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幻葬記  作者: ことは
第1話:妖(あやかし)人形
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護符は持ってきている?

 早朝、藤真悠夜(ふじまゆうや)は都内の、ある大きな敷居の中に立つビルのエントランスにいた。


 設置してある暗唱番号パネルを手慣れた様子で入力する。すぐにロッククリアの音がし中に入ると、ロビー横にあるエレベーターに乗り込み、階ボタンを押す。

 エレベーターが上昇する。まもなく目的の階に着き、エレベーターを降りて廊下を進むと、半透明なすりガラスの扉を開けた。


「あら、早いわね。悠夜」


 扉を開けると中から声をかけられた。

 悠夜は自然と笑顔で挨拶をする。

「志織さん、おはようございます」

「おはよう。今日の仕事、遠くだったかしら?」

 同僚の浅木志織(あさぎしおり)はそう言ってパソコンのスケジュール管理表を確認する。

 彼女も悠夜と同じく『神影(みかげ)』の術者だ。そしてここは彼が所属する本部。他にも数名が籍を置いている。


「ああ、今日は陽絽(ひろ)と一緒なのね」

「昨日メールで、朝早めに集まって打ち合わせしようってことになって」

「……悠夜、あの寝坊助が来ると思う?」

 志織に呆れたように言われ悠夜は眉を下げた。

「陽絽のほうから提案してきたんですよ」

「それは判断ミスね」

 スッパリと切られた。

「ですかね?」

 悠夜も自信がなくなってきた。でも本人が「俺は行く」と言ったのだからその気持ちを優先したいと思ったのだが……。

 その時、悠夜の携帯のバイブが鳴った。ジーンズのポケットから取り出し確認する。

 メールだ。相手は正にたった今、話の話題になっていた人物。

 悠夜は画面から顔をあげると諦めたような笑顔で言った。


「志織さん。今日の資料ください。現地集合になりました」


 ほら見たことか、と志織はため息をつきながら、今日の仕事の資料を悠夜に渡した。

「戻ってきたら(すぐる)に叱ってもらうから。気をつけて行ってらっしゃい」

「……はい」

 悠夜は力なく資料に目を通した。困った仲間だ。


※※


 寝坊の相模陽絽(さがみひろ)との待ち合わせ場所は、都心から少し離れたところにある年季の入った大きな屋敷の前だった。


「悠夜ー。はよっス」

 先に屋敷についていた陽絽が声をかけてきた。

「髪がはねてるよ、陽絽」

 肩をすくめながら悠夜が指摘すると「そんなの気にすんな」と一蹴された。

「今日の仕事は『封印』でいいんだろ」

 陽絽が仕事の内容を確認してきた。戦闘能力の高い二人が組む時は大概、時間のかかる面倒なことか、強力な妖影(あやかげ)の封印が通例だった。

 悠夜は頷く。それから資料の情報を伝えた。


「ここに住んでいる住人たちが次々に体調不良を起こしていて、その原因がどうやら屋敷の物置にある人形だって」

「人形? 人型の?」

「そう。人型」

「なるほどなー」

 陽絽はやる事を把握した。人形、特に人型の人形は『念』が籠りやすいとよくいわれるが、妖影にも『入れ物』として対象にされることが多い。

「人形の破壊はOKなのか?」

「大丈夫。全て処分を希望しているよ」

「マジで? 気をつかわなくていいのはありがたいよな。なあ、これってそんなに難易度高くないんじゃねぇの?」

 一人でもいいのでは、と言いたげな陽絽に、悠夜は資料に記された最後のことを伝えた。


「人形の数は、およそ500体」

「マジかよー」


 なんだその数はーと、げんなりとした顔になった。今回は「面倒系」の仕事のようだ。


 住人には一時避難をしてもらっている。無人の屋敷に入ると悠夜と陽絽は母屋を横切り目的の物置小屋を目指した。


 物置小屋は、こじんまりとした大きさではなく一軒家並みの大きさだった。

「でかいな。さすが500体」

「ほとんど人形だけど、他にも壺や掛け軸があるらしいよ」

「コレクターってやつか。にしても人形全部破棄なんてすげぇな」

「よほど辛かったんだろうね」

 妖影の気は瘴気を含んだ毒だ。単体ではなんともなくとも無数に集まれば、ただでは済まない。防御する(すべ)をもたない普通の人間なら尚更だ。住人たちも相当に参っていたことだろう。

 

 悠夜は志織から預かった小屋の鍵を取り出す。それから一度、陽絽を一瞥した。

「陽絽」

「いける」

 一言、ゴーサインだけ返ってきた。悠夜は鍵穴に鍵を差し込むとゆっくりと回した。


 ガチャリ、と鍵の開く音がした。

 悠夜は横扉をスライドさせる。外の光が入り、物置小屋の中が確認できる。


 ――――中は高い棚に一体一体、ガラスケースに入れられた大量の人形が納められていた。


 日本人形から西洋の人形まで、その種類は多種多様でまさに圧巻だった。

「金持ちの考えることはよくわかんねえな」

「同感」

 まるで展示館にいる気分だ。正し、漂う妖気が充満していて気分は良くない。長居は御免こうむりたい。

 悠夜は目を細めて「中」の様子を「視る」。

「陽絽、護符は持ってきている?」

「あるけど、どうすんだ?」

「物置の外回りに貼ろう。妖影が出ないように閉じ込めるんだ」

「りょーかい」

 悠夜の言わんことを理解した陽絽は、小走りで小屋の正面から裏側へ回る。悠夜も扉に護符を貼った。


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