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幻葬記  作者: ことは
第19話:仕掛けられた遭遇
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ありがとう。……気配は、わかるね?

***


 夕刻。

 悠夜の携帯が鳴った。ディスプレイを確認し、通話ボタンを押す。


「陽絽? どうしたの?」


 掛けてきたのは同僚の相模陽絽(さがみひろ)だった。

『悠夜……、そっちに由姫から連絡ないか?』

「由姫? いや、特にないけど。――――何かあったの?」

 悠夜の少し硬い声に、隣に居た仄が心配そうな顔をする。

『朝一から仕事に行ったまま、連絡が取れないんだよ。携帯かけても繋がらねぇんだ』

「由姫の今日の仕事先には?」

『見に行った。でもいなかったし、特に変わった様子もなかった』

「わかった。こっちでも探すから、何かあったらまた連絡をして」

 二言三言やり取りをした後、悠夜は通話ボタンを切った。それを待っていたかのように、仄が急かすように聞いてきた。

「悠夜さん、由姫ちゃんがどうかしたんですか?」

「……朝から連絡が取れないんだって」

「連絡が取れない? 由姫ちゃんが報告を入れないなんておかしいですよ! 探しましょう!!」

「どうやってだよ?」

 焦る仄に、相原朋樹が口を(はさ)む。

 三人は現在、数日前に訪れた廃墟ビルの前に居た。

 崇王奏十達を示す痕跡がないか、その周辺を含め調べていた。

 しかし、それも空振りに終わりそろそろ戻ろうとした時、電話がかかってきたのだ。


「『式』を使おう」


 悠夜はそう言って上着から銀色の名刺サイズの(ふだ)を出すと、仄と朋樹に自分から離れるように手で合図をする。

「『式召喚』できるのか。すげぇな」

 朋樹が小さく呟きながら離れると、仄も悠夜から距離をとった。


 ――――パン。

 悠夜は眼を閉じ、札を両の手で合わせた。暫くすると両手に合わされた札が光り出す。ほどなくして札は消え、光の中から人影が現れた。

 男とも女とも判別しにくい、中性的な顔の人物。正確には人ではない。神景捷(みかげすぐる)の『式』であり、元は妖影だ。

「『水無月(みなづき)』」

 悠夜が静かに式へ語りかけた。

「仲間を捜している。『今河由姫』。君も知っているだろう」

 式・水無月はじっと悠夜の言葉に耳を傾ける。

「水無月。君の力を貸してほしい。手伝ってくれるかい?」

 呼び出された『式』が主の命令に背くことはない。それでも悠夜はあくまで歩み寄る形で話す。仄は悠夜のそのやり方が好きだった。

 悠夜の言葉を聞いていた水無月は、ゆっくりと瞼を閉じて開く。了承の返事。その返答に悠夜は笑顔を見せる。

「ありがとう。……気配は、わかるね?」

 水無月は今度はこくりと頷くと、そのまま夜の空に向かって羽ばたいて行った。

「ずいぶんおとなしい『式』だな」

 水無月の後を追うように夜空を見上げながら朋樹は目を細める。

 式の姿はすでに見えなくなっていた。

「水無月はもともとがおとなしい性格だからね」

『式』にも色々な性格があるようだ。悠夜は水無月の姿が消えたのを見届けると一つ、息をついた。仄が心配な顔で声をかけた。

「悠夜さん、大丈夫ですか?」

 式召喚は力の匙加減が難しく難易度の高い術であり、術の発動の際、術者側に重い負担が強いられる。

「大丈夫だよ。久しぶりに呼び出してちょっと疲れただけだから」

 悠夜は安心させるように笑顔で応えた。

「あの『式』が今河を見つけたら、藤真さんに分かるってことか?」

「うん。そうだよ」

「由姫ちゃん、早く見つけてあげなきゃ。もし泣いていたらどうしよう」

 仄の言葉に朋樹が顔をしかめた。

「あいつが泣くようなヤツかよ」

 朋樹の冷たい態度に仄が怒った。

「何言ってんの!? 由姫ちゃんはすごく繊細な子なんだから!!」

「繊細っ!? ふざけんな! あんな陰険でネチネチと厭味を言うヤツが繊細なわけないだろっ!!」

 怒る仄に朋樹も負けじと声を荒げる。「あいつは俺の鬼門だ!」とまで言い切った。……どうやら過去に一悶着あったようだ。

 納得がいかない仄は憮然とした顔になる。

「相原君はわかってないっ」

「わかってないのはお前の方だ。あいつの本性を知らねぇからそんなことが言えるんだよ!」

「由姫ちゃんはいい子だよ!」

「『いい子』!? あいつが聞いたら鼻で笑いそうなこと、よく言えるな!」

 いつまでも水掛け論だ。朋樹の言葉に仄がさらに言い返そうとした時、悠夜が片手を上げそれを制した。

 ―――悠夜は何かに耳を傾けているようだった。

 耳を澄ます悠夜に、仄は言葉を飲み込み、朋樹も無言で見る。

「……見つけた?」

 独り言のように呟く悠夜に、ずいぶん早くね? と朋樹がぼやく。確かにそんなに簡単に見つかるものなのだろうか。仄も展開の早さに困惑しながも悠夜を見守る。

 暫く耳を澄ましていた悠夜が、顔をあげ二人に声をかけた。

「図書館に行こう」

 由姫はそこにいる――――。


**


『図書館!? そこはもう行ったぜ?』

 悠夜からの折り返しの電話に、陽絽は疑問の声を上げた。

「うん。でも水無月がそこだって教えてくれたから、一応今からそこに行ってみるよ」

『水無月?『式』を使ったのか? 大丈夫か?』

 式召喚をしたことに、陽絽も仄と同様、気遣う。

「大丈夫。それよりそっちは誰が動けるの?」

『俺と志織姉。将兄は捷についてる。何か一族の人間がこれから捷のところに挨拶に来るんだと』

「挨拶?」

『ああ。今度、『神影』に入ることになった若い奴らしいぜ』

 ……その人物というのは。少し固い声で尋ねる。

「名前はわかる?」

『名前? えーと、確か……キョウ。そうだキョウ。神景響って奴だ』

 名前を聞き、やはり、と悠夜は納得する。どうやら先日、要の元へ訪れた人物が今日、自分達のボスの所へも訪れるようだ。


 神景響という人間に興味があるが、今はそれどころではない。悠夜は意識を切り替え、目的の図書館へ向かうことを第一に考えた。


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