暴力ではありません。躾です
夕方になり、空は闇色に染まろうとしていた――――。
屋敷の広い庭は夜のライトアップが施され、美しい幻想的な庭園が演出されている。
悠夜と仄は客間に通されていた。仄は通された客間から見える庭園を窓際に立ってぼんやりと眺めていた。
『すぐに、また会えるよ』
先程別れた神景響の言葉を思い出すと嬉しそうな顔になる。
「そんなに気になる人だったの?」
悠夜に声をかけられ、仄は我に返った。いつの間にか隣には悠夜が立っていた。
「え……っと、すごく空気が自然な感じの人でした」
「なんだよ、それ」
同じく客間にいて胡坐をかいていた相原朋樹が横槍を入れてきた。仄がそちらをじろりと睨む。
「雰囲気も優しくて少し悠夜さんに似てる方でしたよ。誰かさんとは大違い」
語尾を強調するように、わざと大きな声で言う。朋樹が不機嫌そうに眉を潜めた。
「喧嘩売ってんのか」
「別に相原君だなんて言ってないでしょ」
「お前、ほんとかわいくねーな」
「なんとでも。意地悪な人に言われても平気だもん」
「てめぇ……」
また喧嘩が始まる空気になりかけた時、ぱしっと殴る音がした。……朋樹が千景沙也夏に頭を叩かれたのだ。
朋樹の後ろの襖が開けられていて、入ってきて早々に叩いたようだ。「いって~」と唸りながら、朋樹は叩かれた頭を抱え込む。そんな朋樹を沙也夏は冷静な表情で見据えた。
「女の子に『てめぇ』なんて言うんじゃありません。言葉を慎むようにと、いつも言っているでしょう」
「暴力はいいのかよ」
「暴力ではありません。躾です」
朋樹の厭味にもきっぱりと沙也夏は切り捨てる。悠夜と仄はぽかんとしてその様子を見ていた所、沙也夏に続いてこの家の主、神景要が入ってきた。
「待たせたな。二人とも」
要はそう言って上座に腰を下ろした。要に習い、悠夜と仄も腰を下ろす。沙也夏は朋樹の隣に座り、朋樹はそれを横目で睨むが綺麗に無視された。
「仄とは先に会ったが、悠夜、よく来たな。今日は泊まっていくといい」
要は惜しむことのない美貌で笑みを見せる。
「ありがとうございます」
悠夜が礼を言い、仄も頭を下げた。
「さっそく本題に入るが、今回の『術者狩り』の件で二人にはここにいる朋樹と組んでもらう」
指名を受けた朋樹は相変わらず不機嫌な顔をしている。要は朋樹へ視線を向けた。
「トモ、二人と組む理由だが」
「藤真さんから聞いた。知ってる」
朋樹が手短に答えた。要はちらりと悠夜を見ると悠夜はこくりと頷いた。
「そうか。手間をかけさせてしまったな、悠夜」
「いえ。ちょうど時間があったので」
苦笑混じりで悠夜が答える。その傍らで仄がじっと朋樹を睨んでいた。朋樹がその視線に気づく。
「なんだよ」
「……悠夜さんに迷惑かけてないでしょうね?」
「あ? どういう意味だよ。お前じゃあるまいし」
「わたしはかけてません!」
「よく言うぜっ! 今回のだって、結局藤真さんに守ってもらうんだろ!」
「違います! わたしが悠夜さんを守るんです!!」
「はぁ~!?」
話が噛み合わない。悠夜は溜め息をついて仄を宥めた。
「仄、俺なら大丈夫だよ」
「悠夜さん、何言ってるんですか! 敵は戦意剥き出しですよっ!」
「誰が敵だっ!!」
仄はかなり感情が熱くなっているようだ。しょうがない。悠夜は矛先を朋樹に変える。
「朋樹、この話は後でまた説明するから」
「藤真さん、こいつ何か勘違いしてんじゃねぇの?」
「『こいつ』……っ!?」
チビだの、てめぇだの、こいつだの、散々な呼ばわり方をされ、仄もいい加減切れかけていた。握り拳をふるふると奮わせながら、今にも大きな声を上げそうになるのを必死に抑えた。




