色々、ですよ
真夜中の高速道路はすいていた。
ハンドルを握る将護は追い越し車線を走行のままスピードをさらに上げる。助手席に座る陽絽は窓から見える月を見上げていた。彼らは神景捷を迎えに行くため本家へ向かっていた。
「なぁ、将兄」
月を見ながらおもむろに陽絽は口を開く。
「なんだ」
将護は短く答える。
「捷は『本家』に呼ばれたんだろ。じゃあ他の『神景』の人間も呼ばれてんのか?」
「たぶんな」
やっぱりか、と陽絽は眉と顰める。
「……俺、何人かと会合や仕事で会ったけど、なんか訳わかんねぇ奴が多いよな」
「そうか」
「捷も変人だが、他の『神景』も変人が多いと思う。あれは血筋か? しかも下についてる術者も変な奴らばかりだし」
自分のボスを変人呼ばわりし、ボスの一族を変人の集まりとくくり、他の『神影』の術者たちを変な奴らと纏めた。……ボスが聞いたら何と言うだろうか。
「総帥も変人なんだろーなー」
ついでに大ボスまで変人に仕立て上げられてしまった。
「陽絽は総帥に会ったことがあるのか?」
「ねーよ? 下っぱの術者が会えるもんじゃないだろ」
陽絽の言う通りだ。一介の術者がそう簡単に会えるはずがない。自分の感覚で話してしまい、将護は少し悔いた。
「将兄はあるのか?」
「……ああ。捷について何度かある」
「あー、そっか。将兄は捷の側近だし『千景』の人間だもんな」
何気なく陽絽が口にした『千景』の言葉に、視線は前を向いたまま、将護は微かに目を細める。陽絽がそれに気づくことはない。
「総帥ってどんな人なんだ? やっぱり変人なのか?」
不躾にもほどがある聞き方だが陽絽に悪びれた様子はない。本人に悪意はないのだ。将護は熟考する。そして出た言葉が、
「……少し変わった方だ」
「なんだ。やっぱ変人かー」
どうやら陽絽の中では『変わった方=変人』という図式が出来上がっているらしい。将護は好きに言わせておくことにした。変に擁護するにも口下手な自分では上手く伝えられない可能性がある。……何より、陽絽の言葉もあながち間違いではないと将護は思った。
この先、総帥と会うことがないとも言えない。実際に会えばどんな人物か一目瞭然だろう。
百聞は一見に如かず、だ。
「にしても、何で呼ばれたんだろうな。まさか他の『神影』の術者と組むとか? だったら勘弁してほしいぜ」
陽絽は自分で言いながら苦い顔をした。
――――しかし、それは見事に的中する事となる。
「おや、よく分かりましたね」
本家の近くで待っていたボスを『拾い』、本部への帰路の車内。
後部座席に座る捷が感心したような声を出した。陽絽はげっとした顔になった。
「マジで他の『神影』と組むのかよ!?」
「そうですよ」
「なんでだよー!」
「総帥が決めたことなんで、こちらとしては従うしかないでしょう」
『総帥』の言葉に陽絽は眉をしかめた。
「……あの変人」
「変人?」
捷がその言葉に反応する。陽絽はここに来るまでの話をした。そして話を聞き終わった捷は笑った。
「なるほど。その捉え方は案外、間違ってはいませんよ」
自分の一族の人間を『変人』呼ばわりされながらも捷は楽しそうだ。
「でも、僕も彼らと一緒とは悲しいですねぇ」
「いつも笑顔で毒を吐き出す奴が、何言ってやがる!」
陽絽が噛みついた。心外ですねー、と捷はまた笑う。
彼らのやり取りを一通り聞いていた将護が本題を口にした。
「捷、今何が起きている?」
途端に賑やかだった車内の空気が張り詰めた。陽絽も真顔で後部座席の捷へ視線を向けた。
捷は相変わらず笑顔のままだ。
「そうですね。詳しいことは戻ってからになりますが、色々と騒動が起きています」
「騒動?」
陽絽は怪訝な顔になる。後ろに顔を向けた陽絽に捷は視線を合わせ、もう一度穏やかに言った。
「戻ってからね。それより、仄の様子はどうですか?」
昨日大技を使い、今日も外の仕事をしてきた彼女を捷は気にしているようだ。
「俺が仕事から戻ってきた時にはいたぞ。悠夜が迎えに行ったんだって? 元気にはしてた。だけどなんであんな大仕事した次の日にまた外に出すんだよ」
そんなに心配するくせに、と理解できない陽絽は文句をいう。捷は視線を少し伏せると小さく「急ぎだったんですよ」とだけ呟いた。そしてもう一人の気になる者の名前を口にする。
「悠夜はおとなしくしていますか」
「してる。ここにもついて来ようとしたが止めた。それでいいんだろ?」
陽絽は前を向いたまま答える。将護も口を出さない。捷は無言で満足そうに瞳を細めた。
藤真悠夜を本家に近づけたくないのは捷の意思であることを将護も陽絽も知っている。そして他の術者たちも……。
「悠夜、本家に目をつけられてるんだろ?」
「そうですねえ」
「それってあいつの持つ力のせいか?」
「色々、ですよ」
捷はぼんやりとした表現で返す。
若干19歳の若き術者である藤真悠夜の能力の高さは以前から本家でも定評があった。いつ『本家』の術者としても迎えられてもおかしくない。本人が望まなくても勅命がくだれば受け入れるしかない。
陽絽がボソリと零す。
「俺、あいつが本家に行くなんてヤだからな。本人が納得してんなら別だけど」
「陽絽は悠夜が大好きですもんね」
茶化すように言われ、陽絽は眉をつり上げ勢いよく後ろに振り向いた。
「変な言い方すんな! あいつはたまにあぶなっかしくて見ていてハラハラすんだよ!」
「悠夜はまだまだ子どもですからねえ」
「そうだ! あいつは一つの事に集中すると周りがすぐに見えなくなるからな!」
「確かにな」
黙って聞いていた将護まで賛同した。当人がいればきっととてつもなく不機嫌になっていたことだろう。 男性陣の中では一番末っ子を彼らなりに心配しているのだ。
「てなわけで悠夜、今、結構拗ねてるからちゃんと見てやれよ」
さらっと責任を押しつけられ年長者は眉をさげる。
「困った子ですねえ」
捷は肩を竦めた。




