉を聞いて「うん! ありがとっ!」と、笑顔でフィトは言った。
「奴らのメンツが怪物であったとして、人数も素性も不明確だからな。どんな攻撃を仕掛けてくるのかも分からないし、タイミングも読めない。闇討ちを狙うんなら、おそらく決行は今みたいな夜だ。……だが、カリスト様が封印されたのは昼間。いつ何時でも気を抜けないって事だ。もちろん、始終気を抜く気はねぇけどな」
そんなこんなで作戦会議は幕を閉じる。
しかし――待てども待てども、その日のうちに奴らが姿を現す事はなかった――。




