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わんこ農園にようこそ! 〜スマホゲーム世界に転生した俺の愉快な日々〜  作者: 鳴神楓
第1章 わんこ農園にようこそ!

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19/23

19 チビのお休み

しばらく時間が進みます。



 そんなふうに、ゲームバランスの悪さにちょいちょい文句を言いつつも、毎日少しずつゲームを進めていった。


 今では最初の頃の何もない原っぱが嘘のように畑や生産施設が増え、空き地の方が少ないくらいになっている。

 仲間のわんこも、小型犬から中型犬、さらには大型犬へと次々に増えて、ずいぶんと賑やかになった。

 コインもかなり貯まったので、ダックが欲しがっていた犬用の遊具の他にも、人間サイズのすべり台やブランコも思い切って購入し、農園の一画を公園のように整備している。

 時々、昼間の自動操縦の作業を中断して休憩を挟み、人間サイズの状態でみんなで楽しく遊ぶような、そんな心と時間の余裕もできるようになっていた。


──────


 そうやってみんなで毎日楽しく暮らしていた、ある日の朝のことだ。

 仲間が増えたことで、すっかり大きなダイニングテーブルに変わった食卓についた時、いつも隣にいるはずのチビの姿がなかった。


「あれ、チビは……?」


 おかしいと思いつつも、他のわんこたちがいつもと同じように朝ご飯を食べながら一日の作業の打ち合わせを始めたため、なんとなく聞きそびれてしまった。

 朝食からのラジオ体操が終わり、そのままみんなが作業に入ろうとしたので、慌ててみんなにチビのことを尋ねる。

 するとダックが前に出てきて口を開いた。


「チビなら産休に入ったぜ」

「さ、産休? えっ、てことは妊娠……!?

 え? え? チビってメスだったのか!?」


 突然の単語に俺がパニックを起こしていると、ダックは不思議そうに首を傾げた。


「いまさら何言ってるんだ?

 俺たちわんこにオスとかメスとかないぜ。

 ポチ、お前だってそうだろ?」

「は?」


 言われて、俺はハッとして自分のオーバーオールの上から股間に手を当ててみた。

 ──ない。

 あるはずのものが、綺麗さっぱり、何もない。


 そういえば、このゲームの世界に転生してから一度もトイレにも風呂にも行ったことがなかった。

 そもそも必要性がなかったから完全に盲点だったが、まさか身体の構造自体がそうなっていたとは、今まで気にしてもいなかった。

 きっと俺自身がすっかりゲームの世界の一部として組み込まれているせいで気にならなかったのだろうけど、気づいてしまうと衝撃の事実だ。


「チビの産休について、スマホに通知が来てるはずだから確認してくれ」


 ダックに促されて大慌てでスマホを取り出し、通知画面を開く。

 そこには『お知らせ:チビの産休・育休について』というシステムメッセージが届いていた。


 読むと、チビが妊娠したため本日から産休および育休に入ること、その期間中はチビは人間サイズになれず犬の姿のままで過ごすこと、そして不在の間はダックが代わりにメインのサポートキャラクターを務めること、などが淡々と書かれている。


「というわけで、チビが産休の間はよろしくな。

 まあ最近はポチも仕事に慣れて、サポートキャラクターの仕事もそうないけどよ」

「あ、ああ、よろしく……。

 なあダック、チビは今どうしてるんだ?」

「家で休んでるぜ」


 それを聞いた俺は、みんなには今日の作業に入ってもらうように声をかけて頼み、一人で急いで家へと戻った。


 静かな家に入ると、リビングの犬ベッドの上に、小さな犬の姿のチビがちょこんと丸くなって休んでいた。

 近づいてよく見てみると、心なしか、いつもより少しお腹がふっくらと大きくなっている気がする。


「チビ、妊娠したんだってな。

 えーっと、おめでとう」


 俺が声をかけると、チビは嬉しそうに、だけど心なしか少し気恥ずかしそうな様子で小さく尻尾を振った。


「ゆっくり休んで、元気な子を産んでくれよな」


 俺の言葉にうなずいているチビを見ながら、ふと疑問がわいた。


「そういえば……妊娠ってことは、父親がいるんだよな?

 ……その、誰なのか聞いてもいいか?」


 じっと見つめるが、チビはただ可愛らしく小首をかしげるだけだった。


「あっ、そうか。

 犬の姿だから今は喋れないよな。ごめん」


 チビの父親が一体誰なのか、正直もの凄く気にはなる。

 かと言って、外で働いているわんこたちに「お前が父親か?」と一人ずつ聞いて回るのもおかしな話だし、そもそもシステム的にどういう扱いなのかも分からない。

 結局、俺はそれ以上の追及を諦めることにしたが、なんだか妙に複雑な気分のまま、チビの寝顔を見つめることしかできなかった。



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