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とあるエンジニアの備忘Log ― 新人SE、水瀬のデスマーチ記録 ―  作者: no name


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18/22

いよいよテスト開始

 コンビニから戻ると、執務室の空気はさっきより少し静かになっていた。

 定時を過ぎて一時間ほど。

 フロアにはまだ、ぽつぽつと人が残っている。

 遠くの席では誰かがキーボードを叩いている。

 別の島では、椅子にもたれたままモニターを見つめている人影もあった。

 完全な残業時間というほど遅くはない。

 だが、素直に帰れなかった仕事だけが静かに残っているような時間帯だった。


 水瀬たちが席へ戻ると、高橋が顔を上げた。

「戻ったか」

 短くそう言ってから続ける。

「先方と調整した。明日、十一時に対面で打ち合わせだ」

 その言葉を聞いた瞬間、水瀬は頭の中で時間を逆算した。

 十一時。

 そこまでに、遅延の検証結果を揃える。

 そして、それを説明できる資料にまとめる。

 言葉にすればそれだけのことだが、実際にはその“それだけ”が重い。


 水瀬は自分のメールを開いた。

 そこには先方からの連絡が届いている。

 明日十一時。

 対面での打ち合わせ。

 会議の予定がもう入っていた。

 もう、逃げ道はない。

 黒川がモニターを見ながら言う。

「決まりましたね」

 村瀬も画面を確認して頷いた。

「そうだな」

 そして続ける。

「つまり、それまでに報告できる材料を揃えるってことだ」

 高橋が腕を組みながら補足する。

「検証結果と、それを説明できる資料だな」

 その言葉を聞いて、水瀬の胸の奥に小さな重さが落ちた。

 十一時までに、数字を出し、説明できる形にする。

 それができなければ、この打ち合わせに出る意味がない。

 高橋は短く言った。

「時間はある。やれるところまでやろう」

 それだけ言うと、またモニターへ視線を戻した。

 村瀬が椅子を回した。

「もう少しで環境が出来上がるから、すぐテストできるように準備進めといてくれ」

 黒川が頷く。

「わかりました」

 水瀬も自分の画面へ視線を戻した。

 黒川の負荷テストツールの設定は、すでにある程度形になっている。

 水瀬の仕様書も、大枠はできていた。

 残っているのは、実際の検証結果を書き込む部分と、前提条件の整理だった。

 水瀬は仕様書の画面を開き、文章を見直していく。

 キューを使った構成。

 想定リクエスト数。

 検証観点。

 書いてある文章を読み返し、言葉を少しずつ整えていく。

 隣では黒川が負荷ツールの設定を見直していた。

 どの段階で負荷を上げるのか。

 ログはどこまで取得するのか。

 リソース監視のタイミングはどうするか。

 キーボードを叩く音だけが、静かにフロアへ広がっていく。


 水瀬は黒川に声をかけた。

「この値さ、このくらいでいいかな?」

 黒川は画面を見たまま答える。

「もうちょい上げよう」

「上げる?」

「先方が想定してる負荷、たぶんこの倍くらいある」

「倍?」

「うん。安全側で見といた方がいい」

 水瀬は頷いて、仕様書の数値を書き直した。

 眠さはまだ体の奥に残っている。

 だが、不思議と手は止まらなかった。

 やることがはっきりしているぶん、迷う余地がない。

 村瀬はその間も環境の立ち上げを進めていた。

 ログが流れる。

 設定を確認する。

 また別の画面を開く。

 時々、小さく唸りながらも、手は止まらない。


 それから一時間ほど経ったころだった。

 村瀬が椅子の背にもたれ、小さく言った。

「環境、立ち上がった」

 黒川が椅子を寄せる。

「じゃあ、流します」

 水瀬も仕様書の画面を開いたままモニターを見る。

 村瀬が言う。

「最初は軽めでいい。まずはちゃんと通るか確認しよう」

「了解です」

 黒川がテストを流す。

 数秒の沈黙。

 やがてログが流れ始めた。


 リクエスト。

 レスポンス。

 キューの件数。


 数字が画面の中で動き始める。

 村瀬が画面を見ながら言った。

「……通ってるな」

 黒川も頷く。

「うん、大丈夫そう」

 水瀬は画面を見ながら、仕様書の構成を確認した。

 結果を書き込む欄は用意してある。

 だが、まだそこは空白のままだ。

 本番の検証は、これからだった。

 村瀬が姿勢を戻す。

「よし」

 一拍置いて言った。

「テスト、開始していこう」

 そこからは忙しくなった。


 負荷をかける。

 遅延を確認する。

 ログを見る。

 サーバのリソースを確認する。

 CPU。

 メモリ。

 キューの滞留。


 確認するべき項目は多い。

 だが、不思議と現場は落ち着いていた。

 黒川はツールの設定を調整しながらログを確認し、

 村瀬は環境側の状態を見ながら必要な情報を拾っていく。

 水瀬はその結果を資料にまとめる準備を進めていく。

 試験は、静かに、しかし確実に進んでいった。


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