Ch.32 港とスイレン その二
結城 克己を乗せた馬車は、夕方になると休憩のため平野に止まった。
この時期の夜は冷え込み雪が降ることも珍しくない。
シスタートリーナはスイレンの剣で地面を引っかく。
すると、そこから火が噴き出した。
「な、なんじゃこの魔法・・・」
克己は地面から出る火を見て驚く。
「この剣の力です。地を裂けば火が、木を裂けば水が、空を裂けば氷が、水を裂けば雷が広がります」
トリーナは克己を見る。
「急にチート能力出てきたな・・・」
克己は火を見つめる。
「それって誰でも使えるんですか?」
克己はトリーナを見る。
「誰でも使えるわけではありません。というか、私だけです」
「すごいですね。流石はマデリン姫の専属従者」
克己はトリーナを見て笑む。
再び走り始めた馬車は九日ほどかけて丘を越え、山に掘られたトンネルを抜けた。
そして、馬車はついにエメラルドグリーンの海が見える馬車道まで来た。
結城 克己を乗せた馬車はそのまま止まらず進み、夜十時頃にミシカ領の港町に到着した。
「お待ちしておりました。男爵閣下」
町長は少し不安げに克己たちを迎えた。
「夜遅くにすまないね。明日はお互い休もう。港へは明後日行けば良い」
克己は町長を見て笑む。
「お気遣いありがとうございます。しかし、そうもいかないんでございます」
町長は困ったように克己を見る。
「何か困ったことでも?」
克己は町長を見る。
「実は・・・」
町長のマクスウェル氏は語る。
近頃、漁師を狙った奇妙な事件が多発しているとのこと。
狙われた漁師は一時的、あるいは、永続的に聴力を失う。
周囲に異常は見当たらず、そのような伝承もないとのこと。
「漁師たちが暴れ出す前に原因を突き止めたいのです」
マクスウェルは克己を見る。
(何かの病気?自然現象?いや、ここは異世界だ。何か変わった生物がいるのかもしれない・・・)
克己は考える。
「明日、シスタートリーナと共に来ます。その時、また話を聞かせてください」
克己はマクスウェルを見る。
「わかりました」
役場から出た克己はトリヴァーズ別邸に向かう。
少し冷たい風が吹く港町を克己は見ていく。
町には白いコンクリートとレンガで建てられた建物があり、港には大小様々な木造船が停泊している。
「あれは・・・人魚?」
克己は真っ暗な岩場の上で月光に照らされてエメラルドグリーンの鱗が光るその姿を見つめる。




