渡された資料にはなかったです……
今回の任務は、人間に憑いた妖影の封印。
よくある仕事だ。
――――そのはずだった。
藤真悠夜は今、深い岩陰の穴にいた。
正確には落ちてしまった。
そして一緒に落ちたのはもう一人。
「悠夜さん……」
不安げに咲宮仄は悠夜を呼ぶ。
「仄、怪我はしてない?」
「悠夜さんが庇ってくれたんで、大丈夫です。悠夜さんは?」
「俺も大丈夫だよ」
「……ごめんなさい。わたしが勝手に動いたから」
落ち込む仄に悠夜は怒ることなくその頭をひとなでする。
ここまでの状況はこうだ。
悠夜と仄は妖影を追って、ターゲットがいる山の麓まで来ていた。
そこで仄が異様な気配を感じ、一人、岩山の方へ向かったところで、待ち構えていた男の妖影に襲われたのだ。
襲撃に気づいた悠夜がすぐに応戦したが、妖影は「ただの」妖影ではなかった。
それは、悠夜たちと同じ「術者」だった。
完全な不意打ち。至近距離から強力は術を放たれ、それに完全にガードできす押されてしまい、その時、石の窪みに足を取られ、岩陰の下へと落ちてしまった。
そして、今に至る――――。
「妖影に憑かれたのが術者だったなんて、渡された資料にはなかったです……」
そのような最重要なことが書かれていないなど考えられない。
仄ははっとしてある可能性を言った。
「……普通の人だったけど、妖影に憑かれた時に術力が目覚めてしまった?」
非常に稀なケースだが、潜在的に術者の素質を持った一般人もいる。そういう人間が妖影に憑かれると、妖影の妖力に刺激を受けて術力を開花させることがある。
それならば、術者のことが資料に書かれていないのも説明できる。
「なんとか妖影と引き剥がせないかな」
「……どうでしょう。融合している時間が長いと難しいですね。もう少しきちんと見られたらいいんですが……」
仄は特異体質の「浄化」に加えて、感覚能力に秀でている術者なので、「視る」ことの専門家だった。
「じゃあ、俺がおびき寄せるから、仄は遠くから確認して」
「え? 危ないですよ! 相手はどれくらいの力を持っているかも分からないんですよ」
悠夜の提案に仄は苦言を唱えた。
「さっきはちょっと油断したけど、今度は失敗しないよ」
「でも、」
「どちらにしろ、落ちた所を見られているから、このままここにいるのは危ないよ。早く行動に移ったほうがいい」
冷静に今の状況とこれからの行動を指摘されては仄も何も言えない。
「……気をつけてくださいね」
「大丈夫」
悠夜はあまり感情を表に出さないが、その一言からは強い意志が感じられる。
彼は「戦う」ことの専門家だ。
仄も覚悟を決めて頷いた。
悠夜は片腕を仄の腰に回して「しっかりつかまっていて」と一言いって、足場の地場を確認すると一気に跳躍し、穴から地上へとあがった。
「!」
妖影が驚いて一瞬動きを止めたが目に入った。
そこからの悠夜の動きは早かった。
仄を下ろすと同時に手に長剣を召喚すると、妖影に向かって切り込んだ。
悠夜の剣先が体に触れる寸でのところで、妖影は上半身を勢いよく横にずらして逃れた。
――――かわせたか。
妖影の身体能力は低くはないようだ。悠夜は表情を変えることなく、すぐに次の攻撃を仕掛ける。剣を大きく振りかぶる。そしてそれを妖影めがけて振り下ろした。




