Ch.62 アブナイ新天地 その二
急遽休憩を挟んだ馬車列は再び走り出してイズモへと到着した。
宇宙を旅した魔女イオが遺した大領地、イズモ。
そこにあるのは民家や商店が立ち並ぶ活気ある町並み。
そして、見渡す限りの桜と桜色に染まった山から顔を出す巨大な社だった。
「すごい・・・春の香りがする・・・」
克己は窓から流れ込む風に春を感じて笑みを浮かべる。
「ん?ここの住民は髭を生やしてないのか」
克己は不安気な面持ちで馬車の列を見る住民たちを目にしながら少し考える。
馬車の列はイズモの町を抜けて領主邸に到着した。
「これが領主邸・・・」
克己は平安貴族の屋敷のような平たく巨大な領主邸を見て驚愕する。
「ま、待ってくれ・・・これはヤバい」
克己は巨大な領主邸に焦る。
「どうして焦っているの?」
ミアズマは不思議そうに克己を見る。
「これを管理するためにどれだけの人が必要になると思ってるんだよ!というか、広すぎ!部屋の位置覚えられるかどうかわからねぇ!!」
克己は一通り文句を並べるとしょぼしょぼと領主邸に入っていった。
荷物を置いた克己は真っ先にイズモ領の法律と制度を調べ始めた。
イズモ領の法律と制度はもはや国家級である。
領地の政治を動かすのはイズモ大政令府という大きな政府で、領主を中心に財政、法務、文化、経済、国交、防衛の長官とその下にいる官僚が都市の政治を実行する。
そのイズモ大政令府の周りには大名と呼ばれる地方官僚がいて、都市部以外の政治はこの大名たちによって行われているのだという。
そして、イズモ領の領民は王国ではなくイズモ領に納税する。
王国がイズモ領から徴収できる税金額は、全体納税額のうち僅か二割と定められているなど、王国の権威よりもイズモ領の権威の方が強かったことが法律からわかる。
「・・・とりあえず、官僚決めるか」
克己は文献を閉じた。
翌日、克己は官僚の名簿リストを確認していた。
官僚の名簿リストと睨み合っていた時、王宮から使用人としてきたキーリーが現れた。
「伯爵閣下、ご挨拶したいという方々が・・・」
「そうか、通してくれ」
「では、奥の間の方へ」
克己はキーリーと共に約六十名が入れる奥の間へ行く。
「俺は征夷大将軍かなんかか?」
広い部屋の奥にポツンとあるキンキラキンの座布団の上に座った克己はキーリーたちを見る。
「なにそれ?」
キーリーは聞き返す。
「いや、何でもない・・・」
克己はそう一言呟くと大庭園に視線を移した。
克己は立ち上がると大庭園に向かった。
「は、伯爵閣下!お客人方がもう到着します!」
キーリーたちは克己を見て焦る。
「・・・」
克己は大庭園に立つ巨大な桜の木を見つめる。
「前任の領主の遺体はどこに?」
克己は巨大な桜の木の前でしゃがむ。
「え?火葬された後、大社と領主邸に散骨されたって・・・」
「領主邸のどこかわかっているか?」
克己は問う。
「大領主の逝去は百年間秘匿されていたほどなので・・・」
キーリーは首を傾げながら恐る恐る答えた。
「命が終わるその時が来るなら、あの美しいピンクの花を咲かせる木の下で死にたいとも言っていたわね」
克己はミアズマの言葉を思い出しながら巨大な桜の木に手を合わせた。
「・・・」
克己が振り返ると、そこには平安貴族と見間違うような衣服で身を包んだ人たちがいた。




