24 休憩しよう
(他のわんこたちは、毎日同じ作業の繰り返しでも辛くなったりしないのかな……?)
ふと浮かんだその疑問が頭から離れず、俺は作業の合間を縫って、それぞれ仕事中のわんこたちに聞きに行ってみることにした。
まずは、パン屋で黙々とパン生地をこねているダックに話しかけてみる。
「なあ、ダック。
毎日同じ作業ばかりで、飽きたり辛くなったりしないか?」
「ん? 別に辛くはないぞ。
パンが焼き上がる時の香ばしい匂いが好きだしな!」
豪快に笑うダックを見て少し安心した俺は、次に牛小屋にいるチビの元へ向かった。
「チビ、同じ作業の繰り返しで疲れてないか?」
すると、チビは目をキラキラと輝かせて振り返った。
「いえ、どのお仕事でも楽しいですよ!
お仕事をがんばると、農園がどんどん発展してうれしいです!」
(や、やばい……!
特にチビが完全な仕事中毒だ……!)
チビの眩しすぎる笑顔に、俺は背筋が凍りついた。
元の世界のブラック企業にもいたのだ。
「仕事が楽しくて楽しくて!」と笑いながら連日残業し、目は完全に据わっていて、最終的には体を盛大に壊して入院してしまった先輩が――。
(どうしよう、このままじゃまずいぞ……!
チビもあの先輩みたいに倒れるようなことになったら……!)
頭を抱えてあわあわと焦っていると、後ろから落ち着いた声が届いた。
「どうしましたか、ポチさん?」
「トイ……! 実はな……」
俺は必死の形相で、チビたちが働きすぎて倒れてしまうかもしれない恐怖をトイに相談した。
するとトイは、優しく微笑みながら、さらりと言い放った。
「ああ、そういうことですか。
安心してください。
俺たちはゲームシステムで動いていますから、仕事に飽きるとか疲れるとか、体を壊すといった概念はないですよ」
「め、メタぁ……!」
あまりにも身も蓋もない理由に拍子抜けしてしまう俺。
言われてみれば確かに、俺自身も同じ作業ばかりでも気疲れはしても体は疲れない。
前世の現実世界の記憶がある俺とは違って、このゲームの世界で生まれたチビたちは、きっと気疲れもしないのだろう。
「じゃあ……作業の合間に休憩を入れようかなと思ったけど、必要ないのかな?」
「システム的には必要ありませんね。
ですが……ポチさんが『休憩が欲しい』と思うなら、作ればいいと思いますよ。
ポチさんがこの農園の――俺たちの群れのリーダーなんですから」
トイの温かい言葉に、俺はハッとさせられる。
そうだ、システムがどうであれ、俺がみんなと休みたいのだから休めばいいんだ。
「よし、全員集まってくれ!
これから休憩にするぞ!」
みんなを呼んで休憩を告げると、「休憩!?」と一瞬驚かれたものの、「いいですね!」とみんな嬉しそうに集まってくれた。
俺は倉庫から冷えた牛乳を1本取り出すと、自宅のキッチンでコップに注ぎ、お盆に乗せて持ってきた。
「はい、新商品の牛乳だ。
みんなで飲もう!」
青空の下、みんなで立ったままで冷えた牛乳を口にする。
「う、うまい……!」
紙パックに入っているから普段飲んでいたスーパーで一番安い牛乳の味を想像していたけど、実際には牧場で飲む牛乳のように濃厚で、しかも冷えていて最高だった。
チビは小さな両手で大事そうにコップを抱えてちびちびと飲み、ダックは片手を腰に当てて豪快に一気飲みしている。
その対比がなんだかおかしくて、胸がほっこりと温かくなった。
(うん、やっぱり休憩を入れるのはいいな)
農園を発展させるのが楽しすぎて、知らず知らずのうちに必死になりすぎていたのかもしれない。
だけど俺は、あの過酷なブラック企業勤めから転生してきたのだ。
せっかくの農園生活なんだから、焦らず楽しく、マイペースにやっていこう。
美味しそうに牛乳を飲む仲間たちを眺めながら、俺は改めてそう心に決めるのだった。




