Ch.35 港とスイレン その五
宙を舞うクラーケンの触手は帆船のマストに直撃して甲板に落ちた。
マストが折れ、ロープが凄まじい勢いで弾け飛ぶ。
「すげぇ!めっちゃイカ!!」
克己はクラーケンの触手を見て目を輝かせる。
「隊長!!」
乗組員は克己を掴んで跳び、甲板を転がった。
その瞬間、折れたマストが甲板に落下して甲板と木の柵を破壊しながら海に落ちた。
「すまない、助かった」
克己は乗組員にハンドサインを送る。
「気にするな・・・」
乗組員は笑みながらサムズアップした。
「酒・・・!!」
克己は零れだした酒を見ると大量のジョッキを持って酒樽に駆け寄った。
「・・・」
克己を見た船員たちは自然と酒樽の前に集まる。
「もったいねぇ!!」
克己は零れる酒をジョッキで受け止めて満タンになったジョッキを乗組員たちに渡していく。
一つの酒樽が空になるまで乗組員たちは浴びるように酒を飲んでいく。
「よっしゃ!!気合い入れていくぞ!!」
克己の声は届かない。しかし、乗組員たちの気持ちは同じだ。
「・・・」
修理が行われる中、克己はジョッキに入った酒と大怪獣バトルを交互に見る。
酒の表面が途轍もない細かさで揺れては収まるこの現象を確認した結城 克己は確信する。
漁師たちを襲っていた謎の怪事件、その犯人はあのクジラであると。
結城 克己は集まった乗組員たちに全てを伝える。
そして、クジラの緊急撃退指令を出した。
ボルトが撃ち込まれ始めるとクジラはクラーケンに締め付けられ始めた。
「装填急げェェェェ!!!!」
克己と数人の屈強な男が船首に搭載された巨大なバリスタに全鋼製のボルトを運んで装填する。
凄まじい揺れで屈強な男たちがよろけて倒れる中、巨大なバリスタに必死に掴まっていた克己が照準器を覗く。
「喰らえェェェェ!!!!」
克己が操作するバリスタから放たれた全鋼製のボルトは空を切り裂き、凄まじい速度でクジラの目を撃ち抜いた。
「グオォォォォン」
クジラの悶えるような咆哮によって凄まじい衝撃波が発生して帆船が修理不可能なほど破壊されて大きく傾いた。
伏せていた乗組員たちが唖然として口元を震わせる中、結城 克己が耳の蜜蝋を剥がした。
「・・・ここまでか・・・」
そう呟く克己に乗組員たちが駆け寄る。
「頑張れ!!諦めるな!!」
止血用の包帯を持った乗組員たちは必死に励ましながら克己を手当てする。
「良いんだ・・・」
克己はそう呟き続ける。
「ダメだ!あんただけは死なせねぇ!!」
乗組員たちは克己を励まし続ける。
その時、大量の火球が流星のように空を駆けた。
凄まじい炎の音を聞いた乗組員たちは砕けた甲板の隙間から空を見る。
「これは・・・魔法?」
乗組員たちが見つめていた大量の火球が最後のあがきと言わんばかりに暴れるクジラとそれに掴まるクラーケンに降り注いだ。
クジラはクラーケンに絡まれたまま海中へと沈んでいく。
しかし、その時、海が切り裂かれて雷鳴が轟いた。
そして、空が切り裂かれ、巨大な氷塊が隕石の如く降る。
雷に打たれるクジラとクラーケンに巨大な氷塊が落ちて水飛沫が上がった。
「・・・」
天使の翼のような光を放つスイレンの剣を握ったトリーナは沈んでいく帆船に着地すると氷の斬撃で帆船の周りを凍らせた。
すると、バキバキと音を立てながら帆船は動かなくなった。
「間に合ってよかった・・・」
胸を押さえながら息を整えたトリーナは、克己の胸に耳を当てて安堵の笑みを浮かべた。




