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幻葬記  作者: ことは
第16話:神影の者
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無意識だなんて、まるで恋煩いですね

「そこまでだ」


 静観していた要が仲裁に入った。

「話が進まない。トモ、暫く黙っていろ」

 (あるじ)の命令に「俺のせいかよ」と朋樹は唸る。すかさず側近の沙也夏が「口答えをするんじゃありません」と諌めた。ついでに殴る。

「仄、響とはどんな話をしたんだ?」

 急に話を振られて、仄は反応に遅れた。

「き、響さん? ……いえ、たいしたお話は……」

「そうか。急に走りだして後を追うから驚いたぞ」

「す、すみません」

 仄は頬を赤らめて謝った。自分の失態が恥ずかしく俯いてしまう。

「何か気になることがあったの?」

 悠夜に聞かれ、仄は困った顔になる。

「あの、自分でもよく分からないんです。……ただ、追いかけなきゃって思ったら体が勝手に動いて、気づいたら走ってて……」

「無意識だなんて、まるで恋煩いですね。仄ったら、響様に一目惚れしたのでしょうか?」

「…………」

 沙也夏の言葉に場が一瞬静まりかえる。


「さ、沙也夏さんっ!?」


 最初に慌てた声を出したのは恋煩いと言われた仄だった。

「ばっ、バカじゃねーの!? 沙也夏、適当なこと言うなよっ!!」

 続いて発言禁止令が出されている朋樹が怒り、

「捷が聞いたらどう思うだろうな。……面白そうだな」

 要は変わらず冷静に、

「…………そうなの?」

 最後に悠夜が低い無機質な声で、静かに、―――とても静かに問いかけてきた。

 あまり見ることのない悠夜の雰囲気に寒気を感じながら仄は必死に否定する。

「悠夜さん! 違います! 本当に違いますからー!」

「……そう」

 仄の否定の言葉を悠夜は一応受け入れながらも、そこにはまだ冷たい気配が漂う。

「あらあら。仄は相変わらずモテモテですね」

「捷も(うるさ)そうだしな。面倒になったらいつでもこい。歓迎するぞ」

 ボスの従兄とその側近の言葉に、仄は真っ赤になりながら口を開こうとした時、冷たい声が響いた。

「その必要はないですよ。仄だって異動なんて考えてないよね?」

 悠夜は要の打診をさらりと断り、仄ににこりと笑顔を見せた。……とても黒い笑顔だった。

 久々の悠夜の黒笑顔に仄は涙目のまま、こくこくと首を縦に振るしかできなかった。

 やり取りを半ば呆れながら見ていた朋樹は面倒くさそうに要に話の先を促した。

「で、その『神景響』は何しに来たんだよ」

「ああ、挨拶に来ただけだ。今度から『神影一門』の組織に入ったからな」

「じゃあ、それなりに『力』があるってことか?」

「……そうだな。見た限り、強い力を秘めてそうだ」

 要はやや、間を空けてから答えた。朋樹が首を傾げる。

「そんなに力があるなら、なんで今まで表に出てこなかったんだよ?」

「自分の組織を持てるのは、二十歳(ハタチ)になってからだ。響は今年二十歳になる」

「じゃあ、悠夜さんと同い年ですね」

 仄が明るい顔で言う。対する悠夜は真顔のままだ。

 

「……『見極め』ですね?」


 悠夜の問いに、要が「そうだ」と眼で頷く。

「知っていると思うが、『神影』になり、自分の組織を持つには、『統率力』とそれに見合う『力』が必要だ。神景一族の人間全員が『術力』を持っているわけではない。ほとんどの者がその力を持たずに生まれてくる。たとえ、持って生まれたとしても、成長するにつれて『弱く』なったり、『消える』場合もあるからな」

『神景』一族の大半は表社会の大企業で活躍している。裏社会を請け負っているのは、ほんの一握りの者達だ。それが捷だったり、今、目の前にいる要だったりする。


 そして、神景響もその一員となったのだ――――。


 二十歳までに自分の手足となる術者をまとめ上げるための『統率力』の素質と、『力』が消えることはないかの『見極め』をされる。

 その両方をクリアすれば、妖影を追う『神影(みかげ)一門』として、自ら組織を作りあげていくことになる。


 ――――『神影』。


『神』の『影』となって代わりに『(あや)』しき『影』を追う者達のこと――……。

『神景』は(さかのぼ)れば、『神影』からきている。

 どこで『神影』が隠名(かくしな)になったのかは定かではないが、今では裏社会で生きる術者全てを総称する呼び名として使われている。


『神影の者』、と――――……。


***



 午前零時前、執務室の電話が鳴った。コール数回。神景捷(みかげすぐる)はその受話器を取る。

 電話の相手主に対し、捷は口元を(ほころ)ばせた。

 

「こんばんは、要さん」


 気の合う従兄に捷は楽しそうに話す。

「悠夜と仄を頼みますね。仄は朋樹と仲良くやっていますか? ……そうですか。相変らずですか」

 仄と朋樹のやり取りが目に浮かび、捷の口から柔らかい笑みが零れた。

 しかし、電話の向こうの従兄が本題に入ると、その笑みは内に閉まわれる。しばらくの間、要の話を聞くと再び口元に笑みを浮かべた。

 だがその笑みは先ほどの柔らかな笑みではなく、今そこに表れているのは――冷笑。


「……なるほど。面白い話ですね」


 冷たい漆黒の瞳がまだ見ぬ対象を捕らえる。


 神景捷が神景響と対峙するまで、あと少し。

 二人が出会った時、新たな闇歴史が動き出すこととなる――――……。



第16話 end.

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