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幻葬記  作者: ことは
第4話:術者
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いけませんか?

 直接攻撃ではない。剣気を使った波動攻撃。

 至近距離からの攻撃に妖影は避けることができずに真正面からその力を受けた。

 体は吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「悠夜さん! ストップ! 大丈夫! 離せます!」


 仄の声に悠夜は握っていた剣の力を緩めた。

「そうか。よかった。こっちも終わったよ」

「……近づいてもいいですか?」

 妖影の様子を覗う仄に悠夜は剣を消すと頷いてみせた。

 地面では妖影が完全にのびていた。

 悠夜から許可が出たので仄は悠夜のそばまで駆け寄ってきた。

「先に本部に連れて行く?」

「いえ。すぐに離します」

 仄は短く、答えると横たわる妖影の横にしゃがみ込み目視する。

 妖影と術者の混ざりを「視る」。

 両手に白き浄化の力を込めるとそっと、頭と胸のあたりにかざす。

 一瞬、術者に苦悶の表情が浮かんだが、それもすぐに消えてまた眠りについた。


「妖影の力は強くないので、このまま昇華させますね」


 そう言うと仄は一瞬、力を強く込める。

 同時に術者から黒い影が抜け出したが、それはすぐに姿を消し空気の中に溶け込んだ。

 妖影と術者の解離は完了した。

 

「終わりました。もう大丈夫です。悠夜さん、この人どうします?」

(すぐる)に連絡を入れて、本家に保護してもらおう」

「そうですね。力のコントロールも勉強しないといけませんし」

 気の毒だが、術者としての力を目覚めたこの男性は、もう「普通の」生活を送るのは困難だ。

 力があると妖影に狙われる確率も高くなる。否応なしに自分を守る術を身につけなくてはいけない。

「付き添いでついていった方がいいかな」

 悠夜が携帯を出しながら呟くと、くん、と強く服の袖を掴まれた。

 掴んだのはもちろん仄。


「仄?」

「だめですよ」

「え?」

「悠夜さんが本家に行くなんて、だめですよ」


 真摯なまなざしで訴えかける。悠夜は僅かに瞳を見開いたが、すぐに柔らかく笑った。

「……仄は心配性だね」

「いけませんか?」

 普段の彼女らしからぬ固い声に、緊張と真剣さが感じられる。過剰に反応する仄に悠夜はそっと瞳を閉じて「ううん。ありがとう」と静かにこたえた。



 結論からいえば、神景捷(みかげすぐる)が悠夜に本家に行くように命じることはなかった。

 悠夜から連絡を受けた捷が、全ての手配を整えてくれて、悠夜も仄も何もすることはなかった。


 本部に戻った二人は執務室に呼ばれ、口頭報告を行っていた。


「お疲れさまでした。二人とも難しい案件をこなしてくれましたね」


 報告を聞き終わった捷は二人に今日の業務の終了を告げた。

 任務完了に仄は小さく息をはいた。

「仄? 疲れましたか?」

「あっ、いえ!」

 捷に聞かれ、仄はかぶりを振ったがすぐに何か思い直したようで、

「……はい。少し疲れました。すみません。失礼します」

 ぺこりとお辞儀をすると仄は執務室を出て行った。

 捷は仄が開けて出て行ったドアを見ながら、


「悠夜、何かありましたか?」


 鋭い。悠夜は困ったような表情を浮かべる。

「その、少し……」

 言葉を濁す悠夜に捷は小首を傾げる。

「何があったんですか」

「……自分が本家に行った方がいいかと……」

 そのワードに捷は全てを察したようだった。

「君、バカですか」

「すみません」

 呆れたように言われ、悠夜も軽率だったと反省した。

「仄が敏感になるのは知ってるでしょう」

「……昔の話ですよ」

「『本家(むこう)』はそうは思っていないかもしれませんよ」


 冷めた声に悠夜の表情が固くなる。

 捷の漆黒の瞳が悠夜を捉えた。

「君は優秀ですが、自分の立場と価値に関心がなさすぎです」

 ……そんなもの、自分には必要ないと思っている。それが悠夜の本音だ。

「……俺は今のままで十分です」

 小さな声で返す悠夜に捷は黙って肩をすくめた。


 藤真悠夜は優れた術者として、神影一族の中でも一目を置かれていた。

 だが、彼にはそれとはまた別に神景と深く関わる「過去」がある。

 そして、その過去を知るのもごくわずかな者たちだけだ。

 

 悠夜が神景本家と真正面から対峙した時、その深い闇歴史が紐解けていくことになるのだが、それはまだ先の話――――……。


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