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幻葬記  作者: ことは
第19話:仕掛けられた遭遇
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俺のことは知ってるな?

**


 陽絽と志織には図書館以外の捜索を引き続き頼み、悠夜達が図書館に着いた時には既に閉館の時間をとうに過ぎていた。


 辺りは静まり返り人気のない建物は暗く、ひっそりとした気配が漂う。

 図書館の入り口近くに水無月がいた。自分を呼び出した主を確認すると、水無月は手を上げ図書館の中を指差す。――――やはり由姫は中にいるようだ。

「水無月、ありがとう。戻っていいよ」

 水無月が待つ所まで行くと、悠夜は腕を差し伸べた。水無月はその手を取るように重ねると、ふっと姿が消えた。

 差し伸べた掌の上には、銀色の札――。水無月は札の中に戻ったのだ。悠夜は札をしまう。

朋樹が一足先に出入口の自動ドアの正面まで歩きその場で止まった。――――無人のはずのドアが静かに開く……。

 朋樹は別段驚くこともなく開いたドアの中へ入って行き、その後を悠夜と仄が続いた。


 建物の中は暗く、慣れるまで時間がかかる暗闇に目を凝らす。


 朋樹が室内を見渡しながら仄に声をかけた。

「おいチビ、何か感じるか?」

「……チビ言わないで」

 反論しながらも、仄は建物内の気配を探る。そして何かを捕らえようとしたその時、前方から『来る』気配に仄が叫んだ。

「相原くんっ!!」

 仄の警戒の声に朋樹は前から襲ってきた『モノ』を手刀で叩き落とす。

 飛んできたのは――――本。ご丁寧に分厚いハードカバーだ。

 地面に叩き落とした本を見て朋樹は舌打ちをし、悠夜は鋭く辺りを目配りさせる。

「ゆ、悠夜さん……」

 仄の戸惑いの声に、悠夜は自らの右腕を振り上げ、一度空を切った。――――次の瞬間、その手には剣が握られていた。

 それを見て、朋樹も自分の武器を呼び出す。長身の彼に似合う、長槍が現れた。

 攻撃型の術者は大きな技を使う場合、武器召喚を行う。普段は術力を体に定着させる手刀が基本だ。先程、朋樹が本を叩き落としたのがそれにあたる。だが、今はそれでは間に合わないと判断した。


 なぜなら、三人は今、宙に浮いた無数の本に囲まれていたからだ。


「こんだけあると、振り切れそうにねぇな」

 朋樹が嘲笑うような笑みを浮かべる。次の瞬間、空中に漂う本が一斉に悠夜達に襲ってきた。――――いや、そうではなかった。正確には藤真悠夜と相原朋樹の『二人だけ』を標的に襲ってきた。


「仄! 離れるんだ!!」


 悠夜が仄に向かって叫ぶ。言われた通りに仄は素早く壁ぎわに身を寄せた。本に襲撃される二人に近づくことはできない。一体どうすればいいのか。何とかこの状況の回避を探そうとしていると――突然、強い気配を感じた。

 その気配の行方を目で追う。感じるのは上の……二階。


 ――――……いる。


 ひしひしと感じる気配に、仄は一呼吸置くと、その気配の主を追う為、二階へ続く階段を駆け上がった。

「おいっ!!」

「仄っ!!」

 走りだした仄に、朋樹と悠夜がそれぞれ声を上げるがそれだけで、襲ってくる無数の本から抜け出すことは出来なかった――――……。


 一気に階段を駆け上がった仄は息を切らせながらも気配を追う。二階は轟音が鳴り響く一階とは違い、ひっそりとした静けさと黒の闇が漂っていた。

 悠夜たちを襲っている黒幕がここにいるのだと警戒しながら仄は足を進める。……そして部屋の奥に人影を確認すると、息を飲んだ。

 暗闇の為、遠くからでは黒いシルエットにしか見えない。姿が見えないに相手に高鳴る心音を押さえつつ、仄はゆっくりと近づく。

 徐々に影の輪郭がはっきりする。そしてついにその顔を捕らえた。

 ――――男……? 知らない男の人だ。

 仄は一定の間合いを取ると、それ以上は近づかなかった。

 男はゆったりとこちらを見ていた。その顔には笑みが浮かべられ、仄がここに来るのを待っていたようだった。


「仄」


 突然名前を呼ばれ、体が竦んだ。気を抜けば今にもその場へしゃがみ込んでしまいそうだ。

 なんだこの感覚は。男の『気』にあてられたのだろうか。仄は震える体を叱咤しながら男と向かい合う。

「……どうしてわたしの名前を知っているの? ……貴方は誰?」

 必死に睨む仄を男はふっと笑う。

「そう睨むな。お前に危害を加えるつもりはない。俺は崇王奏十。――――俺のことは知ってるな?」

 さらりと男が名乗り、その名前に仄は眼を大きく見開く。

 崇王奏十――――。もちろんその名前は知っている。あの悠夜が勝てなかった相手だ。

 警戒心を露にする仄に「逆効果だったか」と言って奏十は肩をすくめた。

「仄、見てみろ」

 奏十はそう言うと親指を立て自分の右の壁を指す。仄は警戒しながらも、促された壁へと視線を向ける。

 そして声を失った。


 奏十が示す壁の『中』に今河由姫の姿があった。


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