今度つれてくるから
術者でも色々なタイプがいる。藤真悠夜は攻守バランスが取れた術者であり、相模陽絽は防御が苦手で攻撃力に優れている。
その中で、咲宮仄は感覚能力に優れた術者だった。そして、もう一つ、彼女には特殊能力があった。
それは――――。
夜の店に二つの影。悠夜と仄だ。
怪現象が起きる時間に合わせて悠夜の車の運転で店に訪れた。
クラシカルな店内の雰囲気に仄はつい見渡してしまう。
「素敵ですね。あ、悠夜さんあの空の絵、きれい。捷さん好きそう」
「仕事だよ、仄」
客のようにはしゃぐ仄に苦笑しながらやんわり諭す。
悠夜に言われて、仄も仕事モードへと頭を切り替えた。画像でみたテーブルを見つけるとそこへ寄って行く。悠夜もその後へと続く。
仄は今度は隣の棚へと近づく。そしてじっと見つめる。あの画像の後から配置は動かしていないと聞いている。集中する仄から一歩退いて悠夜は監視カメラの位置を確認する。
店内に設置のカメラは三台。捷から見せられた画像はその内の一台だが、奇怪現象が起こっている時は全てのカメラが同様に荒れてしまうそうだ。
「見つけた」
仄の声に悠夜は視線を彼女へ向ける。仄は探していた対象の物を手に取った。
「懐中時計?」
悠夜が仄の手に納まったものを口にする。
「はい。これが「巻き戻し」の原因になっていたものです」
銀の懐中時計。
「妖影が入り込んでるんだね」
「そうですね。でも力はそんなに強くないです。このまま放っておいても消滅します」
放っておいても――――、と言っておきながらも、仄は優しく両手で懐中時計を包み込んだ。
そしてその両の手から柔らかい白き光が発せられる。
これが仄の持つ特殊能力。
癒しの『浄化』の力。
浄化能力を持つ術者は珍しい。捷の元にいる術者の中では仄ともう一人、浅木志織がその能力を持っているが、彼女いわく、仄ほどの純度はないらしい。
妖影と対峙する時、悠夜たちはよく「封じる」という言葉を用いるが、これはいってしまえば妖影の消滅を意味する。だが『浄化』は穢れを祓い、魂を『昇華』させ天へ戻す。
できることなら昇華させるのが一番なのだが、特殊能力のため誰でもできるわけではない。
カタっと音が聞こえた。悠夜は再びカメラを見据える。やはり、と確信する。
仄の浄化能力に刺激を受けて「別の」妖影が反応したのだ。
元々ここには数体の妖影がいた、一つは懐中時計に入り込んだ妖影。もう一つは『カメラ』に入り込んだ妖影。磁気に反応しているのか、液晶のものに妖影が乗り移ることも多い。懐中時計の妖影が動いた時、その妖気に連動してカメラに潜む妖影も動いていたのだろう。
三体のカメラから「黒い影」が姿を現した。影は術者の力を求めて出て来たのだ。
そして浄化で無防備になっている仄をめがけて襲いかかってきた。
――――剣が空を切る音がした。それから、短い悲鳴とともに影たちは姿を消した。
悠夜が切り捨てたのだ。襲ってくるものに容赦する気はない。そこまでお人よしではない。
「悠夜さん」
仄に呼ばれ、悠夜は召喚した剣を消すと彼女へ近づいた。
「少し時間が長かったけど、大丈夫?」
悠夜は気遣うように尋ねる。「平気です」と仄はにこりと笑った。
強い力にはそれ相応の負荷が心身にかかる。浄化能力もまた然り。
仄は強い力をその小さな体に秘めている。強い力ゆえ、まだコントロールができない時があるので、周りにいる者が注意する必要がある。本人がけっこうながんばり屋なので尚更だ。
「妖影、カメラにもいたんですね」
「どれも弱体化してたけどね」
「最近、多いですね、妖影」
仄の言葉に悠夜も思い当たる節がある。先日の陽絽と組んだ時もそうだ。力はないが数が多い。妖影は基本単独行動だが、最近は数体が一緒にいることもよくある。
何かの前兆なのだろうか。もしくは、すでに起こっているのか……。
「ああ、このブローチもかわいい」
仄の興味はまた店の品物に移っていた。触れないように観賞している。悠夜は肩をすくめた。
「帰ろう、仄」
「もう少し~」
「だめ」
仕事が終われば即撤収が原則。許可があっても私有地内に長くいるのは良くないことだ。
後ろ髪をひかれながら残念そうに悠夜のあとをついてくる仄に、
「今度つれてくるから」
と言うと、仄の顔が途端にぱっと明るくなった。「悠夜さん、約束ですよ~」とご機嫌になった。
捷も大概だが、自分もつくづく甘いなと悠夜は思った。
その日以降、アンティーク・ショップで怪現象が起こったという話はなかった。




