謀りごと ~こぼれ話~
迎えに来た悠夜は疲れている仄を休ませるため、一休みしてから本部に戻ることにした。
車を停めている駐車場までの道のりにある小さなカフェ。外観は煉瓦造りで扉は深緑と、とても可愛らしい店だった。店内も木製の椅子とテーブルで統一されていた。テーブルには淡い黄色のテーブルクロスがひかれていて上品な印象を受ける。仄のテンションがあがる。
「うわぁ、かわいいお店ですね! 由姫ちゃんを連れてきてあげたいなぁ」
由姫をつれてきたらこの店のスイーツを根こそぎ食べつくされるかもしれないが、仄としてはこの内装の可愛らしさを共有したいと思った。
「仄、何か食べる?」
スタッフに案内され窓際の席に座ると悠夜はお腹がすいてないか聞いてきた。
「お腹空きました。食べてもいいですか?」
「いいよ」
悠夜が頷くと仄は嬉しそうにメニュー表を開く。そのメニュー表も店のドアと同じく深緑でとてもお洒落だ。
「悠夜さんも何か食べます? ここ、ドーナツの種類がたくさんありますよ」
「俺はコーヒーでいいよ」
甘い物があまり得意ではない悠夜は「好きなの食べて」と仄に促す。
「ん~。いっぱいありますね。新作三つ、は無理か。二つに絞るとして……」
メニュー表と睨めっこする仄に悠夜は釘を刺す。
「仄、晩ご飯食べられなくなるから一つだよ」
「え!?」
驚愕する仄。
「ふ、二つは?」
「ダメだよ。一つ」
悠夜は譲らない。仄も頑張って戦う。
「でも! でも! お腹空いてるし、ご飯もちゃんと食べますから!」
「ダメ」
お母さんは頑固だ。こうなっては仄にはどうしようもない。でも諦められない。二つは食べたい。今食べたい。さらに欲をいえば他の種類もテイクアウトしたい。
「む~……」
本気で悩む仄に何をそんなに考えることがあるのかと悠夜は肩を竦めた。自分は早くコーヒーが飲みたい。
「あっ」
仄が呟いた。ようやく選んだようだ。
「決まった?」
尋ねる悠夜に仄の瞳はキラキラしていた。
「はい! 悠夜さんも食べてください!」
「…………え?」
予想しなかった答えに悠夜の反応が遅れた。構わず仄が続ける。
「一つずつ頼んで半分こしましょう! それなら一つ分ですよね!?」
「いや、俺は……」
コーヒーだけで、と続けようにも仄の勢いは止まらない。
「わたし、絶対二種類食べます! 疲れているから食べます!! 食べられないなら晩ご飯食べません!!」
思わぬ反撃と反抗に悠夜は呆気に取られた。そんなに食べたい物なのか? 理解に苦しむ。
じ~っと見てくる仄に悠夜はついに折れた。
「半分こね。ご飯もちゃんと食べてね」
「悠夜さんありがとう~。あ、注文お願いしまーす」
仄は満面の笑顔でオーダーする。対する悠夜は食べきれるだろうかと不安になった。
晩ご飯が食べられないのは胸やけした悠夜の方かもしれない――――。
end.




